ITIL V3ではサービス戦略の基礎(3.5 Service strategy fundamentals)として、アクセンチュアの調査分析に基づき、ハイパフォーマンスなサービス戦略に求められる3つの要素を定義しています(図1)。
ITサービスプロバイダが顧客のニーズを十分に理解して最適なITサービスを提供するために、どの領域でどれくらいの規模のITサービスを展開するか決めることを意味します。
ITサービスの種類と規模は、顧客が期待するビジネスの成果と比例するため、これをよく踏まえたうえでサービスポートフォリオ(組み合わせ)を管理し、提供規模を最適化、有利なポジションを確立します。
顧客のニーズに応えるのに十分なリソース・能力を確保したうえで、他社(他組織)がまねできないようなサービスを開発することを意味します。サービスの置き換えが容易に行えないのであれば、競合するアウトソーサー(アウトソーシングサービス事業者)のITサービスに置き換えられるという事態は避けることができるでしょう。
例えば、社内のIT部門が主体となって仮想化やプロビジョニングといった高度なインフラサービスをスピーディかつ低コストで提供することができれば、ほかのITサービスプロバイダのアウトソーシングサービスに置き換えられることはないということです。
サービスの品質に対する継続的な改善の仕組みを導入することを意味します。サービス改善の取り組みは組織全体で行うべきものであり、この仕組みがしっかりと機能しているならば、それだけで十分な競争力となります。
サービス改善には、サービスを戦略的資産としてとらえているか、パフォーマンス測定項目が十分に精査されているか、といった観点が含まれます。
ITIL V2ではピープル(People)、プロセス(Process)、プロダクト(Product)の3PがITサービスマネジメントの基本概念として提唱されていましたが、ITIL V3ではサービス戦略を導入するために4つのPを考えています。
一貫した行動理念、ビジョン、方向性に基づいているITサービスプロバイダは、顧客にとって戦略的なパートナーになり得ます。先見性を持つことはサービス戦略そのものについて競争力を付加する重要なポイントです。適切でない観点が設定されてしまうと、それを後でばん回するのに多大な苦労を要します。
書籍では、スイス時計産業におけるクラフトマンシップ最重視のサービス戦略が原因で、世界市場で日本勢に席巻されてしまったエピソードが挙げられています。
ITサービスプロバイダにとって、他組織に対する自組織の優位性とは、競争力そのものを指します。その競争力を維持するためには、限られたリソースをどの領域に集中するかという点が重要になり、それは同業他社と比較して何らかの強みを発揮するよう意識する必要があります。
ポジションには、複数顧客の特定ニーズ(種類)に基づくもの、特定顧客の複数の要望(ニーズ)に基づくもの、地域や規模(アクセス)に基づくものがあります(図3)。
観点、そしてポジションを実現するためには、現状(As-Is)からあるべき状況(To-Be)へ変化するための実行計画が必要になります。計画には、「何を(What)」ではなく「どうやって(How)」について具体的に示すことが求められます。
プランを実践しポジションを確立したとして、その後パースペクティブに沿ってITサービスを提供し続けるには、サービス戦略の中でルーチンワークを明確に意識しなければなりません。これは、一貫した判断基準に沿った継続的な活動の定義を意味します。
-研究開発スタッフは必ず運用を経験する
-すべての顧客の問い合わせは必ず回答する
-新たなテクノロジは明確な標準に従わなければならない
-新規プロジェクトは標準的な方法論に従わなければならない
-展開スピードよりサービス安定性が優先されている
-サービス安定性より展開スピードが優先されている
-期末、半期末はサービスレベルを一時的に高める
-会議などで業務判断が遅滞する時期の変更は行わない
これら4つのPを同時並行で取り組み、均質な発展がなされるよう意識することが最適なサービス戦略であり、これを基本として各プロセスに着手します。
前述の目次を見て分かるとおり、書籍中にはプロセス単位で明確に内容が分かれていませんが、「5章 サービスの経済学」の中で3つの管理プロセス(財務管理・サービスポートフォリオ管理・需要管理)が定義されています。
これに加えて、そもそもサービスストラテジ自体をどのように定めるかというプロセス(サービスストラテジ策定)を合わせたものが、サービスストラテジの主要プロセスになります。
次回から、それぞれのプロセスを説明します。
▼中 寛之(なか ひろゆき)
アクセンチュア株式会社 SI&T テクノロジーコンサルティング マネジャー。東京都立大学(現首都大学東京)経済学部経済学科修了後、アクセンチュア株式会社に入社。現在、あらゆる業種を対象にデータセンター移行・統合、ITサービスマネジメントを中心としたコンサルティングに従事する。アイティメディアでブログを掲載中。
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