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» 2011年07月13日 12時00分 UPDATE

“PMOの成果”見える化のススメ(4):コスト管理の苦労とスキルを可視化しよう!

ベンダやSIerとの見積もり交渉が、もしかしたら一番大変な作業かもしれない。今回はその苦労を可視化する方法を紹介する。

[荒浪篤史,日立コンサルティング]

 今回はいよいよケーススタディの最後、「コスト管理」の見える化について紹介したい。これまで「課題管理」「スケジュール管理」の見える化(“見せる化”と言った方が適切だろうか)方法を紹介してきた。要約してしまえば、「せっかく頑張って活動したのだから、成果を数値化してアピールしよう」ということである。だが、「数値と言っても理論値に過ぎないわけでしょ?」と言われてしまえば確かにそうなので、理論的でカタブツな方には、もしかしたらご納得いただけないかもしれない。

 ではどうするか? “誰でも納得できるリアルな数値”で、なおかつ“経営層にとって減ると嬉しい数値”を使ってご納得いただくしかない――というわけで、自ずと導き出されるのが今回解説する「コスト」なのである。

 今回は、この「コスト管理における成果の見える化」の方法として、コスト効果のアピール方法をご紹介しよう。ただし、「PMOがコスト管理を担っていること」――すなわち「ベンダからの見積もり収集や価格交渉を行っていること」と「発注額を把握できていること(直接の発注はユーザーがするとしても)」を本事例の前提とさせていただきたい。従って、今回についてはPMOに限らず、社内でそうした業務を担っている方なら、自己評価アピール方法として大いに参考になるのではないかと思う。

コスト管理の見える化も、最初はやっぱりKPI設定

 では早速、本論に入ろう。まず、コスト管理見える化のプロセスだが、第2回第3回で説明した「課題管理」や「スケジュール管理」と同様、やはりKPI設定→モニタリング→評価で構成される。プロセス設計時の留意事項も同じなので、その辺りは各回をご参照いただきたい。それでは、各プロセスの具体的な中身を紹介しよう。

 まずKPIだが、これもこれまでと同様、「コスト管理は何のためにやるのだろう」と考えて整理してみよう。例えば、コスト管理の目的は、「(1)コストを推計・予算化し、適宜、予算を確保した上で、使ったり、使用状況を把握したりする」ためだ。また、「(2)予算内でプロジェクトを完了させる、あるいは、QCD達成を前提に可能な限り予算を低減するため!」だと定義できよう。

 よって、(1)については、「予算推計の正確性」をアピールする数値として、「実際の実行額÷予算額」から算出した「予算精度」が考えられる。これが100%に近ければ近いほど、「予算が正確であった」、すなわち「PMOは経験豊富で頼れるパートナーであった」とアピールできるはずだ。ただ「実際はムダがあったのに、予算上限ぎりぎりまで使い込んだのではない」ことをきちんと説明することもお忘れなく。そうしないと説得力に欠けてしまう。

 一方(2)は、先ほど述べた“リアルで説得力のある数値”を示すためのKPIとなる。具体的には、「予算」と「実行額」の差、すなわち「コストダウン額」をPMOの成果としてアピールしてしまうのである。

 経験のある方にはご理解いただけけるだろうが、コストダウンに向けた値切り交渉は、多くの熱意と、広い経験、知識を必要とする作業である。会社によっては、専門部隊を常設しているくらい、難易度が高い作業である。システム構築・開発ベンダや社内の開発部門は、1円でも多くの売り上げを確保すべく、自らの見積もりの正当性を主張してくる。そして、彼らはそれが使命なので、そうそう簡単にはお安くしてくれない。PMOはそれを理論的に切り崩し、一定の節度を持った上で、“熱く減額を迫る”のだ。

 こんなに難しく、大変な作業なのだから、コストダウンを実現した暁には、PMOは相応に評価されてしかるべきなのである。

ALT 図1 熱意と経験と知識で、ベンダが提示してくる見積もり額から、過剰スペックや余剰工数を見抜き、一定の節度をもってカットする。こんな大変な作業なのだから、きちんと分かってもらおう

モニタリング――交渉ノウハウは共有しよう

 KPIが明確になったら、次は「実績をいかに収集・記録するか」を考える。ただ、これについては、プロジェクトを通じて「どの位の見積もり数があるのか(調達単位やベンダ数による)」、「見積もりのタイミング(定常的に発生するものなのか、あるいは、プロジェクト個々のスケジュールにより不規則に発生するものなのか)」によって対応を変えた方が良い。

