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「Engadget」って何だ?小寺信良(3/3 ページ)

» 2006年11月13日 05時35分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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最終的にはやっぱり「人」

 日本では、いわゆる「ニュースサイト」と呼ばれる個人サイトが重宝された時期があった。すべての情報がIT化への道を歩み始めたときに、あふれる情報を整理してフィルタリングしてくれるという、リンクサイトである。

 ガジェットのように情報の範囲を狭めればそれほど煩雑ではないが、新聞で扱うような社会問題のような情報は、やはりある程度スクラップ的な役割を果たすサイトは必要だ。最近は大手ポータルがやっているニュースリンク、例えばGoogleニュースのようなものが、かつての個人ベースのニュースサイトに取って代わりつつある。

 だが情報の集約という意味では、Engadgetがやっているのは、単にリンク集めではない。ましてや検索を中心としたポータルでもない。Ittousai氏の言うように、やはりそれは情報の要約、すなわち一口サイズにナゲット化してポンと食わせる技術なのだと思う。

 そういうスタイルを生んだのが、Blogというシステムであったとしたならば、未だ日記ツール、あるいは社内イントラとして使おうとして大失敗ということしかやれなかった日本というのは、やはりBlogというツールの意味をわかってなかった、ということなのかもしれない。

 また世界中の情報を一カ所に集約して更新するというスピード感も、どこにいてもオンラインで情報公開できるBlogツールならではの特徴だ。例えばAppleのスティーブ・ジョブズのキーノートを会場にいる数人のスタッフがリアルタイムで1行ずつ入力して更新していくというのは、Engadgetの当たり企画だという。

 「世界中バラバラにライターがいて、常時みんなメッセンジャーで連絡取っているんです。だから速く載せされる。例えばPS3のデバッグマシンが届いたって聞けば、何をやって試してくれとかメニューのここどうなってるとかリクエストしたり。Engadgetとは別に本家ではゲームブログもあるんですけど、僕は元々ゲームが好きということもあって、そっちの日本側のサポートもやっています。ファミ通の早売りを買ってきて内容を確認するとか」(Ittousai氏)

 ナゲット化にしても1行入力にしても、システムは自動化したがマンパワーまではケチっていないところが、Engadgetのミソだろう。結局人を集めるのは、たとえそれが二次情報であっても、やはり人が作った血の通った文章なのである。もっともこういう点も、いずれアルゴリズムによって自動化されてしまうことかもしれないが。

 米国でEngadgetのライバルと言われるGizmodoは、このたび日本語サイト「ギズモード・ジャパン」を正式にローンチさせた。だがEngadget Japaneseも、今後本家ような組織的な体制を目指すという。

 そのとき、マンパワーをどのように使っていくのか。組織化によってIttousai氏の構築した文体というか、妙に斜に構えたスタンス、愛憎入り交じった手厚いソニーいじりのようなものが失われてしまうのであれば、残念なことだ。

 思うに、ニュースソースを二次的におもしろおかしく料理するための文体は、個人サイトレベルでは過去連綿とネット上で育まれてきたものが存在する。そしてその中で、Ittousai氏のものがビジネスベースに載った最初の成功例と言えるのかもしれない。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

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