ITmedia NEWS >

災害時のTV放送、頼りになるのはどれか(1/2 ページ)

» 2004年07月29日 16時16分 公開
[西正,ITmedia]

 わが国は地震大国であり、過去にいくつもの大震災を経験している。当然ながら、今後も常時、地震災害が起こる可能性については心がけていなければいけないだろう。

 そうした中、独自衛星を使うモバイル放送がこの秋にスタートするのに続き、地上波デジタル放送の移動受信(ワンセグ・モバイル)も来年度中にはサービスを開始できそうである。

 テレビ放送の情報量の多さは誰しも認めるところだが、いざという時、担いで逃げるわけにもいかないというのが“弱点”だった。しかし、移動受信が可能になれば、災害に備えた三点セット「ラジオ、懐中電灯、乾パン」のうち、ラジオをテレビに変えることもできるようになるだろう。

 新しく始まる放送のうち、モバイル放送は当初から、災害時にも機能することをアピールしていたが、地上波デジタルの目玉商品であったはずのワンセグ・モバイルも、ここに来て、そのニーズが見出しにくくなってきたせいか、防災機能をアピールし始めている。

 そこで、既存の地上波に衛星波、モバイル放送、ワンセグ・モバイルなど、それぞれのTV放送の災害時放送における特性や放送局側が今後対処すべき点などを考えてみることにしよう。

モバイル放送とワンセグ・モバイルの可能性

 災害時に情報提供を行う場合、その根本的な仕組みから言って、地上波よりも衛星波の方が向いている。その理由は、地上波が基本的に県域を免許としているのに対し、衛星は全国一波だからである。その具体的な違いを、北海道に住む人が出張で九州に来ている時に、北海道で地震が起こったケースから考えてみよう。

 ワンセグ・モバイルであれば、移動先でも気になるニュースをチェックすることは可能である。ただ、かなりの大災害でもなければ、九州地区の放送局の番組からは、テロップが流されるくらいかもしれない。北海道の家族を心配しても、九州に暮らす人たち向けの番組からは、それほど詳細な情報を得られないだろう。

 その点、全国一波の衛星波なら、地域の別なく、災害情報が提供される可能性が高い。ただ、通常の衛星放送の場合、受信には大きなパラボラアンテナが必要で、出張先で見ることは現実的とは言いがたい。

 モバイル放送が注目に値するのは、まさにその点にある。同放送の場合は、当初の番組編成の段階から災害対策を意識しているため、平時はニュースを淡々と伝えているチャンネルが、どこかで災害が起こるや否や、災害放送に切り替わることになっている。これであれば、住居地を離れている時に、何かが起こっても、すぐに肝心の情報を引き出せるだろう。

 津波などの災害情報に関しても、地上波を漁船やヨットで受信することは困難だが、モバイル放送なら小型の受信器で受信できる。登山、トレッキングあるいはドライブで遠隔地にいても、災害関連情報を簡単な受信器で受信できる。そういう意味で、モバイル放送はこれまで手が届かなかった領域で防災に力を発揮すると考えられる。モバイル放送のシステムを防災の観点から強化すれば、さらにさまざまな場面で貢献ができる大きなポテンシャルを持っていることは明らかだ。

 ただ、被災地そのものに居合わせた場合は、話は若干異なってくる。まさに、テレビを持って避難することができるということで、モバイル放送も地上波のワンセグ・モバイルも同じように機能するだろうからだ。いずれも、ギャップフィラーのような重厚な地上系システムが整備されていることが前提となるが、移動しながら受信することもできるから、正確な情報を大量に入手することも可能になる。採るべき対応もより明確になってくるに違いない。

 逆に、通常の衛星波は被災地ではあまり役に立たない可能性がある。アンテナがズレたら受信できないからだ。ちょっとした強風が吹いても動いてしまうことがあることから、地震で家が傾いたら、受信することは間違いなく不可能になる。

大きく異なる放送局側の準備

 ここで一考しておかなければならないのは、災害が起こった際の「送信側」、つまり放送局側の対応についてである。災害放送について語られる時、われわれは往々にして受信サイドに立って物を見がちだが、そもそも情報を発している放送局がどう対応するのかということについても考えておく必要がある。

 最大の問題は、関東地方で大震災が起こった場合である。全国向けの情報の大半を、東京にあるNHKおよび民放キー局各社が発信している。万が一、関東で大震災が起こると、全国放送そのものがストップしてしまうことになりかねない。そうした事態が起こった時の対応については、さすがに、これまでテレビ放送の中核的な役割を担ってきた地上波局、特に東京のキー局が最も周到な対策を練ってある。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.