ITmedia NEWS >

東芝が主張する、記録型HD DVDが32Gバイトで十分な理由東芝「DVDの父」がホンネで語る次世代DVD論(後編)(1/2 ページ)

» 2004年04月26日 16時04分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 前回に引き続き、東芝デジタルメディアネットワーク社主席技監・山田尚志氏に話を伺った。先週は分裂の経緯が中心となったが、今回は東芝がなぜ容量的には不利な0.6ミリ保護層のHD DVDを支持しているのか、主に東芝サイドから見た“HD DVDの優位性”について語ってもらった。

ハイブリッド主流なら32Gバイトで十分

 次世代光ディスクについては、“録画用途”と“パッケージメディア用途”で分けて考える必要がある。そこで、まずは録画用途面から見たHD DVDについて、疑問をぶつけてみた。一つ目は2層記録型ディスクの「容量」である。

 記録型(書き換え型)の「HD DVD-ARW」は、片面1層で20Gバイトの容量があるが、2層メディアになっても40Gバイトにはならない。現時点で2層HD DVD-ARWの物理仕様は確定していないが、「32Gバイト+」という表現になっている。

 「1層だけであれば20Gバイトが可能だが、2層目は確実に安定して読める領域が狭くなる。(技術的ハードルを下げるためにも)容量を落とそうということになった。現状では“32Gバイト+”という表現になっているが、最終的には32Gバイトちょうどになる見込みだ。材料としてはすでにそろっており、量産時に問題となることはないだろう。1層も2層も、歩留まりは全く気にしていない」(山田氏)

 しかし片面1層20Gバイトしかない場合、高ビットレートの2時間番組を録画するには、必ず2層ディスクが必要になる。VHSテープでもっとも消費量の多いのがこの“2時間記録メディア”だ。それが2層になると、コスト競争上から見て“キツイ”のではないだろうか?

 「2時間録れるだけでいいだけならば、もっとも高ビットレートのNHK BS-Hiでも(1層で)2時間録画できる。放送で流れてくるMPEG2 TS(トランスポートストリーム)のパケットから不要なデータを捨てることで、MPEG2のまま記録時間を延ばせるからだ。ハードディスクで一度バッファーし、不要なデータを削除すればいい。ハードディスクも400Gバイトの時代だ。ハイブリッド型が主流なのだから、これで十分なのではないか?」(同氏)

 HD DVDでは、低ビットレートでの画質面で有利な「H.264」と「Windows Media Video(WMV)」もCODECとしてサポートしている。ただし、いずれもMPEG2よりもリアルタイムエンコードで必要な計算能力が大幅に増えてしまう。HD DVDレコーダーに、これらのエンコーダは搭載されるのか?

 「放送用のMPEG2 TSから、WMVやH.264にトランスコードできる製品も発売する。来年になれば、H.264とWMVはSD対応のリアルタイムエンコードチップが登場する。これを使えばリアルタイムのトランスコードが可能だ。同様にH.264とWMVに対応したデコーダチップも10社ぐらいが作っている。いずれも標準解像度対応だが、4個並列で使うことでハイビジョンのリアルタイムエンコードも可能になる」(同氏)

WMV、H.264の採用はコストアップ要因ではない

 WMVやH.264のデコーダチップを搭載すれば、半導体のコストが高くなると思われるが、十分に価格競争力のある形で実装できるのだろうか? 特にプレーヤー側は、MPEG2、H.264、WMVのすべてをサポートしなければならない。

 「現在はまだシミュレーションの段階だが、0.13ミクロンプロセスで製造した場合、H.264のHDデコーダのダイサイズは3ミリ角程度にしかならない。これにWMV再生機能を付け足したとしても(共用できる部分が多いため)、ダイサイズは10%しか増えない。デコード回路は複雑で設計は大変な作業だが、回路規模は大きくない。むしろ、字幕のオーバーレイやアスペクト比変換、輪郭強調などの後処理の方がダイ面積を多く使う。したがってWMVやH.264をサポートするための(半導体)コストは高くない」

 東芝は、以前からWMVとH.264のデコーダは回路の90%を共通化できると話している。だが、別の半導体ベンダーは、かなり異なる設計が必要と話していた。似た特性を持つ二つのCODECサポートは、将来のプレーヤー専用機でコスト面の負担にはならないのか?

 「MPEG2、WMV、H.264の三つに対応するデコーダは来年完成するが、前述したように非常に小さなものになる。90%共通化できるかどうかというのは、半導体設計の思想によるものだ。デコーダに必要な要素を論理的に組み立てれば、全く問題はない」

 エンコーダ側は4チップ並列で使うことによりハイビジョン対応にするとの事だが、1個あたりの計算量はMPEG2よりもかなり大きいものになるだろう。特に東芝が研究開発しているH.264に関しては、エンコード時の計算量はMPEG2の10数倍になると見られるが、消費電力に伴う熱の問題はないのか?

 「一般にエンコーダに必要な回路は、デコーダ回路の10倍となる。H.264のデコーダは1ワット、その10倍で10ワットぐらいの消費電力。これを4個使いで入れることになる。また、来年の後半には独立系の半導体ベンダーが1チップ構成のハイビジョン対応H.264エンコーダを出す予定だ。最終製品として発売する時期には、熱の問題はなくなっているはずだ」

 WMVもしくはH.264のエンコーダは、東芝が来年発売予定のHD DVDレコーダー1号機にも搭載される予定なのか?

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.