インフルエンザを診断するAI、ディープラーニングで実現へ 医療機器ベンチャー「アイリス」の挑戦(1/2 ページ)

タイミングの制限があり、精度もそこまで高くはないインフルエンザの初期診断。これをディープラーニングで支援できないか、と挑むベンチャー企業がある。

» 2018年09月18日 08時00分 公開
[池田憲弘ITmedia]

 「すいません。頑張って来ていただいたのに申し訳ないのですが、明日また当院に来ていただけませんか?」

 病気を治したくて病院に来たのに、なぜか追い返されてしまう……読者の皆さんにもそんな経験はないだろうか。そう「インフルエンザ」だ。

 インフルエンザの初期診断は難しい。検査は一般的に、鼻や喉の粘膜を綿棒で採取して行うが、その精度は実は60%程度にとどまる。仮に「陰性だ」といわれても、インフルエンザだったという確率が4割もあるわけだ。さらに発症後24時間以上が経過しないと、その精度にすら達しない。高熱が出て、慌てて病院に行っても、冒頭のような医師の言葉で診察が終わってしまうこともままある。

photo インフルエンザの初期診断は有効な期間が短く、精度もそこまで高くはないのが大きな課題になっている

 こんな現状を変えようと、AIを活用したインフルエンザ診断の支援サービスを開発しようとしている企業がある。2017年11月に設立した医療機器ベンチャー「アイリス(Aillis)」だ。

 同社が着目したのは、「インフルエンザ濾胞(ろほう)」と呼ばれるインフルエンザに特有の喉の腫れだ。風邪をひいたときなどにも喉が腫れることがあるが、その腫れ方とは形状や色調が明らかに異なり、それを見分けることでインフルエンザを診断できる――代表取締役CEOの沖山翔さんは、2013年にそんな論文に出会った。

ディープラーニングで「インフルエンザ濾胞」を見分けるAIを

photo アイリス 代表取締役CEOの沖山翔さん。NVIDIAのカンファレンス「NVIDIA GPU Technology Conference Japan 2018」で講演を行った

 濾胞はインフルエンザの発症前からできているため、発症から24時間以上を経なくても診断が可能だ。医学部を卒業し、当時救急医などに従事していた沖山さんは、論文を基に濾胞を見分ける訓練を行ったが、どうしても精度が上がらなかったという。

 「論文では、99%以上の精度でインフルエンザを判定できるとあったのですが、自分が頑張っても75%くらいが限界でした。それもそのはず、論文を書いたのは、喉の診察を約40年も続けてきた医師なのです。いくら医師でも、少し練習したくらいではその領域に達せるはずもありません」(沖山さん)

 こうした医師の“匠の技”をどうにかして、汎用性の高いものにできないか……そこで沖山さんたちが考えたのが「ディープラーニング」の活用だった。

photo インフルエンザに感染した際、のどにできる濾胞は風邪をひいたときにできるものとは、形状や色調が異なるという

 濾胞を撮影するための内視鏡カメラを開発し、病院などでインフルエンザの疑いのある患者の喉の画像を収集。その患者に対して、精度が100%である「PCR検査(ウイルスの遺伝子を抽出する検査で約2週間かかる)」を行い、その結果を正解データとするAIをディープラーニングを使って開発する。そのAIを内視鏡カメラに組み込むことで、喉の画像からインフルエンザの感染を判定するという仕組みだ。

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