ITマネジメントの本質を知る ―プロローグ―IT担当者のための業務知識講座(1)(2/2 ページ)

» 2010年06月07日 12時00分 公開
[杉浦司,@IT]
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IT導入だけではビジネス革新できない

 そのうえで、ITマネジメントについて考えてみましょう。一般的に、経営や業務のためにITに関する企画、導入、運営などを適正に行うこととされていますが、本連載では、ITマネジメントは「モデリングと情報処理によるビジネス革新」と定義します。

 つまり、ITを駆使し、現実のビジネス(業務)をモデリングによって投影し、情報処理することでビジネス革新を目指すものなのです。CRM(顧客情報管理)、電子商取引など最先端のITソリューションによってビジネスイノベーション(現状打破)を起こすためには、問題点を的確に把握できていなければ話になりません。IT担当者が業務フローやUML(統一モデリング言語)といったモデリング技法を習得すべき理由もここにあるのです。

 ただし、ITソリューションがITマネジメントではありません。ITマネジメントの要素である情報処理を担う重要なものであることに間違いありませんが、ITソリューションを導入すればビジネス革新できるわけではありません。ITソリューションの導入はあくまで情報処理であり、現行業務の問題点をモデリングと情報処理によって打破することで、はじめてITマネジメントが完成するのです。

 ITによるビジネス革新は「IT経営」と呼ばれることがあります。単にITを利用すればいいのではなく、ITによって現状打破できなければIT経営ではありません。せっかくモデリングによって現状の問題点を明らかにして、ERPによって業務を標準化しても、利用者の言いなりで現行業務に合わせてカスタマイズしてしまっては何の意味もありません。ユーザーが楽になることがIT経営の目的ではないのです。IT担当者は現行業務から評価すべきところと改善すべきところを見極めて、あるときはユーザーの味方となって現状を維持し、あるときはユーザーの敵となって現状を打破しなければならないのです。ここで必要となる業務知識は書籍を読んで得られるような代物ではありません。ユーザーの仕事を手伝ったり、議論に参加したりすることで少しずつ身に付くものなのです。

業務は何のためにあるのか

 業務知識を考える場合に重要なのは、誰の視点に立った業務知識なのかという点です。一般的に業務知識は当該部署から聞き出すものであり、情報システムの仕様も各部署からのヒアリングを基に作られます。そもそも部署ごとの業務は何のためのあるのでしょうか。明らかにすべきことは、その部署の仕事の成果を誰が利用しているのかという点です。

 業務知識を考える場合に、もう1つ考えておきたいことがあります。同じ業務であっても業種や部門が違えば特徴も問題点も違うということです。当たり前のことかもしれませんが、情報システムの企画や設計ではこうしたことが軽視されがちなのです。

 例えば、製造業が生産管理システムを導入する場合、どのベンダのパッケージソフトでも基本機能については差異がないかもしれません。しかし、ユーザー視点に立った場合、大手製造業と中堅中小の製造業では、生産計画の内容も工程設計の内容もまるで違います。自社ブランドの製品設計に基づく大量生産方式と、新規受注時に工程設計された標準仕様に基づいてリピート生産する受注生産方式とで、生産管理の業務が違うのは当然です。

 次回からは、本題である業種ごと、部門ごとの業務知識について解説していきます。まず取り上げるのは「小売業」です。単に小売といっても、実店舗による販売事業者もあればネットショップのみの事業者もあります。しかし、そこには共通する特徴と問題点をみてとれます。ビジネスの原点、本質ともいえる小売の業務を理解することは、あらゆる業務を理解するうえでのスタートとしてふさわしいのです。

著者紹介

杉浦 司(すぎうら つかさ)

杉浦システムコンサルティング,Inc 代表取締役

京都生まれ。

MBA/システムアナリスト/公認不正検査士

  • 立命館大学経済学部・法学部卒業
  • 関西学院大学大学院商学研究科修了
  • 信州大学大学院工学研究科修了

京都府警で情報システム開発、ハイテク犯罪捜査支援などに従事。退職後、大和総研を経て独立。ファーストリテイリング、ソフトバンクなど、システム、マーケティングコンサルティング実績多数。


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