ニュース
» 2006年04月05日 19時12分 UPDATE

コラム:IPマルチキャストが「放送」になる日 (1/2)

放送のデジタル化が進むに伴い、「テレビ」ではない「テレビ」もその居場所を明確にしなければならない時期が近づいてきた。地デジ難視聴対策としての側面を持つ、IPマルチキャスト放送は「放送」になれるのだろうか。

[渡邊宏,ITmedia]

テレビではない「テレビ」

 4月1日からワンセグ放送も開始され、デジタル放送へのシフトがより一層身近なものとして感じられるようになってきた。映像コンテンツのデジタル化が進むなかでその存在感を大きくしているのが、これまでの「テレビ」の枠に収まりきらない「テレビ」の存在だ。

 オン・デマンド・ティービーの「オンデマンドTV」や、ぷららネットワークスの「4th MEDIA」、KDDIの「KDDI光プラスTV」などは自宅のテレビにSTBを装着する手間が必要になるものの、数千本の作品が返却の必要なしで気軽に鑑賞できるほか、最近ではHD映像を配信している事業者もあり、注目を集めている。

photo オンデマンドTVのSTB

 これらのサービスはすべて映像を楽しむものであるが、既存のテレビ放送とは異なり、データはすべてIPベースでユーザーの手元へ送られるIPマルチキャスト放送と呼ばれるもの。著作権法上では「自動公衆送信」と区別されて完全な「放送」とは認められおらず、「電気通信役務利用放送法」という法律により「通信業者の行う放送サービスの一種」と定義されているにすぎない。

 政府の知的財産戦略本部もコンテンツ産業振興政策の一環として、IPマルチキャストによる放送(IPマルチキャスト放送)の積極的活用をうたうほか、放送のフルデジタル化に伴う難視聴地域対策としても、IPマルチキャスト放送による地上デジタル放送の再送信が有効な手段として考えられている。

 単なる映像配信サービス以上として期待もされるIPマルチキャスト放送は、地上アナログ放送や地上デジタル放送のような「放送」になるのだろうか? 現在議論されているテーマを整理してみた。

「自動公衆送信」と「放送」「有線放送」

 まずは著作権法上で、いわゆる放送サービスがどのように整理されているかを確認しておく必要があるだろう。

 従来の著作権法上では、有線での送信が「有線放送」、無線での送信が「放送」と利用する伝送経路の物理特性によって区別されてきた。しかし、1997年の著作権法改正によって放送全体を示す概念として「公衆送信」が創設され、そのなかで、インタラクティブ性を持ち「公衆の求めに応じて自動的に送信されるもの」が有線/無線問わずに「自動公衆送信」として定義づけられた(著作権法第2条1項9号の4)。IPマルチキャスト放送はこの自動公衆送信に属するサービスと目されている。

 また、一般のテレビ放送は「テレビ放送やラジオ放送など、公衆に同一内容を同時に受信させる目的で行う無線による送信」(著作権法第2条1項8号)として「放送」、CATVなど有線放送は「CATV放送や有線音楽放送など、公衆に同一の内容を同時に受信させる目的で行う有線による送信」(著作権法第2条1項9号の2)として「有線放送」とカテゴライズされている。

 つまり、ユーザーから要望あった際にそれに応じる形で送信されるのが「自動公衆送信」、ユーザーの要求に関係なく同一内容を送信するのが「放送」「有線放送」というわけだ。しかし、「映像を送信する」という行為は同じでも、それが「自動公衆送信」か「放送」(または「有線放送」)であるかは、送信事業者にとって大きな違いとして表れる。

 それは著作権法上、「自動公衆送信」は放送に際して権利者へ許諾を求めなくてはならない範囲がほかの手段に比べて広く規定されているからで、著作権者だけでなく、実演家やレコード製作者といった著作隣接権者からも許諾が必要となるからだ。

 同一の内容を異なる送信経路で同時に送信する「同時再送信」だけに限定しても、有線放送の場合ならば放送局は著作権者だけに許諾を得ればいいのに対して、自動公衆送信の場合は著作権者/実演家/レコード製作者すべてに対して許諾が必要となっている(著作権法第23条、第92条2項、第96条2項)。

 結果として、自動公衆送信と有線放送では、同一の内容を同一の視聴者に送信する場合でも、権利者へ許諾を求めなくてはならない範囲が異なるという事態を引き起こしており、その許諾範囲の違いが、IPマルチキャスト放送を行う事業者からは同時再送信を行う際の障壁として映っている。

       1|2 次のページへ

Copyright© 2016 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.