Amazonに見るデジタルトランスフォーメーションの神髄Mostly Harmless

デジタルトランスフォーメーション(DX)は、これまでの仕事のやり方をいったん破壊して、「IT/デジタル技術が存在しているという前提で新たに構築し直す」ということ。それを体現し、成功したのがAmazonなのではないでしょうか。

» 2018年06月25日 07時00分 公開
[大越章司ITmedia]

この記事は大越章司氏のブログ「Mostly Harmless」より転載、編集しています。


 デジタルトランスフォーメーション(DX)は今や、企業にとって不可避な取り組みに位置付けられつつあります。

 DXという言葉自体は、けっこう古くからあるようです。Wikipediaでは、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」「概念的には既存ビジネスをアナログからデジタルへ、デジタルからアナログへとシームレスに変換できる組織への変革」と説明しています。ちょっと抽象的で分かりづらいですね。

 ネットコマースの齋藤氏が『SI事業者/ITベンダーのための デジタルトランスフォーメーションの教科書』という電子書籍を公開していて、その中でDXの第3フェーズとして

人間が働くことを前提に最適化された業務プロセスを、機械が働くことを前提に最適化された業務プロセスへと組み替え、さらなる効率と品質の向上を実現する。


と書いています。この説明のほうが分かりやすいかもしれません。

 これまではIT化というと、「これまでやってきた仕事をそのままITに置き換えて効率化する」ことでした。いわば、書類の流れをデータに置き換えただけのものです。もちろんそれでも、大幅な効率化につながったことは間違いありません。

 しかしDXは、それまでの仕事のやり方をいったん破壊して、「IT/デジタル技術が存在しているという前提で新たに構築し直す」ということです。これは、具体的な例がないと、イメージしづらいのではないかと思います。

AmazonこそがDXの元祖ではないか

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 その点で参考になるのが、Amazonではないかと思っています。書籍販売という昔ながらのビジネスモデルに、インターネットを中心とし、デジタルを前提とした全く新しい業務プロセスを構築して組み込み、その後も改革を続けているからです。

 Amazonの創業は1994年。なんと「Windows 95」が出る前です。インターネットにクレジットカード番号を入れるなんてとんでもない、といわれていた時代ではなかったでしょうか。それでもジェフ・ベゾス氏はインターネット上の通販に巨大な可能性を感じたのです。こちらには、ベゾス氏がECに向いた商材20種類の中から「本」を選んだことが書かれています(20種類が何だったのか興味がありますが、ちょっと調べた限りでは見つかりませんでした)。

 初期のAmazonが成功したのは、「本」という、ECに向いた商材を最初に扱ったことも大きいと思います。本なら実店舗で売っているものと同じものが手に入り、検索にも向いているからです。

 しかし、だからといって本のネット通販が全て成功したわけではありません。この頃、既存の大手書店がいくつもECに参入しましたが、多くは失敗しました。

 これは、既存の事業者はECを「既存店舗の延長」や「新しい流通チャネル」としか考えていなかったのが原因ではないでしょうか。在庫・発注体制や物流についての抜本的な見直しを行わず、既存の仕組みの上にショップを構築したのではないかと思います。

 しかし、Amazonは違いました。既存店舗を持たなかったことが強みとして働いた面もあるでしょうが、発想が根本から違ったのではないかと思うのです。最初から目標は「インターネット経由で本(そしてその他のもの)を販売する」ことだったわけで、当然、会社の仕組みも業務プロセスも、デジタル前提にゼロから組み立てられたものでしょう。ECという、全く新しい試みに、既存の仕組みに縛られることなく取り組んだのです。

 さらにAmazonは、「Kindle」で本に関わる物流そのものを不要にしてしまいました。これも、デジタル中心の考え方でなければ出てこないアイデアでしょう。

DXでは「Winner takes all」が成り立つ

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 そして今や、ECにおける購入体験はAmazonが基準となり、それより体験が劣るECサイトで成功するのは難しいでしょう。Amazonよりも良い体験を提供しなければ、Amazonには勝てないのです。

 デジタルの世界は先行者のレバレッジが効きますから、いったん引き離されたら、ひっくり返すのは至難の業です。これは、昨今の米流通業界の惨状を見ても明らかです。

 同じことが、これからビジネスのあらゆる分野で起きる、もしくは起きつつあるのです。乗り遅れると、致命傷になるかもしれません。

著者プロフィール:大越章司

外資系ソフトウェア/ハードウェアベンダーでマーケティングを経験。現在はIT企業向けのマーケティングコンサルタント。詳しいプロフィールはこちら


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