潮晴男の「旬感オーディオ」
魅惑の灯りとともに――真空管を搭載したヘッドフォンアンプ3機種を聴き比べ(1/2 ページ)
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ヘッドフォンを愛用し始めると、もう少し音が良くならないものかと欲が出てくる。iPhoneやiPad、ポータブル機器で使う限り、内蔵されたアンプには限界があるからだ。音質しかり、音量しかりである。そんな時のお役立ちグッズがヘッドフォンアンプであることは、本誌の読者なら先刻ご承知の通りである。だからここでその効用について触れるつもりはないが、最近の傾向としてこのアンプに真空管を採用する例が増えている。なぜ真空管なのか、どうしてこんなに面倒くさいデバイスを使っているのか、ちょっと興味が湧く。
というわけで今回は、真空管を採用したヘッドフォンアンプを集め、といっても3機種だが、それぞれの製品の特徴を探るとともに音質を確認してみた。取り上げたモデルは、オーディオテクニカの「AT-HA22TUBE」、キャロット・ワンの「FABRIZIOLO EX」(ファブリジオーロ)、フォステクスの「HP-V1」である。
オーディオテクニカ「AT-HA22TUBE」
オーディオテクニカの「AT-HA22TUBE」は、この中で最も大型。既発売のヘッドフォンアンプ「AT-HA21」のシャーシを流用しコストを抑える合理的な物作りを行い、吸収した予算を音質に係るところに計上した力作である。製品のイメージとしては「AT-HA21」のプリ部に真空管が加わった感じだが、安易に真空管をプラスしただけではない。
その最たるものがシャーシからにょっきっと首を出した2本の「E-88CC」だ。「12AX7」に相当するこの真空管は双三極管と呼ばれる内部構造を持ち、通常なら1本でステレオ回路をまかなえる。にもかかわらず2本採用したのは並列に接続してSN感を高めるためだ。開発に1年半も費やしたのはそうした条件を満たすためにさまざまなトライアルを行ったからでもある。「真空管をスロバキアのJJ製に決めたのは音質と安定供給という観点からです」とオーディオテクニカ、コンシューマ企画課の高橋俊之さんは話す。
しかしながらせっかくの真空管がアルミダイキャストのプロテクターに覆われていて良く見えませんなぁとの問いに、「本当はもっと真空管をアピールしたかったんですが、60センチの落下試験という社内の安全規格をクリアするためにカバーが必要でした」。なるほどそうした理由がちゃんとあったんですね。
プレートにかかる電圧は約60ボルトだというから、一日3~4時間の使用で7~8年使うことができる。真空管のソケットに磁器製品を用いているのもノイズ対策と長期に渡って特性をキープするためであり、レンジ感の広いハイレゾ音源を主体に楽しんでほしいという彼らの思いが込められている。
キャロット・ワン「FABRIZIOLO EX」
キャロット・ワンの製品は以前にもこのページでも取りあけたことがあるのでご記憶の読者もおありのことだろう。その時はDクラスのパワーアンプを内蔵したエルネストーロだったが、今回はヘッドフォンアンプのファブリジオーロEXだ。いずれもニンジン色のシャーシの上に真空管がぴょこんと飛び出した独特のデザインが目を引く。
キャロット・ワンの「FABRIZIOLO EX」は「FABRIZIOLO」をベースにしたエクスクルーシブ・エディションすなわち、リファイン・バージョンである。物作りの姿勢は、前回の記事も参照にしていただきたいが温故知新が盛り込まれ、ノスタルジーに浸ることなく新しい音作りを狙っている。加えてこのリファイン・バージョンのリリースには2つの理由がある。1つは似て非なるそっくりさんの登場、そしてもう1つはこのモデルのさらなる可能性の追求である。ブルーの塗色のコピーものが出回ったことに危機感を抱いた日本の輸入元であるユキムが、価格を度外視して作り上げたのがEXエディションだ。
彼らが取った方法は、このモデルの音質の鍵を握る真空管を、「6DJ8」から「ECC-802S」という「12AU7」相当品に、そしてオペアンプをバーブラウン製に換えたほか、アンプそのものの基本性能を高めるため、全数真空管のバイアス電圧をそして左右のレベル差を国内でチェックして極めて偏差の少ないモデルに仕上げていることである。
真空管はオーディオテクニカと同じくスロバキアのJJ製を採用している。ぼくはこのJJの品質レベルを把握していないので何ともいえないが、2社からそうした話を聞くにつれ、あなどれないメーカーであることが分かる。それにしてもどの分野にもコピー商品が出回ることに驚いてしまうが、この内容でこの価格設定なら追従することは無理だろう。正規モデルの意地とプライドが発揮された新製品だ。
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