コラム
» 2005年09月01日 13時06分 UPDATE

西正:衛星による地デジ再送信の「論点」 (1/2)

2011年のアナログ放送終了に向けたカウントダウンとして、IP方式、スカパー!・JSATによる衛星を使う方式の2つが検討されている。このうち条件不利地域のカバーという点では、明らかに衛星を使う方がベターである。

[西正,ITmedia]

「条件不利地域」における強み

 いわゆる条件不利地域の大半は、山間部・離島などの地形上の問題や、人口密度の著しく低い過疎地である。

 そのため、放送局が中継局を建てても採算が取れないし、仮に光ファイバーなどによるIP方式で送信しようにも、光ファイバーの敷設で採算が取れる見込みも少ない。地上波放送は基幹放送として、NHKに限らず全国あまねく視聴可能にしておくべきものだけに、条件不利地域であってもデジタル放送が届くようにしておかなければならない。

 一方、衛星は全国一波であるところから、条件不利地域は生じにくい。もともとNHKがBS放送を始めた経緯も、地上波の届かない地域に放送を届けるためであった。そのことからすると、衛星による再送信は十分に検討に値するものであることは間違いない。

 全国一波だなどと言うと、真っ先に出てくるのが、ローカル局の存在意義が失われるという話だ。しかし、そもそもローカル局の存在意義は東京キー局か送られてくる番組の中継基地ではなく、地域の情報発信拠点というところにある。そう考えれば、全国一波で今さら存在意義を心配するのも変な話である。

 それでも心配する人はいるだろうが、そういうことであれば、衛星放送を受信する際にはICカードが必要ということが利用できる。例えば、山形県に住む人には山形県民用のICカードを配るような仕組みを作れば、山形県内の地上波放送しか見られないようにできるのだ。衛星経由であってもエリア限定受信を実施することは、実は容易なのである。

 北海道のように広大なエリアや、有明地区、瀬戸内地区のように多くの島々を抱えるエリアでは、特に衛星による再送信が有効だと思われる。ただし、衛星に特有の弱点として降雨減衰に弱いということを懸念する声が多いことは確かだ。

 北海道といえば豪雪地帯であるし、瀬戸内や有明の島々では夏に大きな台風の直撃を受けることが多い。そうした自然災害時こそ、基幹放送たる地上波放送の出番であるだけに、降雨減衰のせいで視聴できないなどということは絶対に許されない。

 衛星による再送信を行うという案に消極的な人たちの多くは、その点をネックとして考えているようである。

「階層伝送」という技術

 しかし、大雪については、それほど大きなネックとはなりそうもない。もともとスカパー!の受信機セットが雪国で売られる場合には、アンテナにヒーターが付けられている。仮にヒーターで溶けなくても、雪払いをすれば済む話である。問題は大雨の場合だ。

 衛星にアップリンクする場所か、衛星経由で放送サービスを受ける場所のどちらかで大雨が降った場合には、何もしなければ降雨減衰で確実に視聴が難しくなる。

 だが、実はその降雨減衰を回避する手段がある。NHKのBS放送で使われている「階層伝送」という技術がそれである。

 高画質の映像を高い伝送速度を要する変調方式で伝送すると、降雨に対して十分な強さが確保できないことがある。その際、高画質情報と同時に、伝送速度は小さいが降雨に対して強い伝送方式を用いて基本的な情報を伝送する。そして電波が弱い場合は受信機が自動的に基本情報の方に切り替えるのが「階層伝送」の仕組みである。これによって放送の中断時間を低減できる。簡単なイメージとしては、36インチのテレビ画面の真ん中くらいに12インチくらいのサイズの画面で放送が視聴できるといった感じである。要は画素を収束する技術だ。

 圧縮技術として、MPEG2を使うか、H.264を使うかといった選択はあるようだが、H.264を使えば1つのトランスポンダーでHD画質のチャンネルを4チャンネルは送れることになる。ただし、階層伝送技術を採用するとなると、もう少し帯域を取るので、トランスポンダーの使用料も高くなってしまう可能性は大きい。

 スカパー!・JSATによる衛星を使った地デジの再送信を行う際には、視聴者宅の方でアンテナとセットトップボックス(STB)を用意しなければならない。これまで地上波放送を視聴するのにお金を払った経験がない世帯からは、クレームが来ることも予想される。だが、これはたまたまその地域が無料で視聴できていただけであり、全国的に見れば、これまでアナログ放送ですら月に500円とか1000円を払って共聴施設を設けてきた地域も多かったのである。

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