褒めない上司、ダメ会議をITの力でしなやかにたたき直す? SI営業「チタン女子」の働き方改革(1/3 ページ)

なぜ、営業女子は、結婚や出産を機に現場を離れてしまうのか――。そんな課題をITの力で解決しようと立ち上がったのがNSSOLのSI営業「チタン女子」。ブロックチェーンやしゃべるクマを使って、どのように働き方を変えたのか。

» 2018年08月13日 07時00分 公開
[やつづかえりITmedia]

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 あなたの周りに、“長年活躍し続けている営業ウーマン”はどれくらいいるだろうか? 20代前半の元気な女性営業の顔は何人か思い浮かんでも、中堅やベテランとなると、数がぐっと減ってはいないだろうか?

 実際、ハードワークや長時間労働で疲弊し、結婚や出産といったライフイベントを理由に現場を離れる営業職の女性も多く、大手SI企業として知られる新日鉄住金ソリューションズ(NSSOL)も例外ではなかったという。

 そんな中、この問題に当事者として向き合い、技術の力を借りて女性が営業の仕事を続けていける環境を作り出すことを提案した女性たちがいる。NSSOLの女性営業スタッフ6人が中心となって結成したチーム「チタン女子」だ。

 チタン女子は、女性営業職が抱える問題の解決を目指して複数社が共同で取り組むプロジェクト「新世代エイジョカレッジ」への参加を目的に結成されたチーム。2014年に7社で始まった新世代エイジョカレッジは年々拡大し、これまでに延べ参加企業は61社を数え、参加した営業女性(エイジョ)は444人に上る。

 企業からエイジョカレッジに送り込まれたエイジョ(営業職の女性)たちはチームを組み、自分たちが抱える課題を解決するための施策を企画し、1カ月以上にわたる実証実験を行って、その結果を提言にまとめる。その内容が2回の事務局審査を通過すると最終プレゼンの権利が得られ、そこで大賞が選ばれる。2017年に21社、38の取り組みの中から大賞を獲得したのが、初参加の「チタン女子」だった。

 営業職の中でも特に女性が少ないSI分野の女性営業として、彼女たちは何に悩み、実証実験を通じて何を得たのか――。チームのメンバーに話を聞いた。

Photo 新世代エイジョカレッジで大賞を獲得したチタン女子のメンバー6人

部内に女性が少ない、ロールモデルがいない……SIerの孤独な女性営業たち

Photo 産業・流通ソリューション事業本部の諸信慧さん

 チタン女子のメンバーは、社会人歴5年から10年目くらいまでの女性たちで構成される。所属する部署はそれぞれ異なり、普段は「女性の同僚と話す機会がほとんどない」というメンバーも多い。

 「日頃は部内に女性が1人という状況で、男性スタッフたちがタバコ部屋で楽しそうに話しているのを横目で見ながら、『女性の営業同士でお茶しながらいろいろな話ができたらいいだろうな』と思っていました。エイジョカレッジに参加することで、その後も継続して連絡を取り合えるような仲間を作れるのではないかと期待していました」(産業・流通ソリューション事業本部の諸信慧さん)

 ITインフラソリューション事業本部の秋田有美さんは、6人の中で唯一のワーキングマザー。これまで二度の育休を経て営業職を続けており、女性営業担当者のあいだでは「子育てしながら、営業として働き続ける女性がいる」と、「うわさの人」だったようだ。しかし、当の秋田さんは、社内にロールモデルがいなかったことから、不安が大きかったという。

Photo ITインフラソリューション事業本部の秋田有美さん

 「私自身はずっと営業の仕事を続けたいと思っていたのですが、育休明けには『今の時期は他部署に異動した方がいいんじゃないか?』という話もありましたね。もちろん、これは善意からの配慮なのですが、私の思いは違っていたんです。ただ、『異動したくありません。営業がいいです』と言ってはみたものの、子育てをしながら営業職を続けられるのか……という不安や迷いもありました。

 エイジョカレッジの最初の打ち合わせは、2回目の育休から復帰してちょうど1カ月くらいたった頃。子育てと営業の仕事を両立できるか不安になっていたので、エイジョカレッジの活動が自信や前向きな気持ちを持つきっかけになれば、と思っていました」(秋田さん)

忖度しない新人営業「くまちゃん」でダメ会議が一変?

Photo ダメ会議を一変させる? 新人営業「くまちゃん」

 2017年の実証実験のテーマは、「次世代型営業モデルの創出(「顧客価値の追求」×「生産性向上」)」だった。これに対して「チタン女子」は、異なる切り口の案を2つ出し、3人ずつのサブチームに分かれてそれぞれを担当した。

 諸さん、秋田さん、黒澤恭子さんが担当したのは、しゃべるクマのぬいぐるみが会議の生産性向上をサポートする「実験!会議室」という企画だ。

 社内の3つの会議室に「営女 くま」という社員証を付けたぬいぐるみが常駐し、事前に会議の目的や終了時間、参加人数を入力しておくと、会議中にクマが発言の少ない人に発言を促したり、会議終了の5分前に終了時間と会議の目的をリマインドしたり、会議のまとめをする人を指名したりする――という仕組みだ。

 これにより、「せっかく良いアイデアを持っているのに、タイミングを逸して発言できない」といった状況をなくし、活発なコミュニケーションを促して良質なアウトプットを出すことと、参加者全員が会議に集中し、決められた時間内に目的を達成することを狙った。

 “会議の生産性向上”という企画に行き着いた経緯を、諸さんは次のように振り返る。

 「営業として忙しい日々を過ごす中で、将来、例えば子育てなど何らかの制約がある時に、今のように働けるのか? という漠然とした不安がありました。

 そこで私たちは時間に着目し、『これが短縮できたらかなりのインパクトがありそう』という業務を洗い出してみたんです。その結果気付いたのが、会議の重要性でした。私たちはモノを売っているのではなく、お客さまに(お客さまの課題に対しての)ソリューションを提案するような仕事をしている。だから人と人とのコミュニケーションが大事で、会議の無駄をなくし、質を高めることで生産性が向上すると考えたのです」(諸さん)

 ”おしゃべりするクマのぬいぐるみ”という発想は、企画のヒントを探しに社内の研究所を訪れた時に得た。すでにクマのぬいぐるみを使って実験していたエンジニアに出会い、その人に開発を依頼したという。

 開発期間の制限から、「音声認識で発言の少ない人を認識し、発言を促す」という機能は実現せず、「10分置きにランダムに発言者を指名する」という形になったが、実証実験を行った2カ月の間に100回ほどの会議で利用され、アンケートの結果、一定の効果が確認できたという。

Photo くまちゃんが会議に及ぼした効果。人に言われるとイラッとする指摘も「くまちゃんなら許せる」という声も

 実証実験の結果を見ると、「会議の場にぬいぐるみを置く」ということが、一見、とっぴな考えのようでありながら、実は深い意味を持つことが分かる。例えば、くまちゃんの存在自体がアイスブレイクのネタになれば、それが会議の活性化に役立つ。また、話したがりな人や声の大きい人の発言を抑えつつ、他の人に発言を促すことを社員がやろうとしても、遠慮したり気を遣い過ぎたりしてなかなかうまくいかないものだが、くまちゃんなら、忖度せず機械的に発言者を指名しても許される。これが、ファシリテーター役を“人ではなくロボットがやる”利点なのだ。

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