リスクを取って砂漠の中のオアシスを見つける、それがビジネス成長――アプレッソ 代表取締役社長 小野和俊氏長谷川秀樹のIT酒場放浪記(1/4 ページ)

安定したエンジニア生活から一転、アプレッソに代表取締役として引き抜かれ、ベンチャーの荒波にもまれることになった小野氏。「心が動いたらブレーキをかけない」をポリシーとする小野氏が編み出した、一点突破でスキルを伸ばしていく“ラストマン戦略”や、事業成長の見極め方、エンタープライズソフト市場の価値構築法とは?

» 2018年09月14日 07時00分 公開
[伊藤真美ITmedia]
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この記事は、「HANDS LAB BLOG(ハンズラボブログ)」の「長谷川秀樹のIT酒場放浪記」に2016年1月18日に掲載された記事を転載、編集しています。


 ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、どうすればエンタープライズ系エンジニアがもっと元気になるのか?という悩みの答えを探し、IT業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。

 今回のゲストは、アプレッソ代表取締役社長の小野和俊氏。サン・マイクロシステムズでの安定したエンジニア生活から一転、1年半後にはアプレッソに代表取締役として引き抜かれ、ベンチャーの荒波にもまれることとなった小野氏。気になるセゾングループ子会社化までの経緯も伺いました。

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XMLの“ラストマン”としてシリコンバレーに上陸成功

長谷川: そもそも小野さんがエンジニアを目指されたのは、どういった経緯からなんですか。

Photo アプレッソ代表取締役社長の小野和俊氏

小野: プログラミング自体は、子どもの頃に「N88-BASIC」などでやっていましたけど、本格的に取り組み始めたのは、大学に入ってからですね。環境情報学部というところに籍を置いていたんですが、知人が始めた「情報を縦横無尽にひも付けて調べられる仕組みができれば、自発的に学びを広げたり、深めたりしたりできるのでは?」というプロジェクトに参加して、教育系のソフトウェアを作ったりしていたんです。

長谷川: おお、「DataSpider Servista」(以下、DataSpider)の原型ってことですか?

小野: いや、DataSpiderの原型はそこではなくて、それと並行して大学2年のときに野村総研でリサーチャーのアルバイトをしていた時に作っていた自動巡回するプログラムです。テーマごとにネットなどで調査してレポートにまとめる作業を、はじめは手作業でやっていたんですが、人がやるより機械がやった方が効率的じゃないか、ファイルフォーマットの違いを感じさせずに自動でデータを連携できたらいいなと考えたのがきっかけです。

長谷川: それをもって学生ベンチャーなんて考えなかったんですか? '76年生まれといえば、起業している人が多いし、そもそもご出身のSFC(慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス)にもそういう雰囲気があったと思うんですが。

小野: うーん、当時は考えませんでしたね。そういう人も身近にいるにはいたんですが、自分には無縁のことと思って眺めてました。

 それよりも、とにかくシリコンバレーに行ってみたかったんです。ソフトウェアの世界に身を置いたばかりの人間には、当時のシリコンバレーはそりゃあ輝いて見えましたから。それも留学とかではなくて、仕事で中からのぞいてみたいと思っていたんです。

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長谷川: それでサンマイクロですか。確かに仕事でシリコンバレーに行けそうな期待感がありますが……。

小野: ええ、一番の近道のような気がしたんです。ところが「Java」と思って入ってみたら、アプリケーションをほとんど作ってなかったんですよね。「基本ハードの会社だから、Javaはその隅っこでやってる程度だから」と言われてショック!(笑)

長谷川: 小野さんらしからぬ(笑)、痛恨のミスですね。

小野: 本当に、どうしたものかなと。それで考えたのが「ソフトウェアの方でNo.1になること」でした。ソフトウェアをやっている人が少ないなら、ハードウェアでNo.1になるより早いだろう、チャンスが早く来るだろう、と考えたんです。

 さらに'98年に「XML」がジョン・ボザック(Jon Bosak)氏によってW3Cのレコメンデーションとして発表されたばかりでしたし、僕自身も野村でのバイトで触った経験もあったので、XMLが面白そうだなと。

長谷川: 「XMLといえば小野」と言われるようにしたわけですね。策士ですな〜(笑)。それでもくろみはうまくいったんですか。

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小野: おかげさまで。シリコンバレーで「XMLが詳しい人」というジョブローテーションがかかって、「日本にいるらしいぞ」ということになって、めでたく研修後は渡米ということになりました。

長谷川: それ、めちゃめちゃついてますよね。新入社員でシリコンバレー勤務なんて、そういないでしょう。

小野: 運じゃなくて、作戦勝ちですよ(笑)。

 そんな経験もあって、アプレッソの人事制度にも、以前から「ラストマン戦略」というのを掲げています。所属組織内で自分が一番になれそうなポイントを見つけて、それを実現したら対象を広げていくという方法です。

 サンマイクロでも、ソフトウェアでJavaくらい広いとかなり詳しい人がいたので、ラストマンになるにはごくニッチな部分か、誰もまだ手をつけていない部分に限られる。それが全体に対してどのくらいの影響力で、将来どうなるかに鑑みて、注力するポイントを選ぶわけです。

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長谷川: なるほどねえ。それはいい戦略ですね。

小野: アプレッソでも、入社したらまず、そのラストマン領域を決めるんです。すると、先輩に聞いてばかりでなくて、すぐに教える立場にもなれるでしょう。そうすれば、やりがいにもつながるし、プライドも生まれる。

 さらに会社も、スキルマップを作成して、どこをどう広げていけばいいのか可視化できるし、人材というリソースを効率的に振り分けていけますから。

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