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多チャンネル放送の視聴スタイルに見える「変化の兆し」

» 2004年10月01日 12時54分 公開
[西正,ITmedia]

スカパー!チューナーの設置場所の問題

 スカパー!(スカイパーフェクト・コミュニケーションズ)の前身であるパーフェクTV!(日本デジタル放送サービス)が登場し、CSデジタル多チャンネル放送が開始された当初は、今後は視聴者一人一人の嗜好に合った視聴スタイルに変わっていくだろうと言われていた。CSデジタル多チャンネル放送には、さまざまなジャンルにわたる個別専門チャンネルがあったからだ。

 その後、合併に次ぐ合併があり、多チャンネル放送のプラットフォームはスカパー!一社に集約された。だが、視聴者一人一人の嗜好に合った視聴スタイルというものは実現されていない。ほとんどの世帯では、スカパー!のチューナーがリビングにある“一番立派なテレビ”に接続されているためだ。VTRはもちろんのこと、CATVのセットトップボックスなど、何かをテレビに接続して使うとなると、必ずと言っていいほど、その家にある“一番立派なテレビ”に接続される傾向にある。

 テレビの普及も進み、一世帯に2台や3台のテレビがあることは珍しくも何もなくなった。それでも、「家電」の定義そのものではないが「一家に一台」としての使われ方は変わらない。

 家族が自分の個室を持ち、個室ごとに使うエアコンのような「個電」として使われるテレビは増えている。だが、それらの「個電」型テレビは、テレビゲームのディスプレイとして使われることはあっても、そこに“ボックス”をつなぐ習慣が日本にはない。そのために、スカパーのチューナーもリビングのテレビに接続されているケースが大半になってしまっている。

 同じ家族であっても、スポーツが好きであるとか、ドラマ・映画が好きであるとか、囲碁・将棋が好きであるとか、それぞれの嗜好に違いがあってもおかしくはない。多チャンネル放送の存在意義を原点に立ち返って考えてみれば、それに合わせて個々に視聴することが出来るのが当初のセールストークであったはずである。

 ところが、チューナーがリビングにあるテレビに接続されているため、その真価が発揮されずにいた。スカパーの加入者がここに来て伸び悩んでいる理由を探るとすれば、むしろ、そうした本来の趣旨とは異なる使われ方がなされてきたところにも遠因があるように思われる。

 しかし、ようやく今、その原因は解消される方向に向かい始めた。放送のデジタル化によって、リビングのテレビが地上波、BS、CSの三波共用のデジタルテレビに買い換えられ始めたからである。この現象は、先行きが今なお不透明と言われる110度CS放送を生かすものとして期待されているが、それだけでなく、スカパーそのものの加入者数をも再び上昇軌道に乗せていくことにつながると考えられるのである。

 リビングにあるテレビが三波共用機になれば、わざわざそれにスカパーのチューナーを接続する意味はなくなる。110度CSの中身は、124度、128度衛星を使うスカパーと、大半がサイマルであると言われてきた。だが、110度CSの方はリビングで視聴されることを意識して、ハイビジョン化も行われるし、チャンネル数も減らされている。これまでスカパーのチューナーを持っていた世帯では、自然と、その接続対象が2台目、すなわち個室のテレビの方に移っていくことになるだろう。

固定電話と携帯電話の関係

 ただ、問題は、そこから先のところにある。すなわち、個室で使われ始めるスカパーのチューナーの数が増えていくかどうかである。

 一世帯の各個室で、複数のスカパーチューナーを使用するためには、1台のアンテナからの分岐が必要になる。これまでは、その部分にもそれなりのコストが必要だった。これは、1台のアンテナで複数機を使うケースがほとんど想定されなかったからであろうと思われる。ただ、110度CSと、既往の124度、128度CS放送との差異化が言われ始めたこともあり、複数分岐を低価格で実現する機器も用意されるようだ。

 複数分岐のコストの問題が解決すると、複数機が使われる可能性も増えていくだろう。一世帯で複数機が使われるようになると、「加入世帯数」は伸びないかもしれないが、「個人ベースの加入者数」は確実に伸びていくことになるだろう。

 その理由は、固定電話と携帯電話の関係と同じだ。この場合は、110度CSが固定電話で、既存の124度、128度CS放送が携帯電話ということになる。固定電話は「一家に一台」あるとしても、それとは別に個人的に使うものとして携帯電話が普及してきたことは周知の通りである。

 専門チャンネルの集まりである多チャンネル放送の原点は、あくまでも個人ベースでの視聴が前提だった。リビングのテレビで見る110度CSとは別に、2台目のテレビで124度、128度CS放送が見られるという習慣が普及していけば、また別の部屋にある3台目、4台目のテレビでも124度、128度CS放送が視聴されることになるだろう。

 そうは言っても、さすがに契約するチャンネルまで重複することは考えにくいので、世帯ベースでトータルの割引価格のようなものも、さらに使いやすい形に設定されていくことになるに違いない。

 ちなみに、一人暮らしの人は、携帯電話だけあれば十分なので、固定電話と契約しないケースが増えている。その点についても同じことで、一人暮らしなら、110度CSと、124度、128度CS放送の両方を契約する必要は全くない。

 多チャンネル放送のチューナーが、リビングのテレビから開放されることになると、改めて本来想定された形での普及に弾みがついてくる可能性が大きい。一方、110度CS放送のチャンネル・ラインナップはリビングのテレビで視聴するのにふさわしいものとなっている。“固定電話的な受け止め方”がされるようになれば、こちらの伸びも大いに期待できるのではなかろうか。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。

銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、潟IフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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