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プラズマテレビの逆襲麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/4 ページ)

» 2005年08月31日 16時41分 公開
[西坂真人,ITmedia]

――なぜテレビでフルHD化が急速に進んでいるのでしょうか。

麻倉氏: やはり放送がフルHDになったことが大きいですね。テレビの進化と放送とは、密接な関係があります。EDTVやMUSEハイビジョンまではブラウン管としての対応がありましたが、ハイビジョン化に関してはシャドーマスクのピッチ幅を狭めることで対応するなど、ブラウン管ではもともとムリがあったのです。高精細に有利な画素型の薄型テレビになってきたのも、放送の進化によるものが大きいですね。

 工業会による“ハイビジョン”の定義は幅広く、720p(1280×720ピクセル)でもハイビジョンだし、ALISパネルのハイビジョンは1024×1024ピクセルですがハイビジョンをうたっています。今まではフルHDではなくてもハイビジョンという言い方が成り立っていましたが、今後は「フルHD」と「その他一般ハイビジョン」というカタチに区分けされていくでしょう。

――フルHDで先行した液晶に対して、プラズマはその構造からフルHD化が難しいと言われてきましたよね。

麻倉氏: 半導体プロセスを使った液晶の方が、微細化に有利なのは当然です。37V型、45V型と昨年相次いでフルHD化を果たした液晶に対して、プラズマは後塵を拝していた状況でした。ですが、そうとう難しいといわれていたものをクリアしてきたのが、これまでのエレクトロニクスの世界での技術開発の歴史です。液晶も最初は小型向けといわれていたのが年々大型化が進み、今ではプラズマの独壇場だった40インチ超の大型テレビ市場に製品を投入するまでになりました。プラズマもそうとう大画面でないと不可能といわれていました。その意味で、今回の松下のフルHDプラズマはエポックメイキングな出来事といえるでしょう。

――65V型という画面サイズとフルHDにはどういった意味があるのでしょうか。

麻倉氏: 映画はより臨場感を得るために横長化・大画面化に進んでいきました。それに合わせてテレビも4:3から16:9となってやはり大画面という流れに進みました。つまりコンテンツへいかに没入できるかというのは、画角と画面サイズが非常に重要なのです。

 放送やパッケージがハイビジョンになるということは、映画館の臨場感を家庭内で楽しめる環境が整ってくるということ。そうすると画面サイズは大きければ大きいほどより臨場感を得られるのです。

 今までのリビングでのテレビと人の位置関係は、1.8〜2メートルぐらい。その距離で50V型だと30〜35度という画角がとれる。この数字はNHKが研究から導き出した「テレビで臨場感が得られる画角」と合致するのですが、映画の世界をより楽しもうとした場合、テレビとしての臨場感は30〜35度の画角で十分だったのですが映画館の臨場感にはもう少し画角が必要になるのです。映画館は、客席の真ん中に座った時の画角がちょうど45度になるように設計されています。一般的なリビングの視聴距離で映画館の臨場感、つまり45度の画角を得るためには65V型の画面サイズが必要なのです。

photo 松下電器産業のフルHD対応65V型プラズマテレビ

――プラズマでも画面サイズだけなら松下が昨年すでに65V型を出してましたよね。

麻倉氏: ただし、臨場感だけでは人間は感動しないのです。そこで必要になってくるのは精細感です。薄型テレビは画素で映像を構成するのですが、人間は画素構造が見えると興冷めしてしまうのです。昨年松下が出した65V型は、たしかに65V型の圧倒的な臨場感はあったのですが、大画面の分だけかなり画素が目立ちました。映画館の臨場感とシルキーな映像による没入感を得るためには、大画面(画角の大きさ)と精細感の両方が欠かせないのですね。

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