NECはサーバ仮想化技術開発で何を狙うのか仮想マシン環境最新事情(1)(2/2 ページ)

» 2006年09月09日 12時00分 公開
[谷川 耕一(ブレインハーツ),@IT]
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仮想化は統合管理に向かう

 国内システムベンダが自社で仮想化環境を実現する動機としては、メインフレームの世界では当然のごとく提供されてきたこの機能を、今後自社が提供するミッションクリティカルなサーバにも持たせたいということも考えられる。

 NECにも、もちろんメインフレームと同様の仮想化を実現するという意図がないわけではない。しかし、ITプラットフォーム販売推進本部 商品マーケティンググループ シニアマネージャーの泓 宏優氏は、「むしろプラットホームの柔軟性を追求していった結果、仮想化に行き着いた」という。

 NECは「REAL IT PLATFORM」というコンセプトのもとに、ハードウェアからミドルウェア、さらにその上のアプリケーションやSOAの部分についても今後仮想化を進めていく方針がある。そうなればCPU部分だけでなく、I/Oの仮想化を担うスイッチ、ストレージなども含めた統合的な仮想環境が必要になってくる。その際にはVMwareのような既存の仮想マシンもあり、自社製の仮想マシンも統合的な仮想環境を実現する1要素となる。

 これらすべての仮想化の要素を効率的に運用するには、統合的な管理ツールの必要性がでてくる。NECでは、まずはこの部分に力を入れるという。Sigma System Centerの提供がそれだ。これは、最初はプロビジョニングの機能の提供から始まり、そこから発展して仮想化環境の統合管理を目指すツールだ。業務に適したシステムをサーバ、ストレージ、ネットワークなど、モジュールをITリソースプールから必要に応じてダイナミックに割り当てて構成する。この際には、ルールに基づいた自動化も可能とすることで、管理の効率化を図る。ヴイエムウェアも、昨今ではVMotionなどの仮想化の周辺技術に力を入れ始めている。これらは、仮想化環境の統合的な管理という大きな方向性としては同様なものと考えられる。

 NECはこの統合仮想化環境では、将来的にはヘテロジニアスな仮想マシンを運用管理することになると予測している。OSとしてUNIXやWindows、Linuxが混在する環境が当たり前のように、今後ユーザー企業では仮想マシンについてもVMwareやXen、そのほかの仮想マシン環境を同時に運用するという状況が生まれるだろうというのだ。場合によっては、仮想マシンに加えリアルマシンも一緒に管理しなければならないかもしれない。「どの仮想マシン環境を選ぶかは顧客の意思であり、ベンダがコントロールする話ではない」(新屋敷氏)。

 各種の仮想マシン環境が混在するようになった際に、これらを統合管理するには、仮想マシン間のマイグレーション、プロビジョニングといった機能が必要となる。物理システムからVMwareの仮想マシンにマイグレーションするツールと同様に、VMwareからXen、あるいは自社製の仮想マシンにマイグレーションを行う。それぞれの仮想マシンは独自の仕様で動いているので、このツールの実現はかなり難易度が高いものとなる。特にVMwareのVMotionのように、異種の仮想マシン環境間をゲストOSが動的に移動するようなことの実現は、極めて困難かもしれないという。ただし、仮想マシンのシステム移行要求は確実に出てくるので、その部分でNEC技術の先進性を発揮したいとのことである。

 NECでは、ここに挙げたような新たな仮想環境のための機能について、今後徐々に製品化し提供するとのことだ。自社製の仮想化マシンについては、現段階では2007年中に提供予定とのこと。2008年以降には、同社のメインフレーム用プラットフォームであるACOSが動く自社製仮想マシンの提供も視野に入っている。これは、ミッションクリティカルな大規模基幹系メインフレームを一気に移行させるというよりは、それほどハードウェアリソースを必要としない中小規模のメインフレームのシステムをまずは対象に考えている。

 仮想マシンの登場で、アプリケーションはハードに依存しない存在になる。最初から仮想マシン上でアプリケーションを開発し、プラットホームはそのとき手に入る性能の高いマシンにどんどん切り替えることが可能になる。この際、ハードを入れ替えたとしても、ほとんどテストすら必要ない。この方法なら、同じアプリケーションを10年、20年と使い続けつつ、それを最新のマシンで運用できることになる。

 こうなると、今後はハードウェア市場の争いは、よりシビアなものになるのかもしれない。過去の経緯から、同じベンダのマシンを使い続ける理由はなくなるからだ。アプリケーションの要求や性格に対し、最適なプラットホーム、例えば徹底的にI/O能力の高いものであるとか、フォルトトレラント能力に優れたものなどを、ユーザーは適宜選択することになる。仮想化の技術については、CPUベンダによる仮想化支援技術の登場やレッドハットによるXenのサポートなど大きな動きがあり、各ベンダは群雄割拠の時代に突入するだろう。さらに、これにハードウェア技術の進化が絡み合い、仮想化はベンダ各社の今後のビジネスの行方を大きく左右する存在となりそうだ。

著者紹介

▼著者名 谷川 耕一(たにかわ こういち)

ブレインハーツ取締役。

AI、エキスパートシステムが流行っていたころに開発エンジニアに、その後雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダの製品マーケティング、広告、広報担当者などを経験。現在は、オープンシステム開発を主なターゲットにしたソフトハウスの経営とライター仕事の二足の草鞋を履いている。


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