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» 2005年11月26日 12時00分 UPDATE

企業システム戦略の基礎知識(13):ウォークスルーで新システム、新業務のイメージ共有 (1/2)

コンピュータの専門家ではないユーザー企業の担当者であっても、発注企業として行うべき最も大切なことは、業務フローをはっきりさせることだ。今回はそのテクニックとしての“ウォークスルー”を解説する。

[青島 弘幸,@IT]

 前回までで12回にわたり、企業システム戦略の立案・実施に役立つ基礎知識として、そのポイントを各作業フェイズの順に一通り解説してきた。ここで成功への鍵となるプロジェクト管理について、発注企業の立場として押さえておくべき基礎知識を総括して解説する。まず今回は、ウォークスルーについてだ。ウォークスルーとは、芝居の立ち稽古(げいこ)のこと。台本を初めから終わりまで一通りに演じてみる稽古のことである。

 システムは目に見えない“業務”というものを対象として要件を考えなければならないので、当初の思惑と実際のシステムが異なるということが少なくない。そのような事態が、システムが完成し実用開始後になってから発覚すると手戻りの時間や費用に与える影響は甚大なものになる。

 これを避けるためには、仕様書が完成した時点で、関係者を集めウォークスルーを行うべきだ。ウォークスルーに必要なものは、業務フローと業務マニュアル、各業務プロセスで使用する画面や帳票のスケッチなどである。

台本は、業務フロー

 業務フローは、システム化した後の新業務フローだけでなく、従前の業務フローを併記したものがよい。新業務フローだけの場合、既存の業務フローに存在する重要なプロセスが欠けてしまっていることに気が付かない場合がある。特に、業務改革などで、トップダウン的に「あるべき姿」を追求して新業務フローを設計した場合に起こりやすい。従前の業務スタイルに縛られず、新しい発想で業務を根本的に改革するというのがトップダウン方式の目的であるため、従前の業務プロセスが、どうしてそうなっているのか背景や変遷の経緯を知らないか、あるいは分からなくなっている場合、不要なプロセスであると判断して削除してしまう。このような場合に、新旧業務フローを比較しながら、どこがどう変わったのかを確認することで、問題の早期発見ができる。

 さらに、業務フローには具体的な業務遂行のイメージがつかみやすいように、単にプロセスを並べるだけでなく「誰が、いつ、どこで、どのように、何を実行するのか」という5W1Hを具体的に業務マニュアルとして記述しておく。特にシステム化によって、業務プロセスが変更されると、「誰が」システムにデータを入力するのかが、後で問題となることが少なくない。全体最適を目的としてシステムを構築するということが頭では分かっても、現実に自分の仕事が増えるということを容易に受け入れられないのが人間だ。実際にシステムを実用開始する直前にもめるよりも、ウォークスルーの段階で事前に分かれば、システム構築の目的を再確認し理解と納得を得ることができる。

 また、業務プロセスはシステム化する範囲だけに限定せず、人間系のプロセスなど情報の流れを漏れなく記載する。それにより、機械系と人間系の矛盾や不整合を確認することができる。情報の流れについても、電子データと紙情報が、業務プロセスによって分断されず、うまく引き継がれていくか、電子データと紙のどちらを正として扱うのかなど、業務フロー上を流れる情報のライフサイクルを明確化し確認することができる。

 そして、各業務プロセスで必要となる入力・処理・出力(読み、書き、そろばん)を、実際にシステムを通じて実行するために、どの画面や帳票を使用するのかを明確にしておく。こうして、作成した業務フローに沿って、実際に画面や帳票のスケッチを使用しながら、あたかも本番で業務を遂行しているかのように“通し稽古”を行うのである。

小道具は、画面と帳票のスケッチ

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 ウォークスルーで使用する画面や帳票のスケッチは、できるだけ具体性のあるものがよい。単に枠だけの画面や帳票のスケッチではなく、実際に近いデータも表示する。また、それぞれ入力例、出力例があり、前後の業務プロセス間での情報の変遷が確認できるようにする。このように大量のスケッチを作成するのは、手作業では困難であるが、パソコンを利用すれば割と容易に、しかも実物に近いイメージのものが作成できる。

 ExcelやPowerPointの描画機能を使用して画面や帳票の模型を作成するのも1つの方法だが、最近では直感的なマウス操作でHTMLを自動生成してくれるホームページ作成ソフトも安価なものがあるので、そのようなものを利用してみるのもよいだろう。

 開発しようとしているシステムが、Webアプリケーションであれば、かなり実際の画面に近いものを作成することができるし、ひょっとしたらそのHTMLは、本番システムの部品として使えるかもしれない。

 こうして作成した画面や帳票の模型は、各業務プロセスに関連付けて配置していく。こうした地道な活動が、画面や帳票の漏れを発見することにも効果を発揮する。つまり、ウォークスルーを実施することだけに意義があるのでなく、ウォークスルーの準備をすることにも重要な意義がある。このために手間が掛かるのは事実だが、できるだけ具体的なイメージがわくようなものを作成すれば、ユーザー/プロジェクトチーム/業者の間で認識のズレが少なくなり、システム実用開始後に仕様変更を多発しなくて済むので、かえって時間と費用を節約できる。これもフロントローディングだ。さらに、作成したスケッチは後工程での試験やマニュアル作成においても利用することができる。

 業者に提示すれば試験計画の貴重な材料になるし、期待される実行結果がどのようなものかテスターが具体的なイメージをつかむのに役立つのでテスト品質が向上し、結果的にシステムの品質が向上する。最近の反復型開発では、模型ではなく実際に動くシステムを少しずつ作り上げ、関係者でその動作を確認しながら開発を進めるのだから、さらに強力だ。

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