テクノロジーは人間の能力をどこまで「拡張」できるか――超人スポーツ稲見氏と元アスリート為末氏が語る(1/5 ページ)

AIやロボティクス技術の進化は、人間の能力を補うだけではなく、人間が本来持つ能力を超える力を引き出すだけの可能性を秘めている。技術革新とスポーツの関係性、そして技術が人間の能力を拡張する意義について、東京大学の稲見氏と元アスリートの為末氏が語る。

» 2018年06月28日 09時00分 公開
[柴田克己ITmedia]

 AIやロボティクス技術の進化は、人間の能力を補うだけでなく、人間が本来持っている能力以上の力を引き出すことを助けるものとなりつつある。実際にオリンピック、パラリンピックといった競技スポーツの世界では、そうした技術による能力拡張が新たな議論も巻き起こしている。

 2017年5月に日本マイクロソフトが開催した技術者向けイベント「de:code 2018」では、東京大学先端科学技術研究センター教授の稲見昌彦氏と、元陸上選手で、現在はスポーツコメンテーターや指導者として幅広く活動する為末大氏が対談を行い、技術革新とスポーツの関係性、そして人間の能力を技術で拡張することの意味について、意見を交わした。

photo 東京大学先端科学技術研究センター教授の稲見昌彦氏(左)と元陸上選手の為末大氏(右)

人間の能力も障がいも超えさせる、テクノロジーの可能性

 稲見氏は、『攻殻機動隊』の世界を現実に作り出したとして話題を集めた「再帰性投影技術による光学迷彩」の開発者であり、現在は「超人スポーツ協会」の代表も務める。同氏は、自らが取り組む「人間拡張工学」を、人間の能力を技術で拡張することを目指す学問領域であると紹介した。

 人間の能力を技術で拡張するという場合、一般的な人間をしのぐ能力を持った“超人”を工学的に生み出すという側面が注目されがちだが、その応用範囲はより広い。先天的な要因や後天的な事故などで身体機能の一部を失ったり、老化によって能力が低下したりした人を、機器や情報システムを通じてサポートするといったことも対象に含まれるのだ。そうした背景から、社会的な関心が急速に高まっている領域でもある。

 「テクノロジーそのものが持つ面白さという側面はもちろんあるが、それを社会にどう実装していくかという観点で研究を行っている」(稲見氏)

 一方の為末氏は、陸上スプリント競技のアスリートとして数々の実績を持つ。同氏の現在の関心は「スポーツを通じて、人間をいかに理解するか」にあるという。

 為末氏はオリンピック、パラリンピックの歴史を振り返りながら、選手の「ダイバーシティー」が広がってきていることに言及。特に近年では、2016年に開催されたリオデジャネイロ・パラリンピックの男子走り幅跳びにおいて、義足を着けたドイツのマーカス・レーム選手が8メートル21センチという記録で優勝したことが「義足のアスリートが健常者と互角以上に競える時代が来た」という意味で印象的だったと話す。

 一方で、障がいのある人が「器具による補助」を得て達成した記録を、スポーツ競技としてどう取り扱うべきかについても議論が起こっているという。

 「スポーツの歴史において、道具や器具は『人間を助ける』だけでなく、『人間に負荷をかける』ことで人間自身を鍛えるといった役割も担ってきた。テクノロジーによる能力の拡張という意味では、今後『人を助ける』という視点と『人を鍛える』という視点が重なりながら、可能性が広がっていくのではないかと期待している」(為末氏)

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