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“オーディオの名門”からハイエンドヘッドフォンが続々――専業メーカーとは一味違う音へのアプローチ秋のヘッドフォン祭2016(1/3 ページ)

» 2016年10月24日 19時34分 公開
[天野透ITmedia]
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 一般人の給料が1月分吹っ飛ぶようなプライスタグが「決して珍しくない」というレベルにまでインフレが進行しているハイエンドヘッドフォン。2016年秋のヘッドフォン祭は、そんなハイエンドモデルの新作ラッシュだった。

 そんな中、ホームオーディオで定評のある3つのブランドが、今回は本気のハイエンドモデルを並べてきた。確固たるオーディオ哲学を持つこれらのブランドのハイエンドヘッドフォンを聴いてみると、ヘッドフォン専業メーカーとは一味違う音へのアプローチが見えてきた。

“ヘッドフォン祭の顔”はフランスの名門

 1日で全てを見るのは不可能なほど大規模になったヘッドフォン祭。初めての人にはどこから見れば良いかさえ分からないほど膨大な展示量を誇るイベントだが、注目の製品を知る上で1つの指針になるのが、イベントの告知ポスターだ。前回はULTRASONEの傑作機リバイバル「Tribute7」、2015年の秋はFitEarとFOSTEXの協業ハイブリッドモデル「Air(萌音イラスト)」、2015年の春はAstell&Kernが誇るハイエンドプレーヤー「AK380」といったように、運営が考える最新の注目モデルが常に“ヘッドフォン祭の顔”としてポスターを飾ってきた。

 このように注目度満点の“顔”を今回射とめたのは、据え置き型オーディオやカーオーディオでも知られるフランスの名門、Focalが投入するフラッグシップヘッドフォン「Utopia」。2012年に「Spirit One」でヘッドフォン事業に参入して以来「Spirit One S」「Sprit Classic」「SPHEAR」といったイヤフォン/ヘッドフォン製品を毎年リリースし続けてきたFocal。今回はUtopiaとその兄弟機「Elear」を出品した。価格は58万円(Utopia)と18万円(Elear、いずれも税別)となる。

ヘッドフォン祭のポスター。黒を基調に、大きくUtopiaが配されている。ちなみに今回の“顔”になったことは、フランスのFocal本社でも話題になっているとVet氏は話していた。(画像はヘッドフォン祭り公式サイトより)

  “Utopia”という名前はFocalを知る人にとって馴染み深い名前だ。というのも、同社のスピーカーシステムにおいて“Utopia”はハイエンドラインに与えられたブランドネームであり、とくに日本では2013年に公開された「Grand Utopia EM」は、高さ2.01m、重さ260kg、そして価格がペアで2200万円という正真正銘の“ハイエンド”だ。そのような名前を与えられた今回のフラッグシップ機に期待は高まるが、メーカーとしてもやはり「Gland Utopiaのヘッドフォン版」ということを強く意識して開発したという。

 Focalではヘッドフォン事業の開始当初から、今回のハイエンドプランを考えていたという。その名前には相当の重みがあり、4年半もの開発期間を経てようやく日の目を見ることとなった本機には、スピーカーで培ったふんだんなノウハウをいくつも投入している。

 例えばユニット部は若干の傾きが与えられているが、これはスピーカーシステムのUtopiaシリーズに見られる、帯域ごとにキャビネットを分離した湾曲構造と同じ設計思想に基づくもの。ユニットそのものに対してもスピーカーのツイーターユニットで使われる技術が投入されており、UtopiaにはUtopiaスピーカーのベリリウム技術が、Elearには中級機スピーカー「Aria」シリーズのマグネシウム技術がそれぞれ用いられたほか、各ダイヤフラムに最適化されたマグネットもおごられている。

 加えてUtopiaは、イヤーパッドが音の“吸収”を担うファブリックと発散の役割を果たすレザーの2重構造になっていたり、強度と軽さと美しさを追求したカーボンファイバーの専用フレームだったりと細部までこだわった作り。このフレームは頭頂部でも重量を分散させて高いフィット感を実現するデザインとなっている。

左がElear、右がUtopia

 「Focalには、Hi-Fi、Pro、Car、New Mediaという4つの事業があり、このうち今回のプロダクトはHi-FiとNew Mediaの協業によって生まれました」と語るのは、ヘッドフォン祭のためにフランスから来日したニューメディア部門プロダクトマネージャーのRomain Vet氏。2本のスピーカーを前方に置いたHi-Fiの音とは異なり、ヘッドフォンは耳から極めて近い位置で鳴らすため、ユーザーの周辺でサウンドフィールドが展開される。Focalとしてはこの差を視聴スタイルに対する好みの問題と捉えており、どちらでも最高のサウンドを提供したいのだという。

ユニットメーカーとして、カーオーディオの分野でも定評のあるFocal。同ブランドのファンであれば、Utopiaのユニット裏面に見られる赤いマグネットやネットの意匠にニヤリとするだろう

 「東京の住環境は私が住んでいるパリと同じで自由に音を出すことができる広いリスニングルームというものをなかなか用意できません。音楽を満喫するためにはヘッドフォンのようなパーソナルオーディオが重要になるということはよく理解できます。鳴り方としては部屋の空間に溶け込む自然なものを目指して作り上げてきました。音作りの面で言いますと、特定のジャンルに得意不得意が出るようでは良くないとFocalは考えています。そのためチューニングの際にはクラシックやロック、あるいはポップスなどといったさまざまなジャンル用いており、どんな音楽でもきちんと鳴るようにしました。私個人としては日本の音楽ならば女性の声が美しいと感じますが、ジャンルに縛られることなく音楽を楽しんでもらいたいです」(Vet氏)

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