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» 2011年03月29日 12時00分 UPDATE

情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(36):システムは共同で、競争は店頭で

一社単独での効率化には限界がある。協力すべき部分、競争すべき部分を切り分けて他社と進んで連携を図るアプローチに、真の効率化のヒントが隠れている。

[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

流通業のサプライチェーンマネジメントを実現するITインフラ活用経営

ALT ・著=浅野 恭平
・発行=幻冬舎
・2011年2月
・ISBN-10:4344997700
・ISBN-13:978-4344997707
・1300円+税
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 「十人十色のニーズに応え、欲しいものを、欲しいときに、欲しい量だけ提供するワン・トゥ・ワンの販売形態が確立できたのは」、メーカーや卸売業の協力を得て、小売業が「日本独自のサプライチェーンマネジメントのノウハウを構築してきたからだ」。スーパーマーケットやコンビニエンスストア、ドラッグストアなどが「消費ニーズを掘り起こし、購買意欲を刺激する形で発展を遂げたのも」、取引先とともに、よりスムーズかつスピーディな流通の実現に取り組む姿勢があったためだ――。

 必要なものを、必要なとき、いつでも入手できることは、日常においてはごく当たり前のこととなっている。よって、そうした流通体制が「サプライチェーン構成各社の連携」という高度な仕組みに支えられていることは、普段はほとんど意識されない。いわば1つの「社会インフラ」となっているわけだが、市場競争の激化、消費者ニーズの高度化を受けて、いま、こうした社会インフラにも“変革”が求められていることをご存じだろうか。

 本書、「ITインフラ活用経営」は、流通業界で導入が進みつつある次世代EDI、流通BMS(流通ビジネスメッセージ標準)導入の現状をリポートした作品である。川上から川下へ、ものをスムーズに行き渡らせる上で、最も大きなカギとなるのはサプライチェーン構成各社間の情報連携だ。そこで市場変化に迅速・確実に対応できるよう、より高速かつ確実にデータを交換できる流通BMSの浸透が、いま、流通業界の一大テーマとなっているのである。

 これには大きく3つの背景がある。1つは、これまで流通業界の各社が使ってきたEDIは、日本チェーンストア協会(JCA)が1980年に定めた「JCA手順」と呼ばれる通信手順であること。電話回線をインフラとするため、通信速度が2400bps/9600bpsと非常に遅いほか、漢字や画像が送信できないなど、もはや時代にそぐわなくなっているのである。

 2つ目は、EDIを多くの企業に広めた「Web EDI」に使い勝手の面で課題が残されていること。当初、EDIシステムを構築するためには、専用線と高価な大型汎用システムが必要だったが、その後、PCとインターネットを利用した「Web EDI」が登場した。これにより、安価かつ手軽にEDIを導入可能となり、通信速度の問題も解決したものの、その仕組み上、手動でのファイル転送が求められ、EDIならではの自動処理ができないなど、効率化を阻む問題が残されているのである。

 だが、最大の問題となっているのは3つ目――流通各社の通信形態がバラバラだということだ。従来のEDIとWebEDIを使う企業が混在しているほか、EDIを導入せず、いまだに電話やFAXで情報交換をしている中小企業も少なくない。結果、メーカー、卸、小売りは、取引先ごとに通信手段やデータ項目を変える必要に迫られており、これが流通業務のスピード、効率を阻む大きなハードルとなっているのである。

 そうした中、日本チェーンストア協会や日本スーパーマーケット協会などの業界団体が中心になって作成した流通BMSは、多くの企業で共通して使われているデータ項目に絞り込んでEDIメッセージを標準化したもの。各社と同じデータフォーマットで情報交換できるほか、グローバルで標準的に使われているメッセージ構造、XMLを使っている点で企業にとって使い勝手が良い。加えて、「漢字が使える」「テキスト以外のデータも送れる」「通信速度が速い」など、受発注作業を効率化する数多くのメリットを確保している。ただ、これが業界のスタンダードにならなければ、その真価を享受し切れないというわけだ。

 本書によれば、「2011年1月末の時点で導入済みが150数社」と、「いまだ思うように進んでいない」。これは従来のEDIを支えてきた大型汎用システムの入れ替えに多大なコストが掛かることや、中堅・中小企業のITシステム構築が進んでいないためだという。そこで本書では「レガシーマイグレーションのための選択肢」「安全にEDIを導入するためのコスト」など数々の情報を集め、企業の背中を押そうと試みているのだが、中でも印象的なのは「これからのインフラは業界が作る」という指摘である。

 著者は「インフラ」とは「社会基盤」であり、例えば電気なら電圧は100ボルトに統一するなどの標準化を果たした上で、「ベーシックに必要なものを整え」、それらを誰もが安全に、自由に使えるようにしたものだと説く。そして企業は、そうした社会基盤の上で競争を展開しているが、高度化し続ける消費者ニーズに効率よく応えていくためには、各社に共通して求められる要件を見抜き、社会基盤としてのインフラの上に、“業界独自のインフラ”を築く必要があると訴えるのである。

 特に印象的なのが、データ交換ルールを定めた上で、メーカー、卸、小売各社のEDI連携をサポートするサービス――「業界VAN」を提供しているプラネット社の事例と、「システムは共同で、競争は店頭で」という同社創設時の理念だ。すなわち、より効率的に消費者の満足度向上を図るために、各社間で共有すべきもの、差別化すべきものを切り分けて、純粋にコアコンピタンスの部分で勝負する“基盤”を整えようというわけである。このように“連携して取り組むアプローチ”は、流通業界に限らず、どの業界においても有効であろうし、特にITリソースの活用法に大きなヒントを与えてくれているように感じるのだが、いかがだろうか。

 内容的に未整理な部分もあるため、ある程度、流通業界の知識がないと若干読みにくいかもしれない。しかし、IT業界でもキーワードとなっている「標準化」の意義をビジネス視点から学べる点には大きな意義がある。この観点は、あなたの会社の業務効率化やIT活用にも新たな発見をもたらしてくれるのではないだろうか。


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