営業の世界では、“2割のAクラス社員が8割の数字を挙げる”という現象が業界を問わず見られる。Aクラス社員はおしなべてモチベーションも高く、放っておいても毎年確実に目標を達成してくる。一方で残りの8割を占めるBクラス・Cクラス社員のパフォーマンスをいかに底上げするか、はあらゆる営業部長の悩みであろう。
最近、こうしたAクラス社員の行動特性から「ベストプラクティス」を抽出し、横展開していく、という手法が注目されている。「行動特性」といっても、営業のすべての行動を克明に記録していく、というわけではない。Aクラス営業が営業ポータルやメールなどの「社内情報システムをどのように活用しているか」をシステムログから分析し、「売れる営業」がどのような情報武装/情報流通を行っているかを探って、それをほかの社員にも展開していく──というものである。
例えばD社では、Aクラス営業のログを分析した結果、以下のような特性が明らかになった。
もちろん、営業活動全体において「社内情報システムを使っている時間」が占める割合は大きくない。従って、Aクラス営業の「社内情報システム上における行動特性」をすべてまねたところで、Bクラス営業が突然売れ出すわけではない。しかし、少なくともこうした顕著な違いが認められるのであれば、それを示すことで、Bクラス営業が自分たちの行動様式を見直すきっかけになるだろう。
さらにいえば、「Aクラス営業がほとんど見ていない」情報ならば、社内ポータルの一等地であるトップページに並べておく必要はないかもしれない。代わりにAクラス営業がよく見ている受注/失注報告を目に付くところに置けば、それを見て参考にするという行動がほかの社員にも自然と波及するだろう。
Aクラス営業に「なぜあなたは売れるのですか」とインタビューすると、決まって返ってくるのが「いやあ、普通のことを普通にやっているだけなんですけど」という言葉だ。彼らは決して謙遜(けんそん)して話をそらしているのではない。彼らの毎日の行動の多くは、いわゆる「営業の基本」を、忠実かつ着実にこなしているにすぎないのだ。しかし「普通のことを普通に」やっていないのがBクラス・Cクラスなのである。そのことを明示し、自らの行動パターンを改めてもらうためには、このベストプラクティス横展開が効くことが多い。
これまで見てきたように、「新・お作法」は非常に幅広い。すべてを同時に推進するのは無理がある。全体像を理解したうえで、着手可能なところから開始するべきだ。
ただし、いますぐ着手すべきである点も強調しておきたい。仕事の進め方はすでに10年前とは大きく変わってしまっているのに、お作法が追いついていない状態は、大変非効率なうえに危険でもある。
ITの導入が一段落したいまが、実施のチャンスである。
そのうえ、冒頭で述べたように、新・お作法による改善機会は膨大である。御社でもすぐに検討に着手されることをお勧めしたい。
やや強引なメタファーだが、現在のオフィス内は「交通ルールやマナーのないモータリゼーション」のようなものだ。突然クルマの性能が上がってアクセルを踏むだけで時速200km出せるようになり、しかもクルマの値段はタダ同然となって、誰もが我がもの顔で走り回っている。しかし、突如実現した「クルマ社会」にふさわしい交通網のグランドデザイン(A.基本ポリシー)はまだ作られていない。正しい走り方を教える運転免許制度(B.スキル研修)はなく、交通ルール(C.ガイドライン)もなく、速度メーター(D.見える化)もない。お手本になる優良ドライバー(E. Aクラス社員)はいるが、彼らがどのように運転しているのかは知りようがない。結局、誰もが「自己流」で走り回っており、その結果至るところで大渋滞(情報洪水)が起きて、ドライバーたちは疲弊している。
クルマの数が少なかったころは、アクセルを踏めば速く走ることもできた。しかしこれだけ交通量が増えている現在、無事に目的地にたどり着くためには、交通ルールとマナーを守り、アクセルとブレーキを使い分けて、適正スピードで走るのが結局一番速い。特に1台だけでなく、街中にある1万台のクルマをすべて安全に走らせようと思えば、制限速度や交通マナーを徹底する必要がある。
皆さんは街の為政者として、道路の秩序を取り戻さなければならない。いま、すぐに。
村田 聡一郎(むらた そういちろう)
リアルコム株式会社 ディレクター
東京都立大学法学部卒、ライス大学MBA
外資系IT企業勤務、米国本社駐在を経てリアルコムに参画。ナレッジマネジメントコンサルタントとして、国内外の大手企業のナレッジマネジメントプロジェクト・企業変革プロジェクトに参画。主にIT系、グローバル、営業系のナレッジマネジメントに精通。
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