本当につらいときに支えになるもの目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(20)(4/5 ページ)

» 2008年09月29日 12時00分 公開
[森下裕史(シスアド達人倶楽部),@IT]

プロジェクトのリスタート

 翌日10時、会議室には関係者が集まっていた。

 今回は、坂口、名間瀬、豊若、伊東、加藤はもちろんのこと、小田切と谷橋も呼ばれていた。2人は八島が倒れたショックと八島なしで進めなくてはいけない修正作業への不安で、かなり憔悴(しょうすい)しきった顔だった。

 全員がそろったのを確認すると坂口がおもむろに切り出した。

坂口 「皆さん、お忙しい中集まっていただいたのはほかでもありません。八島さんの件と今後のスケジュールについて、プロジェクトとしてある決断を考えていることをお伝えします」

谷橋 「いまのままでは無理です。八島主任のコントロールあってのわれわれだったのですから」

小田切 「そうだ! これ以上どうしろっていうんだ」

 谷橋と小田切は自分たちが被告席に立たされているかのような思いになり、弁明を始めようとしていた。坂口は話を制するように大きく手を上げると、優しいが強い意思を感じる声で話し始めた。

坂口 「谷橋さん、小田切さん、八島主任やお2人を含め、情報システム部の頑張りには頭が下がる思いです。そして、今回八島主任が倒れてしまったことは、直接的ではないにしろ私にも責任はあります。本当に申し訳ありませんでした!」

 坂口はそういうと谷橋と小田切に深くおじぎをした。2人はその言葉に少し落ち着いたようだ。

坂口 「私も今回の課題管理表の問題点を認識し、名間瀬さんや伊東くん、加藤さんの協力の下に、本当に必要かどうかを切り分ける作業を進めていました。マスコミの件で確認に時間がかかり、今日まで皆さんにお話できませんでした」

谷橋 「その件は八島さんが切り分けてくれていましたよ」

坂口 「その通りです。とはいえ、ユーザーに確認もなしというわけにはいきません。後付けになるかもしれないとは思いながらも進めました」

小田切 「それでどうだったんですか」

坂口 「結果的には数点を除き、八島主任の切り分けで正解でした」

小田切 「じゃ、いまのまま変わらないってことじゃないか!」

坂口 「いえ、実は副社長からマスコミに話ししている商品納期短縮の機能は、絶対実現するよういわれています。その件で機能追加をお願いしたいのです」

 情報システム部の2人は顔を見合わせると、真っ赤な顔で大声を出した。

小田切 「これ以上倒れる部員を出せということか!」

谷橋 「これじゃあ、結局、前の室長と同じじゃないか!」

 そういって、2人は名間瀬をにらみ付けた。坂口は2人の視線を自分に向けるよう名間瀬と2人の間に手を割り込ませながら話を続けた。

坂口 「すみません、そこは少し違います。私の決断は3カ月の開発期限延長です」

 少しどよめきがあった後、谷橋が自嘲(じちょう)気味に話した。

谷橋 「しかし、期限厳守も副社長命令のはずだ」

坂口 「おっしゃる通りです。しかし、ここ数日間さまざまな検討をした結果、最善策はこれしかないと結論付けました。名間瀬さん、すいません、例のスケジュールを表示してください」

名間瀬 「了解しました」

 名間瀬は素早くプロジェクターにプロジェクト管理ソフトでまとめた3カ月の期限延長のスケジュールを表示した。

 小田切と谷橋はその滑らかな動きに別人のような驚きを感じながらも、食い入るようにその内容を確認していた。やがて、2人から感嘆の声が漏れてきた。

谷橋 「これはすごい。タスクも適切に分割されているし、いまやっている無理な工程ではなく、厳しいながらも達成可能なものになっている……」

小田切 「各タスクにフロートを持たせずに、後にプロジェクトバッファとして余裕を持たせている。これはTOC理論を使ったCCPMですね。しかし、これだけきっちりタスクの余裕をなくすには、よっぽどの経験と知識がないと無理だ。坂口室長、これは誰が作ったんですか?」

坂口 「これは、名間瀬さんに作っていただいたものです。先ほどの3カ月という延期もこのスケジュールを精査した名間瀬さんからの提案なんです」

 先ほどから別人を見る目で名間瀬を見ていた2人が、どうなってるんだといった面持ちで名間瀬を見ていた。名間瀬は少し居心地の悪さを感じながら説明した。

名間瀬 「タスクリストとスケジュール作成そのものは私が作りました。ただ、CCPMでまとめられたのは豊若さんのご指導のおかげです」

豊若 「私はいままでの経験と指導してきた実績の情報を、名間瀬さんに提供しただけだ。もちろん、若干の補足はさせてもらったがね」

名間瀬 「ありがとうございます。もちろん、坂口室長に早い段階から任せていただいたおかげで、ここまでまとめることができたのです。情報システム部へのヒアリングには八島主任にもずいぶん協力していただきました。私にも八島主任の件については責任の一端を感じております」

 そういうと名間瀬は2人に深いおじぎをした。2人は名間瀬が変わったと実感するに十分な行動だった。坂口は2人がここまでシステム開発のスケジュールに時間と労力をかけていることに気付いていなかった。あらためて、任せることの大切さを実感していた。

坂口 「お2人に来ていただいたのは、このスケジュールにある今後の予定と新機能追加のためのタスクのチェックをお願いし、3カ月を確実なものにしていただきたいのです」

谷橋 「この需要予測支援システムというところですね」

 谷橋はプロジェクトツールで分かりやすく雲マークで囲まれたところを指さした。

小田切 「でも、これだけじゃ分からないですね」

坂口 「おっしゃる通りです。その要件定義については、こちらでまとめたものがあります。伊東くん、説明を頼むよ」

伊東 「はいっ! 頑張りましゅ!」

 そういって2人に資料を手渡すと説明を始めた。2人は途中で質問をはさみながら、資料とスケジュール表を眺めて伊東の説明を聞いた。話を聞き終わると谷橋が切り出した。

谷橋 「少し修正する必要はありますが、クリティカルパスになるということはなさそうですね。しかし、関係者が増えて大変なのでは」

坂口 「はい、その点はこちらでこれから対応していきます。何より、お2人に実現可能かどうかをお聞きしたかったのです」

小田切 「もし、3カ月延ばせてもらえるのであれば、確実にレベルアップできます。多分、機能追加も可能でしょう。しかし、八島主任の穴を埋めるのは容易ではありません」

坂口 「その件については、八島主任が復帰するまでは、豊若さんに臨時のリーダーをお願いする予定です」

豊若 「昔は情報システム部とはそれなりの仲だったから、ある程度はお家事情も分かる。2週間限定ということでよろしく頼む」

谷橋 「よろしくお願いします。このスケジュール表のタスクを見れば、豊若さんの実力は分かります。私たちは各担当分野に全力を注ぎたいと思います」

坂口 「ありがとうございます。それでは、早速皆さんで詳細について話を進めてください。加藤さんはすみませんが私と一緒に副社長のところにお願いできますか」

加藤 「はいっ」

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