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地上波放送、新規参入促進への「疑問」西正(1/2 ページ)

» 2006年03月17日 17時39分 公開
[西正,ITmedia]

BS放送、CS放送の状況

 わが国20世紀後半の経済成長著しかった当時、地上波放送への新規参入を望む声を聞くことが多かった。当時は放送事業イコール地上波放送に近かったこともあり、電波の希少性についての考え方も大いに議論されたものである。「経営者たる者、一度は手がけてみたいと考えるのが放送事業だ」とよく言われたが、参入規制があるせいではあるまい。参入規制のある事業なら他にいくらでもある。

 その後、民間による衛星放送事業の開始とともに、放送事業自体への参入規制は事実上なくなったに等しい。特にCS放送の場合には、委託・受託分離制度を採ることにより、放送事業に参入するためのハードルは非常に低くなった。

 小資本の事業者でも参入できるようにしたからと言って、大資本が参入するのに相応しくなくなったわけではない。民放キー局自らが委託放送事業者になり参入している例も見られる。放送局の比ではない大資本が参加しても構わないのである。

 BS放送の場合もデジタル化とともに新規参入が見られたし、2007年のBS9チャンネルの跡地利用ということで、新たに3社が参入を決めたところである。

 しかしながら、BS放送もCS放送も市場の大きな拡大は見られない。地上波のようなリーチが期待しにくいからという理由ではなかろう。BS放送でもCS放送でも本当に強力なキラーコンテンツがあれば、多チャンネルの中の一部であっても、突出して加入世帯を獲得することは可能なはずだからである。

 パラボラアンテナが必要であるとか、最初は専用のチューナーが必要であったということも、市場が巨大化しないことの理由とは言えまい。ケーブルテレビ経由でも視聴できるし、IP放送系でも視聴できるチャンスはある。

 本当に見たいコンテンツが豊富に用意されていれば、視聴者側も見るための工夫を重ねるはずである。「そこまでしてまで見たいとは思わない」という人が多いのが現状なのだ。リーチが広くなるのも狭くなるのも、コンテンツ次第なのであって、それを送信する手段に原因があるとばかりは考えられない。

 もちろん今の多チャンネル放送に満足している視聴者は多いし、加入世帯数も着実に増えていることは間違いないので、BS、CS放送の現状の姿は十分に健全であると評価できる。ただ、新規参入者に出来ることは現状のところくらいまでが精一杯であり、右肩上がりの急上昇などは最初から有り得ないというだけのことだ。

 放送事業への参入は規制に守られているからできないのではなく、事業としての特殊性のような要因が大きくあることから難しいのだということの表れである。

 放送事業に参入を希望していた大資本は、その後どうしたのだろうか。確かにバブル経済の崩壊とともに日本経済は大きな構造変化を迎えた。放送事業に参入するどころの話ではなくなってしまったという事情もあろう。

 一方で、BS、CSを通じてでも参入を果たした企業はあった。おそらく当初予想していたよりも相当大変だということに気がついたかもしれない。それらの企業の大半は予想通りに行かなかった理由を、BS、CS放送であったためであり、地上波放送であったら違った結果になったはずとは思っていないだろう。最大の読み違えは、コンテンツについての考え方にあったのではなかろうか。

コンテンツをそろえることの難しさ

 放送事業の根幹は、コンテンツをどう取りそろえるかにある。

 放送事業者以外の人たちが日々何気なくテレビ番組を見ていて、必ずしも立派な作品ばかりではないと感じるであろうことは想像に難くない。そこからの連想として「この程度の番組を放送するだけなら、当社の資本力を持ってすれば容易だし、もっとよいコンテンツをそろえられるはずだ」と考えても不思議ではない。

 しかし、コンテンツを取りそろえるのは並大抵のことではない。

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