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「電通と民放5社によるネット配信会社設立」をどう見るべきか西正(1/2 ページ)

» 2006年01月12日 15時50分 公開
[西正,ITmedia]

広告モデルの難しさ

 民放キー局各社はテレビ番組のマルチユースの視点から、著作権者の了解を得られた番組を有料でネット配信するビジネスを始めている。特定のIT企業と組むのではなく、全方位外交のスタンスが採られている。どの程度の市場に育つのかが見えない段階では、そうした姿勢は賢明な選択であると思われる。

 それにもかかわらず、電通と民放キー局5社がテレビ番組のネット配信を行う新会社を設立する方向で検討を始めたと報じられた。その真意がどこにあるかを論じることは推論の域を出ないが、広告ビジネスの難しさを知り抜く事業者であるが故の狙いが見え隠れしている。

 電通は民放キー局側の合意が得られ次第、映像配信のポータルサイトを構築し、そのサイト向けの動画CMの企画や販売を通じてネット向けの広告ビジネスを06年春にも事業化させる方針を打ち出している。

 この場合、民放キー局各社は、一方で有料モデルでのネット配信に取り組み、もう一方で広告モデルに着手することになる。ビジネスモデルが確立していないとは言え、両方のモデルで成功することは難しいだろう。

 このように相矛盾するかに見える事業に乗り出す背景には、IT企業側の取組み姿勢との調整が難しいとの事情があるように見えてならない。

 今のところ、IT企業側の主流も、民放キー局各社の意向を汲み入れる形で、全方位外交のモデルとなっている。その一方でIT企業によるテレビ局買収の動きが絶えないことも事実であることからすると、相変らずIT企業としては特定のテレビ局のみと組むことによって成功し得るとの思惑が消えていないことも考えられる。

 テレビ番組を簡単にネット配信させることが難しい事情についてさえ、未だにテレビ局側の都合であるといった根本的な勘違いも解消し切れていない。

 そうした状況下、USENやマイクロソフトのように、広告モデルで映像のネット配信に取り組む事業者が現れ出している。ネットの普及の速さが予想を大きく上回っていたことも事実であるため、電通や民放キー局各社としても、ネット配信を広告モデルで行うことを頭から否定するわけに行かないことは確かだ。

 しかしながら、地上波民放の雄であるキー局各社は、BSデジタル放送への参入を広告モデルで行ってみて、改めてその難しさを再確認したばかりである。広告モデルを知りぬく事業者ですら、新たな放送事業を広告モデルで軌道に乗せることは難しかったのだ。

 ネット配信の場合は、これに著作権処理という手間とコストが加わることになる。それを広告モデルで成り立たせていく段階になどないことは、現状の市場規模を見れば明らかだと言わざるを得ない。

 正しいビジネスモデルが確立されるまでさまざまな模索が続けられるのは当然のことだが、ネット配信の核となるコンテンツの大半をテレビ局各社が生み出している以上、あまりに足並みがそろわないと、そのこと自体が市場の拡大を阻害することになりかねない。テレビ局とIT企業の両者が余計な誤解を抱えることなく手を組んでいくには、テレビ局がまず自ら行ってみせるのが早道ということなのではないろうか。

 テレビ局としてもネット配信ビジネスを成功させるためにはインフラを借りなければならないだけに、IT企業を出し抜いて一人勝ちしようとは考えていない。そうした事情についての相互理解を深める意味でも、成功する可能性の大小とは別次元の判断で、広告モデルに取り組んでみせなければならない。

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