 見積もり数が少なく、発生頻度が不規則であれば、定常的なスキームにする必要はないし、発生の都度、記録していくことをルール化するのみで良い。一方、見積もり数が多く、定常的に発生しているなら、効率化および見積もりモレ防止の面から、定常スキーム化したほうが良い。どちらが適切かは、「PMOのメンバー1人1人が担う見積もり数」など、プロジェクトの状況に応じてPMOリーダーが判断すると良いだろう。

 記録する数値については、「PMOの減額交渉によってコストダウンが進む様」をアピールするわけなので、「初回見積もり額」「第2回交渉後見積もり額」「第3回交渉後見積もり額」……といったように、交渉するたびに逐一記録しておこう。見積もり書原本は保管されているだろうから、「記録」と言うには大げさかもしれないが、この数値の推移が努力の証となるのである。

 また、そうした数値を一覧化したり、偏差をアピールするグラフの作成も忘れずに。これにより、PMOの交渉の成果が誰の目にも一目瞭然となるのはもちろんだが、「このベンダは最初に吹っかけてくる」とか、交渉時に交わすあらゆる情報について「あのベンダはヌケ、モレが多い」など、傾向の把握にも役立つからだ。

ALT 図2 ベンダと交渉を重ねるたびに見積もり額を記録しておき、グラフで可視化しよう。このグラフの形こそがPMOの熱意と経験とノウハウの証となる

 ここでポイントを1つ解説しよう。前述の通り、減額交渉は非常にヘビーな作業であり、それなりのノウハウを必要とするものなので、やはりその「大変さ」「高度さ」も分かってもらった方が良い。そこで、減額交渉時の交渉記録をメモしておくこともお勧めする。

 例えば「プログラム規模に比べてテスト期間が長い。テスト期間短縮による減額を要請」といった具合にメモしておくのである。これによって、PMOリーダーや他のPMOメンバーは、次回の交渉を担当するメンバーに対し、リアルな体験に基づいた非常に有効なアドバイスをすることができるし、新しい交渉ロジックを知る機会にもなる。つまり、PMOメンバー全員のスキル底上げ→さらなる減額促進といった“正のスパイラル”を実現する貴重な財産となるためだ。

評価――熱意と知力の総合力=コスト削減

 さて、いよいよ成果の評価である。日ごろのルサンチマンを込めて(笑)あえて繰り返すが、われわれの苦労をあまり知らない人たちによる、あの心外なひと言、「Aさん、プロジェクトは無事終了したわけだけど、Aさん率いるPMOはどのくらい貢献したの?」にズバッと回答するのである。

 今回は単刀直入に、「われわれの見積もり精査により、○%のコストダウンを達成しました」とアピールしよう。対予算比のコストダウン率/額、対ベンダ初回見積値比のコストダウン率/額をそのまま提示するのである。加えて、各ベンダの傾向分析などを添えれば、プロジェクトオーナーや幹部からは喜ばれるに違いない。


 さて、いかがだっただろうか。今回は冒頭で述べたように、「PMOが見積もりを精査し、交渉も行っていること」を前提としている。もしあなたが日常的にベンダと交渉しているなら、今回紹介したような記録を取り、ぜひ上司や組織に自分からアピールしてみてはどうだろうか。もちろん、読者の方、1人1人置かれた環境は違うと思うので、中にはアピールしにくい雰囲気の中にいらっしゃる人もいるかもしれない。だが、アピールしないにしても、自分の交渉の内容と効果を記録しておくことは、マネジメント力の改善と強化に大いに役立つはずだ。

 また、PMOは基本的に、実開発チームに対して第三者的な位置付けとなるため、見積もり交渉までは担っていないケースも多いかもしれない。だがそれでも、コストに対して今回紹介したような観点を持っておくことは、プロジェクトを統括するPMOとして、とても大事なことと言える。ぜひ、日ごろのコスト管理の参考にしてほしいし、機会があれば実践いただければと思う。

 次回は早くも最終回となる。これまで紹介した個々の見える化事例が、PMOの全体スキームではどう相関し、流れていくのかなど、本連載を総括したいと思う。お楽しみに。

筆者プロフィール

荒浪 篤史(あらなみ あつし)

日立コンサルティング シニアマネージャー。大手ネットワークベンダーにて、さまざまな業種の企業および団体、官公庁のオープンシステムの設計プロジェクト・マネジメントを手掛け、IT企業の立ち上げにも参画した。2007年より現職。これまで大手メーカのITインフラ再構築プロジェクト、大手商社の全国240拠点のITインフラ構築、運輸運送業情報システム子会社のプレゼンス向上などに携わった実績を持つ。


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