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「現実がSFじみてきた」 NHKの考える未来の放送技術麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(1/3 ページ)

» 2016年07月13日 00時05分 公開
[天野透ITmedia]

 毎年5月下旬に行なわれる「技研公開」(NHK放送技術研究所の一般公開)は、映像・放送に関する世界最先端の研究が披露される場として知られているが、4K/8Kで賑わってきた過去数年と異なり、今年は裸眼立体が主役に踊り出たと“最先端を知る男”麻倉怜士は語る。現実の映像技術研究が、いよいよSFじみてきた。

裸眼立体技術の1つ、インテグラル立体画像のモックアップを手にする麻倉氏

麻倉氏:毎年春恒例のNHK技研公開も今年で70回目を迎えました。今年は例年にも増して8Kを中心とした実に興味深い展示がてんこ盛りです。

――とはいうものの、昨年と比較すると今年の技研公開で8Kの比率は減っているように感じましたが

麻倉氏:例年と比べても“8Kの次”を強く意識した展示だったといえますね。私の見立てでは、今年の特徴は「立体テレビが次世代の本命に登場」「8Kワールドがより高度化」「ネットを核にした新しいテレビ体験」の3点に集約されると感じました。技研公開の総括として、今回は立体テレビと新しいテレビ体験を、次回ではいよいよ一般家庭が視野に入ってきた8Kワールドをお話しようと思います。

世田谷の閑静な住宅街に佇むNHK放送技術研究所。ここで放送・映像技術の未来が日夜研究開発されている

麻倉氏:今年の技研公開も、8Kスーパーハイビジョンやインターネット活用技術など、近未来の放送技術が様々提示されました。ですがまずは何と言っても、インテグラル立体テレビの扱いが非常に大きくなったのが極めて象徴的です。

――昨年の展示と比較して、立体映像関連の技術が目に見えて増えましたね

麻倉氏:そろそろ8K試験放送を始めるNHKですが、次世代放送として2030年にインテグラル方式の裸眼立体放送をという計画を読み取ることができます。そのインテグラル立体映像、従来は研究段階のものを地下で地味に見せていました。地味ながらも着実に開発具合が分かりましたが、今年はなんと1階エントランスホールに“浮上”し、4つあるメイン展示の一角に食い込んできたのです。これはかなり大きなトレンドではないかといえるでしょう。まさにマイナーならメジャーへの大転身です。

――エントランスに立体映像技術が出てきたのはかなり驚きましたが、同時に「なぜ今、立体技術が表舞台に?」という疑問も強く感じました

麻倉氏:それは、ここが放送技術研究所であることが大きな理由といえるでしょう。これまで映像における最重要項目は8K技術でしたが、8Kはついにこの8月から放送が始まるという実用化段階まで開発が進みました。そうなると未来技術として、ポスト8Kに相応しい開発対象が新たに必要になります。そこでNHKが考える映像のフロンティアとして白羽の矢を立てたのが立体映像放送だったという訳です。

――なるほど、立体技術を一番目立つところに置くことで「8Kの次に来るミライテクノロジーは16Kではなく立体テレビ」ということを明確に指し示した訳ですね

オープニングに先立つ概要説明でのスライドより。入り口に最も近い場所に立体映像技術の展示があるのが分かる

麻倉氏:今回の立体映像は従来からのレンズアレイを使ったインテグラル立体テレビのみではなく、ホログラムを使った立体表示展示が同時にあり、技研が立体技術に対して力を入れていることがとても良く分かりました。

 立体映像というと数年前にメガネ式がブームになりましたが、メガネのうっとおしさや画質的問題点など、さまざまな要因があって定着しませんでした。裸眼立体に関しても、今の技術では解像度が低いため実用レベルには達していません。ですがNHKは微小画像をレンズアレイで投影して合成光で結像させる方式をまじめに開発しています。

――実用化された立体映像といえばメガネ方式テレビに採用されているシャッター型や映画で用いられる偏光型のメガネ方式の他に、「ニンテンドー3DS」で採用されている視差バリア方式というものがあります。あれは原理的に視聴ポジションが正面に限られるという制限があるため、ゲーム機やスマホといった個人用の小型ディスプレイに用途が限られますね

裸眼立体技術のおおまかな概要。撮影、表示、評価といった、全方位的アプローチが試みられている

麻倉氏:このように立体映像はさまざまに開発されてきており、これまでの技研公開でもいろいろなアプローチが試みられてきました。しかしこれまでの前進度合いは微々たるもので、8Kのオリジナル発光体を使っていても映像は暗く解像度が低かったため、なかなか実用化までの道のりが見えませんでした。対して今回はさまざまな切り口でインテグラル立体テレビを作るという方向性がかなり見え、大きく前進したと評価できるでしょう。

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