月の半分以上がExcel作業 そんな住友林業のバックオフィスをRPAで変えた情シスたち(2/2 ページ)

» 2018年01月09日 13時00分 公開
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RPA開発の主役は非エンジニア、その理由は

 こうして無事、検証のための予算が下りたことから、成田さんはまず、住友林業情報システム社内での検証を開始した。とにかく、即効性のあるロボットをたくさん開発してナレッジを蓄積し、効果を実証しようと考えた。

 ロボットの開発担当に選んだのは、PCには詳しいがプログラマーでもSEでもないスタッフ。本当にプログラミングができなくてもロボットをつくれるかどうか検証するためだ。

 導入の際に意識したのは、ロボットによる効果を明確にすることと、楽しんでロボットをつくること。3人の開発メンバーそれぞれに、「君たちのミッションは、業務効率○○時間の効果出すこと」といった明確な目標を設定し、ロボット化する前と後で作業時間がどれだけ減ったのか、それを人件費に換算するとどれだけのコストダウンになるのかを徹底的に可視化した。そうすると“どれだけ現場の役に立っているか”が分かるため、開発メンバーのやる気に火がつき、互いに開発数を競うようになった。

 それからの3人は、現場に出向いて次々とロボットを開発。1年かけてアクセス解析やデータ収集、申請書の電子化、定期メール配信など、約26業務70超のロボットを開発し、月間約160時間の人手による作業の削減を達成した。

Photo パイロット導入を終えた開発チームは名前を「ロボ・ラボ」に刷新。メンバーは「バックオフィス三銃士」として活躍している
Photo どれだけロボットを開発したかが分かるバッジもつくった。ロボ1体で歯車1つ、5個で金の歯車がもらえる
Photo パイロット導入でRPA導入の仮説を実証でき、一定の効果が得られた

即効性があるロボットを短期間でたくさん投入できた理由

 1年という短期間で一定の成果を上げた成田さんたちのロボット開発だが、その裏にはさまざまな工夫があった。「一番のポイントは、業務全体を見直すのではなく、作業の部分最適をすることでした」(成田さん)

 業務全体を最適化しようとすると、まず、その業務に関わる部署の人たちが集まって話し合うところから始まる。そこでは、「マニュアルはあるの?」「この業務の意味は?」といった質問が飛び交い、揚げ句の果てには「何でこんなことやっているのか」という話になることもしばしばで、話が先に進まなかった。

 「それぞれの立場から、レイヤーも粒度も異なるいろいろな話が出てきてしまって、全く先に進まないんです。こんなことをしていたらいつまでたってもロボットを作れないと思って方法を変えました」(成田さん)

 成田さんのやり方はこうだ。効率化したい業務があったらまず、そのプロセスに沿って、それぞれの担当者にどんな作業をしているのかを聞きに行く。「チェックシートを作り、具体的な作業の流れと、どの作業にどれだけの時間がかかるのか、どんな繰り返し作業があるのかをヒアリングして可視化します。業務の途中で作業者が変わる場合は、その人に聞きに行きます」(同)。そして、“すぐ自動化できる作業”をロボット化した。

Photo 即効性を重視した住友林業グループのRPA展開。業務を作業に分解し、できる作業からロボット化する
Photo 作業フローをヒアリングして制作仕様を策定
Photo 仕様に従ってロボットを部品化する

 成田さんによれば、こんな作業がロボット化に向いているという。例えば毎日15時に経理部門で入出金の確認業務をしているとする。仮に確認すべき銀行口座が20口座あれば、入出金の履歴と残高とを確認するという単純作業を20回繰り返すことになるので、そこをRPAに任せる。作業は同じなので確認する口座の順番を決めて、ロボットが各口座にアクセスして確認するようにすれば良いというわけだ。

 「業務の全てのプロセスを一挙に自動化しようとするから進まないのであって、できるところからやればいいことに気がついたのです。自動化したほうが良いものをRPAに任せ、人間がやるほうがよいものは無理に自動化しなくてもいい」(成田さん)

 このくらいの作業ならば2〜3日もあれば開発でき、30分掛かっていた作業が2分くらいで済むようになる。そこで効果が実証されたら、同じような作業を行っている部署に横展開していく――という方法で進めた。

 実はこのやり方にはもう1つ、メリットがあった。開発者が「必ずしも業務プロセスを理解しなくてもいい」という点だ。

 もちろん、ITを使って業務の効率化を進める場合、IT部門のスタッフが業務の意味や内容を理解しているに超したことはない。ただ、そうすると業務を理解するまでに時間がかかり、すぐ対応しようとすると上流工程を手掛けるようなエンジニアしか対応できなくなってしまう。

 「それだとコストが上がってしまい、当初目指していた“安くて即効性のあるRPA”という理想から離れてしまうのです」(成田さん)

 即効性を重視する成田さんは、「ロボットは業務を理解するものではなく、作業を理解するもの」という発想で開発を進め、ロボットに操作をたたき込むことを第一に考えた。

 「うちのロボットの開発担当者は、現場で作業する人からマンツーマンで作業の操作を教えてもらい、それをキャプチャーするのが仕事。だからエンジニアじゃなくてもできるし、人的コストも安く済む。その上、短期間で効率化に効くロボットをたくさん投入できるのです」(同)

 これなら業務全体を俯瞰する必要も、業務のあるべき姿を理解する必要も、業務知識も必要ない。必要なことは、「その業務に携わる現場のスタッフが『面倒だなぁ』と感じている作業を洗いだし、自動化すること」なのだ。


 こうしてRPAによる効率化の取り組みは一定の成果を上げたが、成田さんは今、新たなロボットの開発をストップしている。後編ではその理由に迫る。

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