“定石”に縛られない発想力が、生き残りの条件“革新を起こす”新アーキテクチャ活用術(4)(1/2 ページ)

生き残り策を考える上でも、クラウドサービスの使い方を考える上でも、自社に合ったやり方で、ひと味違ったシステム利用を考えることが重要だ。

» 2012年09月06日 12時00分 公開
[鍋野敬一郎,@IT]

モノが売れない時代、モノを作るだけでは儲からない時代

欧州金融危機と米国景気の減速が世界経済の回復にブレーキをかけています。また、中国やアジア新興国市場の成長鈍化や再度の歴史的円高など、製造業にとっては依然として厳しい状況が続いています。

 これを受けて、大手自動車メーカーやハイテク・電機メーカーは、大規模なリストラや組織体制の見直しを断行していますが、世界経済が再び低迷する様相から、製造業の空洞化はさらに加速することが予想されます。事実、「生産拠点を海外へ移すことでコストダウンと市場拡大を狙う」戦略は、製造業ではすでに当たり前の考え方となっています。こうした大手の動きに呼応して、原材料や部品を供給している中堅・中小メーカーも海外進出を進めています。

 大手メーカーの海外移転の狙いは、リストラによる人件費削減や為替対策のみならず、調達先の見直しや税金の優遇・控除、海外市場の開拓など、国内と海外を入れ替えるような新しいビジネスモデルの構築にあるようです。しかし、余力のない中堅・中小メーカーは、国内の雇用や設備を簡単に整理することはできません。国内の工場設備や人員を生かすための施策が切実に求められているのです。

 今回ご紹介するケースは、海外展開をしたくでもできない中堅・中小企業が、モノ作りで生き残るために行った取り組みです。モノが売れず、モノを作るだけではもうからない時代を生き抜くための秘策について考えます。

モノ作りで生き残るためには、サービス提供の在り方が鍵

 では早速、事例に入りましょう。モノ作りとともに、サービスの在り方に生き残りを賭けた中堅機械メーカー、C社のケースです。

事例:サービスに生き残りを賭けた中堅機械メーカーC社の挑戦

 従業員200名ほどの中堅機械メーカーC社は、リーマンショックがきっかけとなって大手メーカー向け部品生産が減少し、売り上げが減り続けていました。また、東日本大震災などの外部要因を受け、取引先の大手メーカーが主力国内工場の海外移転を決めたことによって、C社にとっては景気回復による需要回復の期待もほぼ確実になくなってしまいました。

 これによって、「草刈機の生産」と「ハイテク大手メーカー向けの部品生産」を事業の二本柱としていたC社は、屋台骨であった「部品生産」の赤字化を喫することになりました。取引先の大手メーカーからは、工場海外移転の際に海外拠点への進出を打診されていたのですが、C社ではその直前に、ERP導入による基幹システム刷新と工場設備の入れ替えを行っていました。そのため、銀行からの借入金が多く、海外進出のための資金を捻出することもできなかったのです。

 次第に減っていく部品生産を何とか立て直そうと、C社では経営陣のみならず、全社を挙げて新規受注先の開拓や商品開発に取り組みました。しかし、歴史的な円高と国内製造業の空洞化の波には対抗できず、部品生産については万策尽きてしまいました。

 残る望みは創業時から続く草刈機の生産です。C社は老舗の草刈機メーカーということもあり、さまざまな農業機械製品がひと通りそろっている他、ノウハウも実績もあることから、長年愛用しているユーザーが数多くいます。しかし直販はしておらず、商社や卸売業など代理店を通じて販売していたため、大きな需要の変動はないものの、事業としてはほとんど成長が見込めず、横ばい状態が続いていました。加えて、国内に多数の同業者がある他、最近では中国製の安価な製品がホームセンターなどに出回っていることもあり、市場競争が以前より厳しくなっていました。

 しかし、C社にとって生き残る道は草刈機の生産、これ1本しか残されてはいません。そこで、これまで日の目を見なかった草刈機ビジネスに生き残りを賭けることにしたのです。

 もちろん、何の勝算もなかったわけではありません。何度もリピートオーダーをする顧客が多かったこと、草刈機を直接購入したいという要望が多数寄せられていたこと、また、修理サービスや使用方法の講習会などの依頼もよく受けていたことから、「もしかしたら、これらを増やすことで生き残る道が開けるかもしれない」と考えたのです。

 そこで、まずC社が取り組んだのは、毎月エンドユーザーから問い合わせがある替刃や消耗しやすいパーツを、インターネット通販で直接販売することでした。すると、すぐに芳しい成果が上がりました。これまでは電話やFAXなどの注文が毎月50件程度あるだけでしたが、インターネット通販でオーダーできるようにしただけで、2倍以上の注文が来るようになったのです。

 こうした反響を受けて、C社は草刈機ビジネスを見直すポイントを、2つのテーマに絞りました。1つ目は、「エンドユーザーの要望には徹底して応える覚悟をすること」です。というのも、問い合わせをしてくるユーザーには、C社の製品の良い点も悪い点も熟知している長年の愛好者が多く、彼らの製品に対する指摘は、実に的確だったためです。例えば、C社ではコストダウンのために部品の耐久性や品質を犠牲にしたこともありましたが、彼らはそうした弱点を正しく指摘し、これを改善すると必ず高く評価してくれました。またこれを受けて、C社は他製品に対抗して価格を安くしていたことを見直し、多少製品価格が高くなっても要望のあった改善を施したり、耐久性にこだわった製品改良を続けたりしたところ、売れ行きが伸びるということも分かったのです。

 2つ目は、「エンドユーザーと直接対話し、その要望をきめ細かく聞き届けてサービスに還元すること」です。前述のように、ユーザーからの問い合わせには「使い慣れた草刈機を修理してほしい」「使い方の講習会を開催してほしい」「替刃や消耗品だけではなく、全てのパーツを販売してほしい」といった要望が以前から多くありました。しかし従来は予算や人的リソースの都合上、そうした要望をきめ細かく聞き入れて実施することがなかなかできなかったのです。

 ただ、この2つ目のテーマを実現するためには、「エンドユーザーの顧客情報管理」と「コスト効率の良いサービス提供の仕組み」を作ることが必要になります。しかしこれまでは代理店経由の販売だったため、顧客情報管理も修理などのサービス提供も、C社には既存の仕組みがありませんでした。

 そこで考えたのが、インターネットとクラウドを使ったWebシステムの活用です。試験的に行ったインターネット通販の経験から、膨大な数のエンドユーザーと直取引をするためにはインターネットが不可欠だと分かっていましたし、顧客情報管理とサービス提供のコストを最小限に抑えるためには、パブリッククラウドが最適だろうと判断したのです。


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