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2016年はDACの当たり年! 麻倉怜士の「デジタルトップ10」(前編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(2/4 ページ)

» 2016年12月29日 11時00分 公開
[天野透ITmedia]

9位:RME「ADI-2 pro」DAC+ADC

麻倉氏:第9位に挙げるのはRME「ADI-2 pro」DACです。RMEはドイツのプロ用録音機器メーカーで、ハイレゾ録音の定番になっているオーディオ機器ブランドです。このRMEが出しているDACの音は非常に素晴らしいのです。

DSD 11.2MHzでの録音を可能にしたプロフェッショナルDAC「ADI-2 pro」。価格はハイエンドオーディオ基準では良心的な25万円

麻倉氏:これまでRMEには「baby face」というDACがあり、最新世代のものは「baby face pro」となっていますが、これはDAC+ADCという構成の再生・録音兼用機材です。プロ仕様らしい奇をてらわないバランスの良さがあり、透明感や解像感が高く信頼感のおける音で、特に新製品のADI-2 proは音がべらぼうに良いですね。baby faceでもビックリしましたが、それにも増して低中高の各帯域における時間軸の正確さが凄く、音情報が漏らさず聴こえます。

――プロ用機材というとどうしてもモニター的で冷静な音というイメージが付きまといますが、音楽鑑賞のための機材としてこれを見た場合はどうなんでしょう?

麻倉氏:それがいい意味で意外なことに、このDACは非常に情報量が多いですが、音楽的に楽しめるリズムの躍動感や空間中の音のグラデーション、ヴォーカルの細密なニュアンス感などがよく再現されていて、音楽性の高い機器として間違いなく良いです。録音/再生兼用機器、それもプロ用となると、ニュートラルなバランスの取れた音を出すということで、音楽としての楽しみを聴かせてくれるというところではないのが通常の業務用機器ですが、これは音のビビットさが多くの情報量をともなっており、音楽を心地よく音楽的に再生します。

 と、良いこと尽くめのRME製品ですが、これまでは唯一欠点(?)があり、PCM専用でした。

――あー、DACでよくあるパターンだ……

麻倉氏:そのためPCMとDSDが混在する昨今のハイレゾ環境ではなかなか使いづらかったのですが、今回のADI-2 proはなんとDSD 11.2MHzまで対応しました!

――コレもよくあるパターンですね

麻倉氏:しかも録音も11.2MHzです!!

――おお、さすがプロ機材!

麻倉氏:さらに売価も25万円と、ハイエンドオーディオ基準で見れば良心的な価格設定ですよ!!!

 これまでアナログからDSD録音する際は、一般的なものではKORGのADCによる5.6MHz録音が限界でした。音に関しては2.8MHzから5.6MHzは“スゴく”違いがあります。が、5.6MHzから11.2MHzは“ヤバく”違いがあるんです。アナログからデジタル化の際にDSD 11.2MHzとなると、音の感覚的にアナログとデジタルの垣根がなくなってきます。アナログの再評価が進む昨今のオーディオシーンではレコードやカセットが復活してきており、オープンリールなどを見ることもあります。そんなアナログの高水準の音をデジタルにしたいとなった時に、これまで5.6MHzだったのが11.2MHzとなると、これはちょっと世の中が変わるぞという気がしますね。

 このADI-2 proにはもう1つ面白い話があるんです。実はコレ、通常仕様では今言ったほどビックリはしないんです。というのも、プロ用途の小型DACということでさまざまな使用環境を想定した結果、電源は外部のACアダプターから賄いますが、標準で付いてくるこれが実によろしくないんですよ。音の量は多いですが、何だか冷たくて荒い印象です。

 ところが! 私のシアターにあるオーディオデザインさんの電源「DCA-12VHC」を使うと、これが大変化するんです。比較をしてみると明らかに音と音の間が有機的にリンクするようになり、間接音と直接音のどちらもが非常にほとばしるように出てきました。緻密にして稠密にして高情報量、なんとすごい音だったのだろう、これだけでそんなに変わるのかという感じでした。

――DCA-12VHCというと、確か5万円ほどの外部DC電源ですよね? それで大化けするとなると、やっぱりオーディオは電源なんだなと思わせます

アナログ出力端子はXLRと6.3mmピンプラグ。一般的なRCAプラグがないというのが、いかにもプロ機材らしい

麻倉氏:実はコレ、exaSoundの「e22」DAC用電源で、もっというとe22を聴いた時に「まあ良いんだけれどもうひとつほしいね」となり、そこで代理店であるエミライの人が持ってきたものなんです。たまたまあったものを使ったわけなんですが、これがスゴい良くて。エミライさんにそう伝えたところ、この2つがセットになって「e22 mk2」となったという裏話があるんですよ。

 しかも基本的には12Vの汎用DC電源なので、例えばメリディアンの「Prime」など、電圧と電流が合えば他の機器にも使用できます。実際いくつかのDACを試してみたんですが、いずれも音がグンと良くなります。元々あった性能をお粗末なACアダプターに阻害されていたのが、この電源を使うとレギュレーション良く整流された電気の“一番美味しいところだけ”を使うことができるようになるんです。むしろこちらをベスト10に入れてもいいくらいです。

――まるでA級アンプのようなぜいたくな電源ですね。9Vのものもあるみたいなので、汎用ACアダプターのオーディオ機材を使っているなら導入の価値が高そうです

麻倉氏:少々話がそれましたが、ADI-2 proは同価格帯のものとは一線も二線も画す音の生命感というか、飛び出し感というか、空気感というか、濃密なグラデーション感というか、そういうようなものが出てくる優秀なDACです。それに何といってもDSD 11.2MHz録音ができるというのは見逃せないですね。

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