春本十三さん。80歳。
金原 春本さん、また来ちゃったよ〜。
春本 おお! ビール飲むか? 野菜ジュース飲むか?
もう3年の付き合いになるおじいさんだ。
そして、私が一番好きなDIYアーティストだ。
世の中には、作らずにはいられない人たちがいる。役に立つとか評判になるとかを超越して、“自作”せずにはいられない人たちが。そんな人たち自身と、彼らが作ったものを、ライターの金原みわさんが追いかけます。
珍スポトラベラー。全国の珍しい人・物・場所を巡り、レポートを行う。都築響一氏主催メルマガ『ROADSIDER’s weekly』、関西情報誌『MeetsRegional』、ウェブメディア『ジモコロ』にて連載中。著書『さいはて紀行』(シカク出版)発売中。
私の地元は、兵庫県の川西市という所だ。川西市は大阪と兵庫の県境を流れる猪名川(いながわ)の西側にある。川の西だから、川西。
自慢できることといえば、桃とイチジクの生産量が多いこと、源頼朝などの清和源氏の本拠地になったこと。
ふーん、と思われる方も多いと思う。まあつまり、これといって特に何もない、どこにでもある街なのである。
ある日、そんな地元・川西に面白い人が住んでいるといううわさを聞いた。20年住んでいたが、そんなことは聞いたことがなかった。
早速訪ねようと試みたが個人宅である。なんとなくの場所は分かるけど、ハッキリとした住所は分からない。何回かその辺りをウロウロして、周囲に聞き込みをして、やっとの思いでたどり着いたのが、春本十三さんのご自宅だった。
一歩間違えたら不審者極まりない行動だが、春本さんはそんな私をとても快く受け入れててくれたのだ。
さて、この春本さんの一体何が面白いのかというと、そのご自宅に素晴らしいDIY作品を飾っていることである。
鮮やかな原色使い、ドキリとする生首、謎のぬいぐるみ……どこから集めてきたのか、この大掛かりな作品達は住宅街の中で大変目を引く。
春本さんは若かりし頃大工であった。この作品達を作り始めたのは引退後、73歳からだという。一般的にいえば晩年から着手されたこれらの作品は、大工時代の道具と技術を駆使し作られており、老人の趣味としては異質ともいえる域まで達している。
春本さんは時に、実際に存在する人物やキャラクターを作品にて表現する。
度々登場する春本さんのお孫さん。
最初はドラえもんと伺ったが、次に話を聞くとねずみ小僧ということになっていた青い生物。
クレヨンしんちゃんだというションベン小僧。
「下手だけどかわいいじゃろっ!」
そう言って春本さんは照れたように笑う。
もはや、下手とか上手とか、そういう話ではないのだ。キャラクターを精確にまねするのは誰でもできる。でも、春本さんの世界を通って産まれたDIY作品は、誰にも表現できない素晴らしい芸術作品となる。
これらの材料は廃材やゴミなどであり、購入したものはほとんどない。
「こんなもん買わんでもご〜ろごろ落ちとるわい! そこの猪名川で拾うてくるんじゃあ」
せっかく市主催の展示に出したという作品を、バシバシとたたく春本さん。
好きなことを好きなだけやっている人は、いつだって楽しそうである。
「ほれ、ちゃんと立派なチンコもついとるんだわ!」
女子に向かって抵抗もなく作り込んだディテールを見せてくれる。
さて、春本さんの世界はこれだけでは終わらない。もう一つとてつもなく素晴らしい特徴がある。
むしろ、そちらの特徴の方が本領発揮しているともいえよう。
これらの作品は、全て動くのである。
水車や自転車の車輪などを応用した構造は、見たことがないような動きを生み出す。この様から周辺住民には「カラクリ屋敷」などと呼ばれているそうだ。
私は専門家ではないので詳しくは分からないが、モーターの回転数とその比率から、動かしたい先の駆動力を計算し作っているのだそうだ。
金原 すごいね春本さん! 始めたきっかけってなんだったの?
春本 そりゃあんた、老人ボケ防止のためだわな!
あっけらかんと春本さんは言うのだった。
スイッチを入れると、大掛かりな装置がけたたましく鳴り響く。その言葉通り、ボケる暇なんかないくらいに作品たちはド派手に動き回る。
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