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知っているようで知らないダニの生態――本当に効果的な対策とは?滝田勝紀の「白物家電、スゴイ技術」(1/3 ページ)

» 2016年07月01日 00時05分 公開
[滝田勝紀ITmedia]

 「ジメジメとした梅雨時、布団にダニが繁殖する」とか、「ダニ対策には布団掃除機や布団乾燥機が有効だ」など、一般的にダニ対策についての記事や情報番組などを多く目にするこの時期。とはいえ、われわれはそもそもダニについて、「なんとなくいやなもの」というイメージは共有しているものの、ダニがいったいどういう生態なのかについては意外と知らない。

 戦う敵のことを知らないのに、有効な対策が取れるわけがない! というわけで、ここではダニについて、長年研究し続けている、環境アレルゲン info and care 株式会社 代表取締役の白井秀治さんに、ダニの生態について教わってきた。

環境アレルゲン info and care株式会社、代表の白井秀治さん(日本アレルギー学会会員、日本皮膚科学会会員、日本ダニ学会会員)

ーーダニについてぼんやりと“イヤなもの”というイメージはありますが、実際に肉眼ではその存在をほとんど確認することはできません。そもそもダニはどのような生態を持っているのか、まずはそのあたりから教えてください。

ヤケヒョウヒダニ(左)とコナヒョウヒダニ(右)

白井氏:ダニは家の中で見つかるだけでなく、例えば屋外でも見つかり、その種類は数万種、将来的には数十万種になるであろうともいわれています。これらのダニの多くは、人間との接点はほとんどなく、私たちに直接的な影響をあたえることは多くありません。一方、日本の平均的な家屋を調査すると、数種類――多ければ20種類前後のダニが見つかるという報告があります。しかし、家庭内で見つかるダニのうち、すべてのダニが人に影響を与えるということではありません。布団などで繁殖し、皆さんが家庭で行うダニ対策の対象となるダニは、その一部です。

 ダニアレルギーとして話題になるのは、「チリダニ」というダニです。このダニは、日本の家屋の多くで見つかり、検出されるダニの大半を占めています。このダニは、日本だけでなく、アメリカやヨーロッパ、アジアの国々の中でも、ダニの発育に適する温度と湿度が整えば繁殖し、住まいの中から珍しくなく見つかります。ダニが家にいるというと、気分が良くない方も多いと思いますが、ダニが家にいるのは当たり前と思っていただいてもいいくらい、身近な存在です。

ーーつまり、われわれが家庭内でダニ対策をする時に、相手にしなければならないダニというのは、チリダニということですね

白井氏:そうです。日本をはじめ、いくつかの国で行われた疫学調査では、気管支喘息やアレルギー性鼻炎などの症状をお持ちの方では、ダニに対してアレルギーを持つ方が多くいることが報告されています。また、日常の生活環境中のダニの糞(ふん)などの量と疾患との関係についても報告があります。アレルギーの増加には、近年の居住環境の変化以外にも食生活や日常の生活習慣など、さまざまな話題が聞かれますが、ダニによる生活環境の汚染は、多くの方にとって重要なものであると考えられています。

ーーそもそもチリダニって寿命はどのぐらいなんですか?

白井氏:チリダニは、卵から成ダニ(大人のダニ)になるまで、3〜4週間、条件が良いとそれよりも短期間で成長します。寿命は2〜3カ月といわれていますが、それ以上に長生きするダニもいます。通常・温度湿度ともに上昇する春から夏にかけて増殖します。特に梅雨時は繁殖が活発な時期です。そして、温度/湿度ともに低下する秋から冬にかけては、繁殖活動は低下し、多くは死亡します。

