SOAの効果を引き出すためのビジネスモデリング実践! UMLビジネスモデリング(9)(1/2 ページ)

昨今、企業システムを構築する際の方法論としてSOAが注目を集めているが、ビジネスのビジョンや戦略を無視したまま導入しても、思ったような効果を上げることはできないだろう。ここでも、ビジネスモデリングの手法が非常に有効なのである。

» 2008年03月27日 12時00分 公開
[内田功志,システムビューロ]

ビジネスモデリングからSOAへの連係

 今回は、ビジネスモデリングとSOA(サービス指向アーキテクチャ)の関係について述べたいと思います。SOAについては、おそらくどこかで聞いたことがある方も多いかと思います。ここでは詳しい説明は省略しますが、一言でいえば、システム全体を「サービス」という機能単位に分割し、それらを臨機応変に、柔軟に組み合わせることにより業務システムを構築しようというアーキテクチャです。より詳しく知りたい方は、以下の記事を参照してください。

参考記事
5分で絶対に分かるSOA(@IT情報マネジメント)
SOA (service-oriented architecture)(@IT情報マネジメント用語事典)

 今回も引き続き、洋菓子店のケーススタディを用いて説明していきます。小さな洋菓子店から始めたビジネスも順調に成長して、いまではチェーン展開する洋菓子メーカーに成長しました。しかし、もともとは小さな店舗ながらビジネスのビジョンや戦略をしっかり立てて、それにマッチしたシステムを手に入れたところから始まっています。

 話は前後しますが、再び小さな洋菓子店だった時点までさかのぼって、洋菓子店がシステムを構築・導入する過程を追いながら、SOAの説明をしていきましょう。

 小さな店舗とはいえ、将来のビジョンや戦略を見据えた規模のシステムを一から開発・導入するとなると、開発費だけでも最低数百万円程度は掛かってしまうでしょう。小規模な店舗にとっては、これは年間売上の半分近くにまでなってしまいます。現時点でこれだけの投資を行うのは、ちょっと難しそうです。それに開発期間も3?6カ月かかってしまい、その間に商売が停滞してしまう恐れもあります。

 こうした問題を解決するために採用したのが、SOAです。洋菓子店の店主からシステム構築について相談を受けたソフトハウスでは、過去に開発したソフトウェアコンポーネントの一部を、自社の資産として保有していました。これらコンポーネントの機能が、洋菓子店が必要とするシステムの機能の一部と合致したのです。そこで、SOAの方法論にのっとって洋菓子店のシステムで使えるコンポーネントを再利用することにより、システム開発のコストと期間を圧縮できるのではと考えたのです。

SOAによる計画管理システムの構築

 ここで、第6回「ビジネスモデルからシステムを見いだす」の内容を少し振り返ってみましょう。ビジネスモデリングでシステム化の領域を検討し、「計画管理システム」と「材料管理システム」の2つのシステムを導き出しました。さらに、それぞれのシステムの初期ユースケースを作成しました。

 ここではまず、計画管理システムにSOAの手法を導入できるかどうか、検討してみましょう。計画管理システムには、以下の通り7つのユースケースがあります(図1)。

ALT 図1 計画管理システムのユースケース図

 これら7つのユースケースすべてをスクラッチで開発するとなると、かなりのボリュームになってしまいます。

 そこで、以下のようにソフトハウス側で保有しているソフトウェアコンポーネントをSOAのサービスとして外部に公開し、洋菓子店の計画管理システムから利用するようにします。

ALT 図2 SOAによる計画管理システムのユースケース図

 上図の通り、計画管理システムのユースケースの大半はソフトハウス側のサービスの機能でカバーできるため、大幅に開発コストを削減することができます。

 ソフトハウス側のサービスはWebサービスのインターフェイスを備えているため、社外にある洋菓子店のシステムからでもインターネットを介して利用することができるようになっています。

 「計画登録」サービスは、さまざまな計画情報を登録するための一般的な項目が用意されており、さらにこの項目をカスタマイズできるようにもなっています。登録データはソフトハウスが管理しているデータベースサーバに保持されます。従って、データベースのバックアップやメンテナンスなど洋菓子店ではカバーできない作業もサポートしてもらえるので余計な作業を省くことができ、システムの運用効率もアップします。

 同様に「実績登録」サービス、「計画照会」サービス、「予実管理」サービスに関してもそれぞれ項目のカスタマイズ、データベースへの登録、データベースの照会などができるようになっています。

SOAによる材料管理システムの構築

 今度は、材料管理システムについても同様の検討を行ってみましょう。材料管理システムには、以下の5つのユースケースがあります(図3)。

ALT 図3 SOAによる材料管理システムのユースケース図

 材料管理システムも計画管理システムと同様に、ソフトハウスのSOAサービスを利用できないか検討してみました。その結果、在庫や仕入れに関するサービスを利用することで、開発コストや開発期間の大幅な圧縮が可能になることが分かりました(図4)。

ALT 図4 SOAサービスを利用した材料管理システム

 「在庫残高」サービスは在庫の残高を管理するためのサービスで、在庫の残高の確認だけでなく、在庫情報の更新もできるようになっています。従って、「在庫を確認する」ユースケースだけではなく、「在庫を減算する」ユースケースと「在庫を加算する」ユースケースからでも利用できます。

 仕入れに関しても、仕入れを依頼する際の発注書の作成や、それを受けて行われる仕入れ処理もソフトハウス側のSOAサービスを利用して実現できそうです。

 このように、ビジョンや戦略にマッチしたシステムを導き出した後に、その中でどの部分をSOAサービスでカバーできるのか検討するのです。既存の資産を有効に再利用することで、開発コストの低減や開発期間の短縮などが可能になり、スクラッチ開発では手にすることができないようなシステム(アプリケーション)を使うことができるようになるのです。

 洋菓子店でも、限られた予算の中で当初計画した通りのシステムを実現することができました。その後、このシステムを有効に活用しながらビジネスを急速に成長させていった過程は、これまでの連載で見てきた通りです。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