売れ行きは、商品・価格の「演出」で決まるマーケティング入門〜売れる仕組みの作り方〜(3)(2/2 ページ)

» 2008年06月09日 12時00分 公開
[斉藤孝太,株式会社SIS(ストラテジック インテリジェント システム)]
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メッセージと価値を伝える「価格」

 さて、ここまでのお話で、商品を売るための全体的な流れはつかめたのではないでしょうか。まずは消費者の声をたくさん集めて、テキストマイニングツールなどを使ってニーズを分析し、魅力ある商品を開発します。その後は商品ライフサイクルの流れに合わせて、その時々で適切な施策を実施していくわけです。

 では価格戦略にはどのような意味があるのでしょうか。そこでいったんほかの3P──商品(Product)、流通(Place)、販売促進(Promotion)を振り返ってみましょう。

 これらを別の表現に置き換えると、「どんな商品を、どこで、どのように提供するのか」ということです。すなわち、企業が提供する商品・サービスの価値、そのものであるわけです。消費者は、提供される価値と、支払う貨幣価値、すなわち価格をてんびんにかけて、購入を判断しています。つまり価格とは、第1に購入判断の最も重要なファクターとなるわけです。

 一方で、価格は消費者へのメッセージを伝達する重要なファクターにもなります。自社の商品の方が競合商品よりも価値が高いと考えれば、価格を高くすることで、そのメッセージを伝えることができるわけです。

 例えば、ルイヴィトンやオメガのような高級ブランドは、バッグや時計といったカテゴリにおける通常商品の、何十倍もの価格を設定しています。それにより、プロモーションや広告宣伝以外の方法で商品価値を伝えているのです。

 価格戦略とは、以上のような“効果”を活用して、売り上げやブランド力の向上につなげることをいいます。では実際には、価格はどのように設定されているのでしょうか。ここでは代表的な4つの方法を紹介します。

いま、企業はコストではなく、ターゲットで決めている

 価格設定方法には、企業側の視点と、消費者側の視点の2通りがあります。それぞれを順に説明していきます。

企業側の視点による設定(1)──コスト重視の価格設定

 例えばメーカーなら製造原価、小売業では仕入原価といったように、原価に利益を上乗せして決定する方法です。単純で分かりやすく、安定した利益が望めます。商品を提供する側にとっては最も理想的な価格設定方法です。

 しかし、実際の市場ではこの方法は現実的ではありません。メーカーが市場に対して力を持ち、販売チャネルが限られているケースなら問題はありませんが、現在はメーカーよりも小売りチェーンが力を持っています。加えて販売チャネルも多様化しているので、コスト発想の価格設定では思うように購入してもらえないのです。

 例えば、高度経済成長時代、家電メーカーは街の電気店を販売チャネルとして展開し、そのチャネルにおいてのみ商品を流通させていました。こうした状況では、消費者側に「どこで買うか」という選択肢がありません。コスト発想の価格設定でも、消費者はそこからしか買えないので、やむなく購入していたわけです。

 しかし、家電はいまや量販店、インターネットをはじめ、さまざまなチャネルで購入することができます。単純に実現したい利益をコストに乗せるだけでは、消費者を納得させることは難しくなりました。もはや、この考え方だけでは売り上げを伸ばすことはできないのです。

企業側の視点による設定(2)──ターゲティング重視の価格設定

 ではどうすれば良いのでしょうか。そこで現れたのが、マーケットを見て、どの層をターゲットにするかを考慮して価格を設定する方法です。これには大きく2つの方法があります。

 1つ目は、価格に対するこだわりが少ないイノベーター層をターゲットに、価格を設定する方法です。イノベーター層とは「流行に敏感な、先端的消費者」といった意味です。彼らをターゲットにすると、購入ボリュームは少ないながらも、1品当たりの利益をより多く獲得することができます。これは「上澄み吸収価格戦略(スキミング・プライシング)」と呼ばれている方法です。例えば、一部の富裕層をターゲットにしたブランド品、一部のマニアに受け入れられる商品などで、この戦略が取られています。

 2つ目は、価格に敏感に反応する一般的な消費者、すなわちフォロワー層をターゲットに、価格を設定する方法です。具体的には価格を安くして、1品当たりの利益は少なくても、購入数の多さで利益を獲得します。「市場浸透価格戦略(ぺネトレーション・プライシング)」といい、商品へのこだわりを持つ人が少ない、日用品などでこの戦略が取られます。

需要変動に敏感な価格設定がポイント

 では、一方の消費者側の視点とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。こちらにも、やはり2通りの考え方があります。

消費者側の視点による設定(1)──顧客リサーチ起点の価格設定

 これは消費者へのアンケート結果を活用した価格設定方法です。そのうちの1つとして、PSM分析があります。消費者に特定商品の価格について、4つの任意な質問を投げ掛け、その結果をベースに、消費者の価格に対する受容性を明らかにしていく方法です。消費者リサーチをベースにしているので、論理的には正しいと感じますが、一方で、消費者は基本的に移り気なものなので、根拠が明確とはいえないという意見もあります。

消費者側の視点による設定(2)──変動需要キャッチの価格設定

 ある特定の時期、ある特定のタイミングで、消費者に受け入れてもらえる価格を、その都度設定する方法です。この手法は売価が頻繁に動く、スーパーマーケット、アパレル、家電量販店などで活用されています。

 注目したいのは、この方法には価格最適化ソフトウェアの導入が進むと予想されていることです。従来は人の経験や“カン”に頼ってきましたが、過去の販売データや暗黙知を仕組み化してシステムに反映することで、常に利益の最大化を狙おうというわけです。

 具体的には、過去2年間ぐらいのPOSデータ、業界データ、顧客カード情報、店舗情報から、商品カテゴリ別の顧客の購買行動モデルを作成します。日本では人の経験知に頼っているケースがまだ多いようですが、企業間競争がシビアになっていく今後、確かなデータに基づいて、最適なタイミングで、最適な値付けを狙うことは、ますます重要になっていくことでしょう。

 次回は、こうして決めた商品と価格をどう実績に結び付けていくか──マーケティングの4Pの流通と販売促進を詳しく解説します。

筆者プロフィール

斉藤 孝太(さいとう こうた)

株式会社SIS(ストラテジック インテリジェント システム)代表取締役。

大学卒業後、広告代理店に企画営業として勤務し、主に大手マンションデベロッパーの販売促進を担当。その後、企画・マーケティング会社にてマーケティングプランナーとして勤務。大手メーカーなどのマーケティング計画策定から販売マニュアル作成などを手掛ける。

その後、マーケティング・コンサルティングファームに入社し、多数の顧客案件を成功に導く。現在、店舗系ビジネスにおける顧客との関係性強化や、CRMを販売現場に導入するコンサルティングを実施している。


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