守備範囲が広がる企業パフォーマンス管理トレンド解説(14)(2/2 ページ)

» 2005年09月09日 12時00分 公開
[垣内 郁栄,@IT]
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業績を思うところに着地させるために

SAS Institute Japan 執行役員 EIPビジネス開発部 統括部長 桐井健之氏

 CPMを支えるシステムを構築するためのツールベンダの動きはどうだろう? BI大手のSAS Institute Japanの桐井健之氏はCPMの次の姿を「パフォーマンス・マネジメントの目的は、業績の結果を見るのではなく、思うところに結果を着地させることだ」と説明する。

 企業戦略を全部門に浸透させ、日々の改善を図るだけでなく、戦略的に企業のパフォーマンスを導く。そのための戦略、方法論、システムがCPMになるという考えだ。「結果をモニタリングして、次のプランに反映させるために、人の意思決定をどう支援するかがCPMには求められる」(同社 EIP ビジネス開発部 マネージャーで、公認会計士の平野曉氏)。

 SASの製品でCPMに対応するのはBSCのフレームワークを活用した「SAS Strategic Performance Management」。BSCの財務、顧客、内部プロセス、学習と成長の4つの視点から戦略マップを策定できる。

将来を予測するシミュレーションの威力とは

SAS Institute JapanのEIP ビジネス開発部 マネージャーで、公認会計士の平野曉氏

 SASがBeyond BIに基づく次世代のCPMで重要と考えるのはシミュレーションの機能だ。「日本では定量的な側面を持つ意思決定が少ない。こういうアクションを取ったらどういう結果になり、どういうリスクがあるのかといったシミュレーションが重要になる」(平野氏)。つまり、BSCなどが集める数値からに意味を読み取る──インテリジェンスによって「アクションを打つか、打たないかを決める」(桐井氏)。

 桐井氏はシミュレーション/将来予測の例として、欧州通信会社の事例を紹介した。この通信会社の先月の新規契約は3万人、解約は8000人、純増が2万2000人だった。この情報を基にSASのアプリケーションで将来予測を行う。具体的には顧客別ROIや顧客別解約確率を分析する。そうすると、解約した8000人は「優良顧客層」が32%で、通常の解約者と比較して多いことが分かる。失った顧客の今後3年の売り上げは約33億円の計算。解約したために粗利で約4億3000万円の減収となった。また、既存顧客の80万人のうち、今後3カ月以内に解約する可能性が70%以上の顧客は約5万8000人いることがシミュレーションで分かった。

 このシミュレーション結果をベースにどのようなアクションを採れるかを考える。SASのアプリケーションが弾き出すキャンペーンヒット率やマーケティングROIを基に考えると、2つのアクションが考えられる。1つは、解約確率が70%以上で今後売り上げ貢献が高いと思われる上位3万人に対して、解約防止の目的で追加サービスを特別価格で提案する。将来予測から分かる予想購入率は7%で、過去の実績から購入者の3年以内の解約率は3%未満。この施策を打つことで約2000人の解約を防止し、3年間で約14億円の売り上げを担保できる。施策の実施コストは特別価格の減収額を含めて約1.1億円。

 もう1つの施策は、解約確率が70%以上の顧客全員に対して、今後1年間利用し続けた場合に利用料の10%をキャッシュバックするキャンペーンを実施する。SASの将来予測ではこれによって解約を60%抑えることができ、1年間で約11億円の減収をなくすことができる。実施コストはキャッシュバックを含めて約2.1億円。

 施策を策定するための将来予測や、施策を実施した場合のシミュレーションは、SAS Strategic Performance Managementを使うことで分かる。そして、「最後に人間が、他社の動向や中長期的な企業戦略との整合性などをみて、判断する」(桐井氏)。新しい戦略の結果は、スコアカードに基づき、指標評価、組織評価、個人評価を行って、指標の修正や組織変更などのアクションにつなげる。

CPMを実現するために必要となる能力

 業績管理手法──とりわけBSCへの企業の注目は依然高く、試験的導入から本格稼働の時期に入ったともいわれる。これは全社最適化、経営効率化を目指す経営者の取り組みであることはもちろんだが、企業IT化の進展の帰結という側面もあるだろう。

 1990年代半ばからのインターネット普及によってPC1人1台環境が広がり、2000年問題では基幹システムの整備が進み、ITバブル期にはCRMSFASCMなどのシステム導入が盛り上がった。これにより、今日多くの企業では意思決定やコミュニケーション、業務オペレーションの結果は、企業システム内に履歴データとして残るようになっている。これらの散在するデータを集約して有効活用するというのが、今日的なCPMの目指すところでもある。従来の部分最適型システムのデータを“全体最適”に利用するためのツール市場には、SASに代表されるBI/データウェアハウス系のベンダのほかにも、ERPベンダやEAIBPMベンダが“参入”してきている。Webサービスの登場、普及もデータ/プロセス統合を大いに後押ししている。

 データ統合のツールやテクノロジがそろってきたことで、企業は従来以上に高度な“自己制御機構”を持つことが可能になってきたといえる。その点で、いままで以上に仮説検証力や業績指標設定力、そして実際に業務内容やプロセス、戦略を再構成する自己変革力などが重要になるだろう。本来の意味で、情報を活用する技術──インフォメーション・テクノロジが問われる時代になってきたようだ。



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