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対談 小寺信良×津田大介(3)――コンテンツ業界は今、なにをするべきか特集:私的複製はどこへいく?(2/3 ページ)

» 2004年11月09日 05時39分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

津田:音が悪いというのもありますけれど……。音楽好きのヒトから見てみたら、音楽なんて友達同士で貸し借りするのはごく当たり前のことで、それを制限するなんて自分で自分の首を絞めるようなものだ、って素朴な感情で反対している人もいますね。

小寺:僕はレンタルレコードで育った世代です。レンタルレコードが生まれたって背景には、音楽と最初に出会う多感な青年期の人間にとっては、レコードというのはぜいたく品だったってことを表しているんですよ。これだけ制作技術や流通で革命が起きているのに、ずっと価格が贅沢品のままに据え置かれているというのはおかしいですよ。

津田:イチ消費者からすれば、Amazonを使えば輸入盤CDが1枚1200〜1300円で買えてしまうのに、なんで国内盤となるだけで3000円もするのかという感覚があります。

 個人的には、2〜3年前までは1枚3000円でも高いと感じなかったんです。ですが、CCCDとか輸入権の問題が起こったあとになると、“こんないい加減なことをされているんじゃ……”と国内のレコード会社に対して気持ちがなえちゃったんです。海外にも好きなアーティストはいますから、輸入盤を買えばいいかなって。

 多分、レコード会社の人も、3000円という価格でいいとは思っていないんです。ただ、いくらにすればいいのかが分かっていない。

 シングルならば、一時期だけ1000円を500円にする「ワンコインCD」という販売形態がありますけれど、それで売り上げが伸びているかというと、実はそうじゃない。仮に1.2倍売れたとしても、500円だと全体の売り上げとしては下がっているわけですから。

 「高いんだろうな」とは漠然と感じていると思うんですが。どうしたらいいのかという落としどころが分かっていなくて、分からないからそのまま、となっているのではないでしょうか。

 個人的は、1500円〜2000円あたりが適正な価格じゃないかなと思いますね。1980円という値付けがされれば、ずいぶんと安くなったなぁと思われるんじゃないですか?

――DVDで売られている映画のなかには、1480円という価格付けがされているものもあって非常に値ごろ感が強いです

津田:映画の場合には、まず劇場公開があって、そのあとにPPV(ペイ・パー・ビュー)放送があって、その後DVD化してパッケージ販売して、最後に衛星放送や地上波に売るという流れがあります。回収のポイントが多いんですよ。

 しかし、音楽の場合、基本的にCDパッケージで販売するほかには収入の手段がないんです。音楽配信が伸びてる米国ですら、音楽配信は売上全体の数%ですから。ですからCDをDVD映画のようには価格が下げられないことはよく分かります。

 ただ、これはそのビジネス手法を知っているから理解できることであって、一般の消費者からすれば、そんなことはどうでもいい話なんですよね。単純に店頭でCDとDVDの価格を比較したときに「CDって高いよね」という感想を持ってしまうのは無理もない。むしろ、それを分かった上でビジネスを始めなきゃいけないんです。

ユーザーをナメるな

小寺:結局、われわれが何を語っているかというと、ホビーの世界のことなんですよ。音楽を聴くのも、映画を観るのも趣味の世界じゃないですか。やめようと思えばやめられるものですよ。エクセル使えないと会社で困る(笑)なんてのとは事情が違います。そういう危ういところに食いついているのに、ユーザーのこと考えてないと、「本当に聴いたり見たりするのやめちゃうぜ」ってなりかねませんよ。

津田:本当にそうですよ。趣味性が強いがために、ほかの業界以上にユーザーの考え・動向に注意を払うべきなのに、それがなされていない。これは音楽も、映像も、出版もそうですよ。

小寺:現実問題として“本離れ”はかなり深刻で、いちばん影響が出ていますよ。だからこそ、業界側も自分たちの現状を説明して、声を上げていかないと、コンテンツ業界そのものがダメになってしまう。

――リアリティがあり過ぎるお話ですが……(笑)

小寺:俺たちつぶれちゃうよ?(笑) 俺の原稿読めなくなっちゃうよ?(笑)

津田:音楽業界もひどいと言われてますけれど、まだ未来が見えますよ。やりかた次第だとは思いますけれど。出版はインターネットとの関わりをどうするのかを、どこかで解決しないと大変なことになりますね。

――未来の話が出ましたが、今後、コンテンツ業界全体としては、どのような問題点を話し合い、解決していくべきなのでしょうか?

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