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» 2012年02月21日 12時00分 UPDATE

情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(80):コピペやお絵かきが得意な人は“中毒”の疑いあり

ITは仕事を効率化するためのもの。グラフや資料をいくらきれいに作れても、それがアクションにつながっていなければ何の意味もない。

[情報マネジメント編集部,@IT]

「IT断食」のすすめ

ALT ・著=遠藤功/山本孝昭
・発行=日本経済新聞出版社
・2011年11月
・ISBN-10:4532261406
・ISBN-13:978-4532261405
・850円+税
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 「90年代初頭、パソコンはまるで『魔法の箱』のような扱いだった。社員がパソコンを使いこなすようになり、仕事のIT化が進めば、仕事の効率は劇的に上がり、より付加価値の高い仕事に時間を使うことができるようになる。もっと楽に、質の高い仕事ができるようになる……はずだった。ところが現実にはまったくその逆になっていないだろうか。パソコンの『せいで』忙しくなっている上、新しいアイデアを出したり、新規の顧客を開拓したりといった、付加価値の高い仕事をする時間が減っていることもよくある」「人びとが気付かないうちに、じわりじわりと侵食しているのが、IT依存症という中毒なのだ」――。

 本書「『IT断食』のすすめ」は、ITへの過度な依存により、「ITによって得られるメリットとデメリットが一部で逆転してきた」ことに警鐘を鳴らす作品である。例えば、絶えず送り付けられる電子メールや共有ファイル。この処理に時間を取られ、「じっくり考えたり、分析したり、人と対話したり、実際に現場に行ったりという質の高いアナログの時間」が奪われている。「集中力も奪っている。電子メールはそれまでの思考を途切れさせてしまうし、メールを確認してからもとの作業に戻るには、頭の切り替えに時間がかかる」。

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 また、インターネットの浸透により、さまざまなデータを手軽に入手可能となった。「表計算ソフトやプレゼンソフトが一般的になったおかげで」「見栄えのいい資料を簡単に作ることもできるようになった」。そのために「より多くの時間がコピーネタのコレクションに費やされ」、「さして意味のない資料やコンテンツが、大げさな体裁で拡大再生産されるという悪循環に陥っている」。

 著者はこうした状況を挙げ、前者の「処理し切れないほどの電子メールや共有ファイル」を「ICF(Information and Communication Flood)=情報洪水」、後者の「価値のほとんどない情報がひたすら拡大し続けること」を「BLT(バカのロングテール)」と表現。IT依存によってもたらされるこれらの事象が、職場の生産性を大幅に下げているとして、自分で考えるべきことは自分で考える、何かを調べるために現場に行く必要があれば実際に現場に行くといった具合に、全てをITに頼るのではなく、「人が主役になってITを使いこなす」姿勢に変革しようと訴えている。

 興味深いのは、この他にもありがちなIT依存の実態を数多く指摘している点だ。例えば、DBやDWHに貯められた大量のデータを引っ張り出して“分析”し、結論を出さずに美しいグラフを作り上げるだけの「分析屋」。既存の情報をコピペするだけで、まったく自分の頭を使っていない「コピペ屋」。現場の肌感覚より本社で集めた数値データを重視することで「現場の力を削ぐ管理屋」――言われてみれば、こうした“中毒患者”はわれわれの身の回りにもたくさんいる。自覚症状がないだけで、実は自分自身も中毒に陥っているケースも多いのではないだろうか。

 こうした状況を指して、著者は高度成長期に日本企業が大切にしてきた、「現場」で「現物」を見て「現実」をつかんだ上で考える「三現主義」に立ち返る必要があると指摘。「頭を使ってしっかりと考え」、新たな知恵やアイデアを生み出し、「個々の力を持ち寄り、人とのつながりによって、その力を何倍にも広げる」“良質なアナログ時間”を取り戻すべきと訴えている。

 むろん、そのためには「ワークスタイルやコミュニケーションスタイルを根っこから問い直し」、会社の風土や文化を変革する大きな取り組みになる。しかし市場競争が激化し、自社独自の競争力が求められている今こそ、ITに使われるのではなく、人が主役になってITを使いこなす姿勢が必要なのではないかと問題提起するのである。

 さて、いかがだろう。確かにITツールは便利なものだが、このように言われて1日を振り返ってみると、“仕事をしている気”になっている時間が、意外に多いことに気付く向きも少なくないのではないだろうか。

 例えば、今作っているその資料、今見つけたその文章、今書いているそのメール、本当に必要なものだろうか? 自分で考えるべきこと、やるべきこと、人と直接話すべきことがあるのではないだろうか――このように1つ1つの作業に意識的になってみることが、「IT断食」の第一歩になるのかもしれない。また、「人が使いこなすIT」という考え方は、何かと要件を詰め込みがちなシステム設計においても重要な視点を与えてくれるのではないだろうか。本書を読んで、自身はITのメリットを享受できているのか、それともデメリットの方が多いのか、“IT依存度”を確かめてみてはいかがだろう。


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