ーー1年のライフサイクルがもうしっかりあったわけですね

白井氏:はい、昔の日本の家は、現代の気密性が高く高断熱で暖かい家屋と異なり、木と障子のような紙でできていました。ですので、外気が寒く空気が乾燥すれば、室内もそれに伴い寒く乾燥します。こういう環境はダニにとっては繁殖しにくい厳しい環境であったと考えられます。しかし、近代的な建築様式と住まい方は、冬であっても室内は暖かく、加湿を行えば、高湿度な環境も保てます。ダニは温度20°C以下、湿度50%以下ではほとんど繁殖できず、多くは死亡します。しかし、人が快適と感じる環境となるように温度を20°C以上にし、加湿して湿度を50%以上にすることは、ダニにとっても快適な環境を作ってしまう、といえるかもしれません。冬でもダニが死ににくい環境が保たれた場合、1年を通じてダニが繁殖を続ける、ということが考えられます。

季節によるダニの数。1月でも生きているダニがいることが分かる 出典:吉川肇(発表時 東京都立衛生研究所医動物在籍)家屋内生息性ダニ類の生態および防除に関する研究より

ーー減りにくいということは、増えやすくもあることにつながるということですね

白井氏:そうですね。例えば、春から夏にかけて増殖したダニが、秋冬に死んだ場合と、秋冬にもさらに繁殖を続けた場合では、翌年のダニの数に違いが出る、そんなイメージを持つことができます。

 チリダニの数をグラフに表すと分かりやすいのですが、昔の日本家屋では、春から夏にかけて上昇し、秋から冬にかけて減少する。しかし現代の住宅と住まい方では、冬に減少するカーブが緩やかになり、下がりきらないまま翌年に上昇する、という可能性も考えられます。

ーー怖いですね

白井氏:また、近年では室内のダニの汚染を把握する際、チリダニの数を数えるのではなく、ダニのアレルゲンを免疫学的な方法で測り、環境汚染の評価をするようになってきました。アレルゲンというのは“アレルギーの原因”または“原因となるもの”と理解いただければいいのですが、“アレルゲンを測定して環境を評価する”とは、ダニの糞(ふん)や虫体、死骸に含まれる特定のタンパク質を免疫学的な方法で測り、汚染を評価する、ということです。

ーーそれはどうしてですか?

白井氏:ダニのアレルギーの方にとって、ダニはアレルゲン(アレルギーの原因)であり、生活環境から取り除くことは重要なことです。例えば気管支喘息やアレルギー性鼻炎では、舞い上がり浮遊したダニのふんや死骸を吸い込むことでアレルギーの反応が起こり、そして症状が発症、あるいは増悪すると考えられています。室内のダニの測定を行い、ダニの数が少なくても、ダニのふんや死骸といった直接の原因となる小さなホコリが多く存在していれば、そこにはダニアレルギーの方にとってリスクとなる汚染、つまりアレルゲンが存在することになります。そのため、汚染を評価する際にはダニではなく、直接の原因であって、呼吸を通して吸い込まれるふんや死骸といった小さなホコリをアレルゲンとして測定をするのです。

 ダニを顕微鏡で観察するのと違い、ダニのふんや死骸の欠片などの不定形なものは、その形からダニのふんであるとか、死骸の欠片であるとか、を目視で判定し、量を明らかにすることは困難です。しかし、免疫という仕組みを用いた測定法が開発されたことにより、近年では、ダニのふんに含まれる特定のタンパク質を測定し、環境汚染の指標としています。

ーー人に直接影響があるものを測定している、ということですね

白井氏:はい、ダニのふんや死骸は、ダニよりも小さく軽いため舞い上がりやすく、舞い上がったものは呼吸を通して吸い込まれる可能性が高くなります。室内のダニアレルゲンの汚染量とダニアレルギーの関係については、国内外からいくつもの研究報告がされています。

ーーでも、ダニが増殖しないように、ダニを殺すという対処法は大切ですよね

白井氏:環境中でダニが増えればそれに伴いダニのふんによる汚染が増え、やがて死骸の量も増えていきます。対策として、例えば増殖するダニを布団乾燥機などで殺し、増殖を防ぐということが考えられます。しかし、殺しただけではそこに死骸が残りますので、対策としては不十分です。ですので、殺したダニをそのまま放置するのではなく、掃除機を用いてダニの死骸や糞を吸引し取り除く。そういうケアが大切だと思います。

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