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» 2010年08月02日 13時57分 UPDATE

麻倉怜士のデジタル閻魔帳:SACDの復権、BDオーディオの登場 (1/3)

最近、オーディオファンの間で“SACDの復活”が大きな話題になっている。AV評論家・麻倉怜士氏が注目した、SACDをめぐる3つの最新トピックを紹介していこう。

[ 聞き手:芹澤隆徳,ITmedia]

 最近、オーディオファンの間で“SACDの復活”が大きな話題になっている。きっかけは、ユニバーサル ミュージックが6月23日にロック/ポップス、ジャズ、クラシックの名盤20タイトルを発売したことだ。さらに8月、10月、12月にもそれぞれ11作品を発売するという。「パッケージメディアに将来はない」などと言われる中、なぜ今になってSACDが話題になっているのか。AV評論家・麻倉怜士氏に詳しく話を聞いた。

photo AV評論家・麻倉怜士氏

――ユニバーサル ミュージックが発売した「SA-CD 〜SHM仕様〜」が話題になっています。なぜ今になってSACDを出したのでしょう?

麻倉氏: マーケティング的には、2009年にTEACのエソテリックブランドで発売された英DECCA(デッカ)の名盤タイトルが大ヒットして、それに刺激を受けたのですね。その音源提供はユニバーサル ミュージックだったので売り上げの状況も分かり、プライベートレーベルでこれだけ売れるのなら、本筋のレーベルとして出そうと思ったのでしょう。

 50代、60代のオーディオファンは、若い頃にクラシックに親しみ、買ったものを徹底的に聞き込んだり、あこがれて研究した人が多い。とくにDECCAの超高音質録音は有名でした。例えば1958年から足かけ8年をかけて収録されたワーグナーの楽劇「ニーベルングの指輪」4部作などは、当時のファンの度肝を抜いたものです。有名なジョン・カルショーというプロデューサーが手がけ、ステレオで音場の動きを考えて収録されました。まさに垂ぜんのステレオ名盤でした。

 エソテリックは、その極めつけの名盤たちをSACDで再販しました。

しかもビクターのXRCDという高音質マスタリングで出したところ、このパッケージ不況の中、1セット3000〜4000枚が即時完売したといいます。エソテリック創業者の大間知基彰氏が、個人的な趣味でリリースしたという点も当たった理由の1つでしょうね。彼の趣味はとても良い。録音的な観点だけでなく、音楽的にも素晴らしい作品だったため、好評を持って受け容れられたのでしょう。

photo

――ユニバーサル ミュージックの「SA-CD 〜SHM仕様〜」の音質はいかがですか?

麻倉氏: 今はネットワーク配信でも良い音を入手できるわけですが、パッケージメディアではSACDが最高です。SA-CD 〜SHM仕様〜では、その中でも最高の音質を目指したことがポイントでしょう。

 まず、シングルレイヤー方式のSACDにしています。SACDは当初、すべてシングルレイヤーだったのですが、その後ハイブリッド技術が開発され、記録層にSACD層とCD層の両方を作ることが可能になりました。SACDへの移行を促進しようとしたもので、たいへん便利でしたが、お互いのレイヤーに対する音質的なダメージが大きくて、やはり失敗でしたね。SACDはそこそこですが、CDはねぼけた音になってしまうのです。

 それを変えたのが、クラシック系インディーズレーベルの「N&F」でした。フィリップスの録音エンジニアだった福井末憲さんと録音プロデューサーをしていた西脇義訓さんが独立して作ったレーベルです。同社は、ハイブリッドSACDを最初に出したのですが、音質面から判断を変え、数年前からSACDをシングルに戻しました。今回のユニバーサル ミュージックも、それに習ってシングルレイヤーSACDとしています。

 過去の名演奏というのは、いわば人類の遺産です。それをのこすのに中途半端なものではいけません。シングルレイヤーは、そのための方策の1つですが、ユニバーサル ミュージックはさらにディスクの基材としてSHM(Super High Material)を採用しました。SHM-CDは、同社が2年ほど前に発売して、今ではCDの多くに採用されています。もとはビクターからの提案で、液晶モニターのフィルターに使う液晶用素材が従来のポリカーボネートに比べて非常に音がよいため採用したもの。反射してレーザーが帰ってくるとき、従来のポリカーボネートでは迷光が多く発生するのですが、SHMは素直に返ってくるのが、音の良さの理由とされます。実際、今回のSACDを従来のSACD(シングルレイヤー、ポリカーボネート)と比較してみたところ、音の切れ味、抜けの良さ、密度感など、情報量がすごく上がっていました。

photo 「音匠」(おんしょう)仕様の例

 それからユニークなのは、発表時にはSHM仕様としか言われていなかったのに、ディスクを見ると「音匠」(おんしょう)仕様に見えることです。音匠仕様というのは、表面塗装を緑色にすることで迷光をさらに少なくするというソニーの技術。確認はできていませんが、さまざまな想像ができます。SHM素材をソニーに持ち込んで音匠仕様で作ったのか、ビクターでピュアSHMの製造過程でレーベルを緑に塗ったのか。そのへんは定かでありませんが、音匠仕様でない通常印刷でのSHM-SACDと比較(テスト盤)しても、音匠仕様の音質は際立っています。するとこの際、ソニー・ミュージックのBlu-spec CDを音匠SACDに進展させるというアイデアも出るでしょう。さまざまな企業が持つ技術を動員して最高に良い音のディスクを作ったと言えるかもしれません。

 いずれにしても、非常に音の良いSACDのシリーズが登場しました。あえて注文をつけるなら、すべて2チャンネル仕様である点。過去の名演奏のレプリカなので当然といえば当然ですが、SACDはマルチチャンネルも持っているので、ぜひマルチチャンネルのタイトルもリリースしてほしいですね。ユニバーサル ミュージックでは、マルチチャンネルはフィリップスロスレスを使用しているので、少しでも音質劣化の要素を排除するということからですが、そんなことより、マルチチャンネルの感動は圧倒的です。なんで、音場に広く拡がって演奏されている生の音がたった1つのチャンネルに押し込まれなければならないのでしょう!

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