ソフトバンクもAI導入で失敗していた――「3+1の壁」を突破した今だからこそ言えることSoftBank World 2017(1/2 ページ)

AIを継続的に生かすには「3+1の壁」の突破が欠かせないという。「Softbank Brain」の活用事例から見えてきたものとは。

» 2017年07月21日 07時00分 公開
[田中宏昌ITmedia]

AIに過度の理想を求めてはいけない

「AI(人工知能)の導入には“3+1の壁”がある」

photo AI導入のポイント

 ソフトバンクグループが開催した年次イベント「SoftBank World 2017」で、ソフトバンクのAI「Softbank Brain」にまつわる失敗談と活用事例が披露された。どこに課題があって、どこで失敗し、どうやってそれを乗り越えてきたのか……。ソフトバンク 法人事業戦略本部 戦略事業統括 エヴァンジェリスト 立田雅人氏が、AIに対する理想と現実をリアルに語った。

 2016年7月に、IBMのコグニティブシステム「Watson」をベースにした社内AI「Softbank Brain」を導入してから1年が経過した。現在、ソフトバンク社内では40ものAIプロジェクトが走っており、今回紹介された「モバイル業務アドバイザー」もその活用事例の1つだ。

photo ソフトバンク 法人事業戦略本部 戦略事業統括 エヴァンジェリスト 立田雅人氏

 システム構築の発端となったのは、法人向け営業にアンケートを行ったところ、商談準備のために社内で情報収集にかけている時間が、平均して40分も余計にかかっていたという結果が判明したことだ。Softbank Brainを活用すれば、スマホに話しかけるだけで商談に必要な情報が引っ張り出せたり、提案に対してアドバイスをもらえたり、必要な社内手続きが簡単に済ませたりできるので、浮いた時間をさらなる提案に回せるのでは……と考えた。

photo スマホに話しかけるだけで、さまざまな業務課題を解消できるのでは……と、当初はAIには過大な期待を寄せていたという

 立田氏は「Softbank Brainの導入にあたって、業務での利用シーンを想定した動画を作ったが、実際にはデモでしか使えなかった。2016年7月にSoftbank Brainを社内でリリースしたものの、3カ月たつと営業で使っている人が誰もいなかったほど」と失敗談を吐露した。その状態から、改善に取り組んだ中で気が付いたのが「乗り越える“3+1”の壁だ」と立田氏は説明する。

photo AI導入に避けて通れない「乗り越える“3+1”の壁」

 立田氏は「AIに限った話ではないが、ITの社内導入には3つの壁がある。順に『検討の壁』『構築の壁』『導入の壁』で、中でもAI導入で一番のポイントになるのが、最初の検討の壁だ」と強調した。

 ソフトバンクでも、要件検討を繰り返してしまい、業務への導入決定までに9カ月もかかってしまったという。この失敗で、「まずはAI(Watson)の得意分野をきちんと理解して、さまざまな業務課題からスコープを絞ってから要件定義をしないと、無駄に時間がかかってしまう」(立田氏)という教訓を得た。

photo AIでは、最初の“壁”となる検討フェーズが一番大事だという

 次の壁となる「構築の壁」では、「学習データの作成で手痛いミスを犯してしまった」と立田氏は振り返る。実際にAIを利用する営業メンバーの声を聞かず、オーバーヘッド部隊の事業戦略部門が営業現場を想定して学習データを作ってしまい、そのデータはほとんど使い物にならなかったとのこと。「机上の空論ではなく、営業現場のデータを集めてからやらなければならなかった」(立田氏)

photo 「構築の壁」では、生きた学習データを作成しないと使い物にならない

 続く「導入の壁」で立田氏は、「これまでのIT導入プロジェクトとは全く異なる考え方が必要で、AIに最初から完成形を求めてはいけない。継続的にブラッシュアップしていくことが非常に大切であり、小さく始めて大きく育てるのが肝要だ」と言う。

photo AIに対して過度な理想を持ちすぎていたのが失敗要因で、最初から完成形を求めずに徐々に育てていくのがポイント

AI導入ならではの“大きな壁”とは

 「とりあえずAIを入れろというお客さまはいまだに多いが、無理に導入しても、やはり2〜3カ月で使わなくなってしまう。AIには『定着の壁』という大きな壁がある」と立田氏は指摘。前述のように、ソフトバンク社内でも同様の過ちを犯してしまったが、そこでの気付きとして「営業が本当に困っていることを理解せず、実は検討の壁を乗り越えていなかったのが最大の問題だった。検討の壁が非常に大事で、極端に言えばAIでなくてもいいのではといえるくらい、本当に必要なのかを考えなければならない」と反省を踏まえて語る。

photo AIを現場に定着させるべく、再び検討の壁に挑戦した
photo 現場のニーズを分析し、「モバイル業務アドバイザー」を新たにリリースした

 そこで定着の壁を乗り越えるべく、再度検討を行って現場の課題を分析し、ニーズの高かった「業務情報」ブレーンに該当する「モバイル業務アドバイザー」を新たにリリースした。

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