コラム
» 2007年03月05日 09時00分 UPDATE

小寺信良:テレビ局を震撼させた「まねきTV裁判」の中身 (1/4)

ロケフリを使ってどこでもテレビが視聴できるサービスを提供する「まねきTV」とテレビ局側の裁判は、まねきTV側の勝訴に終わった。類似サービスだった「録画TV」の裁判と比較しながら、この裁判が何を示すのか考察してみた。

[小寺信良,ITmedia]

 放送と著作権は、切っても切れない関係にある。これまでテレビ局は、この著作権法を上手く使って現状を維持してきた。だが今度はその著作権によって、テレビ局がやりこめられるという事件が起こった。それが「まねきTV裁判」である。

 まねきTVとは永野商店が行なっているハウジングサービスで、ソニーのロケーションフリーを使って、インターネット経由で加入者がテレビ視聴するというものである。客観的に見れば、できることは以前にコラムでとりあげた「録画ネット」(「録画ネット裁判」で明らかになったタブー)と変わらない。

 この事業にテレビ局がかみついた。放送事業者が持つ著作隣接権の1つである、「送信可能可権」を侵害しているというのである。

 だがこの裁判では、昨年8月に東京地裁がテレビ局側の申し立てを却下。テレビ局側は抗告したが、12月の知財高裁でも抗告は棄却され、まねきTV側の勝訴となった。テレビ局側は再び抗告し、残る舞台は最高裁のみとなったが、今年1月には知財高裁から抗告を許可しない決定が出た。これによりこの一連の裁判は、まねきTV側の全面勝訴ということで決着した。

 先にも述べたように、録画ネットとまねきTVのサービスは客観的に見れば似たようなもののように見えるが、裁判において明暗を分けた相違点もまた多い。今回は録画ネットとまねきTVの裁判を比較しながら、いくつかポイントを絞って争点を整理してみたい。

相違点1:市販品か否か

 録画ネットの場合、使用するマシンはLinux搭載PCである。一方まねきTVでは、ソニーが一般に市販するロケーションフリー(以下ロケフリ)を使用する。

 このことは、送信している主体は誰か、という論点につながっていく。録画ネットのLinuxPCは、録画ネットが用意した物をユーザーに一旦販売、それを録画ネットに送付してもらったという形にしてマシンを設置した。裁判所では、これは販売の偽装であると判断されることになる。

 ここにいくつか考えるべきポイントがある。パソコン自体はどこでも買えるものだが、テレビ録画機能付きのLinuxPCというのは、一般に市販されているとは考えにくい。そういうものを売っているショップもあるかもしれないが、WindowsPCのように量販店に置かれるようなものではない。

 録画ネットとしてはサービス全体のコストを下げるために、標準的なスペックの録画機能付きPCと、導入コストのかからないOSとしてLinuxを選択したと思われる。だが事実上このようなマシンは録画ネットから買うしかないわけで、形式上販売ということにしても、結局はまた同じところに送り返すことになる。

 一方でまねきTVが使用するロケフリは、広く市販されている商品で、誰でも購入できる。また、まねきTVがロケフリ購入代行を行なったという事実もなく、本当にユーザーが買った物をまねきTVに送付している。まねきTV側は、この送り状も証拠としてきちんと保管している。

 この相違は、サービスの主体がユーザー自身であるという判断材料のひとつになったとなったと思われる。「市販される」ということが、これほど重要な意味を持った事件も珍しいだろう。

 もうひとつのポイントは「システム」である。双方のサービスとも、沢山のマシンに電源を供給し、アンテナ線を分配して接続し、ネットワークアクセスのためにハブやルータを設置している。裁判ではこれら全体のシステムが、総体として1つであるのか、ということが問題となった。

 録画ネットの場合は、それぞれのマシンに対して自社製のユーザーインタフェースを導入し、ユーザーの便宜を図った。またユーザーとマシンを一対一で結びつける必要もあることから、自社Webサイトでユーザー認証の手続きを取っていた。さらには動作状況を監視するために監視サーバーを設置し、保守管理をしっかり行なっていた。これが逆に、全体で1つと見なされることになった。

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