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ゴキゲンなサウンドを生み出す情熱音楽空間――BGマスタリングを訪ねて(3/4 ページ)

» 2009年01月26日 16時02分 公開
[本田雅一,ITmedia]

徹底したアナログへのこだわりが生み出す深みのある音

 BGマスタリングの機材は、そのほとんどがアナログだ。高品質のアナログ機材でなければ、どんなに優れた録音技術を用いても、音楽の表情、躍動感を引き出せないからだ。そんなこだわりは、例えばリバーブ・エフェクターにも見られる。

photophoto その実態はプレート・リバーブ。物理的にスチールプレートでリバーブを作り、それをミックスするエフェクターだ

 ベノさんに案内されて裏の倉庫部屋に向かうと、見たこともない巨大な箱が並んでいた。これがリバーブ効果を出すためのプレート・リバーブ・エフェクター。内部はスチールプレートがつられており、そこにアクチュエーターが取り付けられ、ピックアップで音を拾うシンプルな仕組み。音楽信号でスチールプレートを振動させ、そのリバーブを拾って元の音楽信号にミックスすることで、自然なリバーブ感を得られるという。

 通常は録音スタジオにあるものだが、マスタリングスタジオのここにある理由は「録音した場所の響きが悪く、ドライ過ぎる音源に対して、ほんの少しだけ響きをマスタリング行程で加えることがある。そのために使ってる」という。田口氏によると「圧倒的に美しい音が得られる」そうだが、良い状態に保つにはメンテナンスが欠かせず、サイズも大きくて使いづらいため、現在はほとんどのスタジオが使っていないそうだ。

 デジタル録音、デジタルミックスでBGマスタリングにやってきた素材の中で、音の悪いものは一度、2チャンネルで磁気テープに落とし、アナログに直してからマスタリングし直すこともあるそうだ。多くの読者は、「デジタルの方が音が変わらないから、音が良いハズなのに、なぜアナログにこだわるのか?」と疑問を持つ人もいるかもしれない。しかし質の良いアナログ機材は、デジタル機材が遠く及ばないすばらしさを持っている。

photophoto Blockデザインのカッティング調整機(左)。テープにつけたマーカーを見ながらレベル調整するグランドマン氏(右)

 それはアナログが、「音声信号の位相を壊さない」という特徴を持っているからだ。デジタルの場合、どんなにサンプリングレートを上げてみても、ある瞬間ごとのサンプリング値で記録することに変わりはなく、ミックスしたりエフェクトをかけたり、あるいはイコライザーをかけた時点で、位相干渉が起きて音声信号から情報が減っていく。

 しかしアナログなら、各音にかけたエフェクトが生み出す音など、あらゆる信号の情報が無限に折り重なり、複雑な信号を生み出す。最終的な頒布方法がデジタルだったとしても、それまでの行程がアナログなら、直前まで位相を壊さずに行程を進められるため、音の持つ表情を失わずに済む。

 2チャンネルで音場のすべてを表現するステレオの場合、位相が壊れてしまうと立体感はなくなってしまう。そのため、マスタリングのテクニック(狭いダイナミックレンジの中で、いかにダイナミズムを表現するかは、まさにマスタリングの技だ)以前に、アナログにこだわらなければ良い音は得られない。これがBGマスタリングの基本ルールなのだ。

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