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古い技術を使った新しいアプローチ――世界初のコンデンサー型イヤフォン、シュア「KSE1500」が生まれるまできっかけは“変なもの”(2/3 ページ)

» 2015年10月22日 21時32分 公開
[芹澤隆徳ITmedia]

限りなく質量が小さいダイアフラム

 7年間を費やして開発された「KSE1500」は、高い遮音性を誇るカナル型のイヤフォンになった。同社のSEシリーズとほとんど変わらないサイズにも関わらず、静電型のシングルドライバーを搭載。付属の専用アンプで駆動する仕組みだ。ケーブルは太めではあるものの、平たいリボンケーブルではない。アンプもポケットに十分入るサイズのポータブルシステムに仕上げた。なお、イヤフォンとアンプは完全に専用設計のため、別のアンプやイヤフォンで使うことはできない。

ケーブルは太めでも平たくはない

 「KSE1500」のダイアフラム(振動板)は超薄型軽量。「限りなく質量が小さく、世の中に存在する振動板の中で最も過渡特性に優れている。音声信号に対して忠実なレスポンスが可能で、楽曲のディティールを再現できる」とサリバン氏。しかしイヤフォンサイズにコンデンサー型のドライバーを詰め込むとなれば、振動板のサイズはもちろんのこと、実装時の許容範囲も極めて小さくなる。固定極板に挟まれた振動板の入るスペースは0.002インチと“髪の毛の半分くらい”のスペースだった。「これが静電型製品を小型化する難しさだ。しかしシュアには技術の蓄積と経験がある。信じて開発を進めた」(サリバン氏)

内部構造

入力信号に対して振動板がどう反応するかという相関関係を示したグラフ。緑が「KSE1500」、赤は「SE846」を計測したものだ。「いかにKSE1500がソースに忠実か分かってもらえると思う」

従来のコンデンサー型ヘッドフォンとのダイアフラムのサイズを比較した図。いかに小さくなっているかが分かる

 もう1つの大きなチャレンジはケーブルだった。既存のコンデンサー型ヘッドフォンが幅の広いリボンケーブルを使用するのは、芯線同士をなるべく離すことで静電容量を低く抑える必要があるからだ。「KSE1500」の場合もアンプ側で昇圧した200ボルトもの電圧がかかる。もちろん一般的なケーブルは使えず、「ケーブルだけで約3年の開発期間」をかけて丸形ケーブルを新開発した。またアンプとの接続部には信頼性の高い6ピンLEMOコネクターを採用するなど、製品自体の耐久性にも気を配っている。

アンプ上面。イヤフォンの接続には信頼性の高い6ピンLEMOコネクターを採用している

 付属のヘッドフォンアンプは意外なほどコンパクトに仕上げられている。底面にUSB入力を備え、最大96kHz/24bitのハイレゾ再生に対応したUSB-DAC機能を装備。DACはCirrus Logicの「CS4272」を使用している。もちろん、開発を始めた8年前にはスマホやハイレゾ音源も一般的ではなく、当初の構想にUSB-DAC機能などは含まれていなかったが、「最近のトレンドにマッチした製品を作りたかったので、徐々に機能を追加していった」。イコライザー機能のためにDSPも備え、前面には小さいながらもカラーの有機ELスクリーンをおごった。

アンプ底面にUSB入力
iOS/Android端末を接続するためのケーブルも付属する

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