連載
» 2006年10月25日 12時00分 UPDATE

オブジェクト指向の世界(18):ネットコミュニティのQWAN(無名の質)

今回はこのロングテール現象とも関係しますが、インターネットによるコミュニティ「e-Community」について考えてみたいと思います。

[河合昭男,(有)オブジェクトデザイン研究所]

 第17回は「パレートの法則 vs. ロングテール現象」と題して、仕事や日常生活のさまざまなところで観察できる普遍な法則であるパレートの法則(80- 20の法則)の一種のアンチテーゼとして出現してきたロングテール現象について考えました。マスメディアを使った従来型の広告は、パレートの法則に従った投資効果を狙うものですが、インターネットを使った検索連動型広告やコンテンツ連動型広告はそれとは全く異なった戦略を採用しています。ロングテールは従来型の経済的制約条件が取り払われたところで初めて有効になります。インターネットは従来型の経済的制約条件を限りなく0に近づけつつあるといえるでしょう。

人間は社会的動物である

 「人間は社会的動物である」とはアリストテレスの言葉です。人間は1人では生きていけません。人は、家族、職場、学校、地域社会、国家など知らずにさまざまなコミュニティに属しています。

 最近インターネットの世界ではやっているものには共通点が感じられます。それは「参加型」です。最近大ブレークしつつあるBlogやmixiなどのSNSも参加型です。目的は異なりますがオープンソースも参加型です。これらの社会現象はすべてインターネット普及が巻き起こしつつある一大潮流です。キーワードは参加型です。人間は本質的に社会的動物であり、コミュニティへの参加を潜在的に願望しています。参加とは自己の存在を確認することです。

 コンテンツ連動型広告の広告メディアには誰でも参加できます。自分のサイトに見知らぬ企業の広告が表示されたとき参加を実感します。しかもその広告がサイトの内容とマッチしており広告とコンテンツが一体化して、実はサイトのオーナーである自分が一番興味を感じ共感します。

 これら参加型のコミュニティが継続し進化発展していくための重要な要素は、アレグザンダーのパターン言語のキーワードである「QWAN=無名の質」です[注1]。今回はe-CommunityのQWANについて考えてみたいと思います。


▼[注1] QWAN = Quality Without A Name


6次の隔たり

 「複雑な世界、単純な法則」(マーク・ブキャナン、草思社)に、あるアメリカの心理学者の実験例が紹介されています。アメリカ中西部に住む何人かの人を無作為に選び出し、手紙をボストンに住む心理学者の友人である株仲買人のXさんに転送を依頼します。住所は教えません。依頼された人は各自の個人的な知り合いを通してXさんへの転送を依頼していきます。実験の結果は大半が6回前後の転送で到着しました。全く未知の人同士が、間にわずか5人の知人の紹介を通せばつながるという驚くべき結果です。

 例えば図1のように依頼人のKさんとAさんは職場の同僚です。BさんはAさんの家族ですがKさんとは面識はありません。直接の知人を1次の知人、その知人を2次の知人と呼ぶことにすれば、BさんはKさんの2次の知人です。CさんはBさんの会社の同僚です。Kさんからは3次の知人です……。という具合にKさんと対象者のXさんの間に5人が入ればXさんは6次の知人というわけです。

ALT 図1 6次の隔たり

 ここで簡単な計算をしてみましょう。仮に控えめに見て皆平均10人の知人がいたとしても知人の輪を広げていくと、知人の知人(2次の知人)は10×10=100人。6次の知人は10の6乗=100万人。10人はかなり控えめな数字で、親戚、職場、学校、サークルや近隣の人々を通せばもっと多いはずですが、100人とすると100の6乗、これは全地球上の人口をはるかに超える数字ですので、「6次の隔たりで全地球上の人たちは友達の輪としてつながる」というのもなるほどそんなものかとうなずけます。世間は狭いものです。まさに“It’s a small world”です。通勤電車の中では皆他人のような顔をしていますが、案外隣り合わせた人同士に共通の知人がいるかもしれないと考えると何か楽しいですね……。

 これはあくまで単純計算なので重複を度外視していますが、実際さまざまなコミュニティ(家族、職場、学校、サークル、地域社会……)などで知人は共通している場合は多いでしょう。先ほどの計算は正確には自分の知らない2次以上の知人を数える必要があります。例えば同じ職場の人の家族や、さらにその家族の方の職場の人という具合です。6次の隔たりは6つの異なるコミュニティの隔たりだと考えることもできます。

e-Community

 Social Networking Serviceというよりいまやミクシィ(mixi)といった方が分かりやすいでしょう。会員数は昨年末で200万、この夏で500万人を超えたそうですが、会員数がどこまで膨らむのか興味のあるところです。SNSもイメージとしては図1のような感じで、その内部でグループ単位にコミュニティを形成していますが、複数グループに属している人を介していけば、6次の隔たり理論だと間に5人入ればこの500万人は皆知人ということになります。

 Blogは個人の日記を公開し、そこに読者がコメントできるようにしたものです。単に一方通行の情報発信ではなく読者も参加できるように双方向にしたもので、個人のBlogを核とした自然発生的なコミュニティが形成されてゆきます。別の人のBlogとリンクを張ってゆけば、緩やかなコミュニティとして広がってゆきます。SNSとBlogを組み合わせて意図的にメンバー限定のコミュニティにすることもできます。

 掲示板を発展させたWikiは、コミュニティ・メンバーが自由に書き込みのできる共有サイトです。共同作業のためのコラボレーション・ツールとして有効です。Wikiを拡張したウィキペディア(Wikipedia)はネット上で百科事典を共同作業で作り上げようという壮大なプロジェクトです。誰でも書き込み可能、編集可能です。この百科事典の参照は誰でもフリーです。

無名の質(QWAN)

 無名の質(Quality without a Name)は建築家のアレグザンダーが提唱する家や建物あるいは街に内在する大切な質です。その質を持った家や街は、そこで生活する住民が生き生きする。活気のある街、心豊かな生活ができる家や街。そこに備わっている質を無名の質と名付けました(第6回 名前のない品質とパターン言語)。

 人間中心の建築、住人のそこでの日常生活、周辺との調和、あるいは将来の成長・発展などまで含まれる質とは何でしょうか。この質には名前が付けられないし、とらえどころがなくあまり重視されないが、そこで日常生活を営む住民にとって重要なものです。活気のある街、街のそれぞれの構成要素が個性を持ちつつかつ全体として一体感もあり自然とも調和し、そこでの生活が豊かで幸福感を満喫できる住民。皆が住みたくなる家や街。

 無名の質の考え方は実社会でのさまざまなコミュニティにも適用できそうです。家族、職場、学校、サークル、地域社会、国家、地球レベル全世界までコミュニティのレベルは広がります。「コミュニティ=場+参加者」でありコミュニティ活動の場あるいは空間、そこに備わる質が参加者を活性化し、全体性を持ったコミュニティに無名の質を与えます。この場は参加者が過ごす部屋であり、建築物であり街です。

 この考え方は仮想コミュニティe-Communityにも適用できるでしょう。単純なメーリング・リストからBlog、SNS あるいはオープンソース活動もe-Communityと考えることができます。

ALT 図2 QWAN

e-CommunityのQWAN

 e-Communityの場に備わるべき無名の質とは何でしょうか。無名の質そのものは定義できないので、その周辺の7つの特性を見てみましょう。QWANはその共通部分に隠れています(図2)[注2]。


▼[注2]「時を超えた建設の道」クリストファー・アレグザンダー、鹿島出版会


(1)alive − 生き生きしているか?

  • 発言頻度が多い
  • 発言する人が多い
  • 発言内容が他人の中傷・批判や愚痴などマイナスなものではない
  • 発言内容を読んでわくわくする、自分も発言したくなる

(2)whole − 全一的であるか?

  • ほかのグループ活動を阻害しない
  • ほかのグループ活動と緩やかな関連がある
  • ほかのグループ活動と併せて全体としてのまとまり、一体感があり、調和している
  • ほかのグループ活動と共存共栄になっている

(3)comfortable − 居心地が良いか?

  • グループのメンバーとして居心地の良さを感ずる
  • グループ内のコミュニケーションが快適
  • 参加者は、満足感あるいは幸福感を感じる

(4)free − とらわれはないか?

  • 自由に発言できる
  • 自分の個性が発揮できる
  • 人に強いられることはない

(5)exact − 正確か?

  • 自由が行き過ぎないためのルールがある
  • グループの目的やvisionが明確
  • グループ内および全体的に秩序がある

(6)egoless − 無我か?

  • 自分の我により他人の自由を押さえ付ける人がいない
  • 人の意見を聞く、他人を思いやる
  • 慢心しない、謙虚である

(7)eternal − 永遠性はあるか?

  • グループが継続する仕組みがある
  • グループが簡単に消滅してしまわない
  • そのグループは本当に必要か
  • 社会に貢献しているか

 生きている建築物や街と死んでいる建築物や街、その住人が生き生きしているかそうでないか、そこには生きているパターンと死んでいるパターンが存在します 。そのパターンとは一体何でしょうか ? それを発見し、プラスのパターンを作り出し、マイナスのパターンを切り捨てることはできます 。これらプラスのパターンを組み合わせて人々に感動を与える建築や街造りのための技法である「パターン言語」がアレグザンダーのライフワークです。アレグザンダーの壮大な哲学は最近発刊された“The Nature of Order”「秩序の本質」4巻を合わせるとシリーズ全12巻の大作に発展してきました。無名の質は、このシリーズ第1巻に位置付けられる「時を超えた建設の道」で提唱されている重要なキーワードです。

 今回のテーマはe-CommunityのQWANとは何であるか(what)を考えましたが、では次はそれはどうやって作るのか(how)という話になります。しかしその前にやるべきことは、実際のコミュニティ活動の実践・経験を通して、プラスのパターンとマイナスのパターン(アンチパターン)を発見することです。読者の皆さまも一緒に考えてください……。

筆者プロフィール

河合 昭男(かわい あきお)

大阪大学理学部数学科卒業、日本ユニシス株式会社にてメインフレームのOS保守、性能評価の後、PCのGUI系基本ソフト開発、クライアント/サーバシステム開発を通してオブジェクト指向分析・設計に携わる。 オブジェクト指向の本質を追究すべく1998年に独立後、有限会社オブジェクトデザイン研究所設立、理論と実践を目指し現在に至る。ビジネスモデリング、パターン言語の学習と普及を行うコミュニティ活動に参画。ホームページ:「オブジェクト指向と哲学



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