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» 2017年01月17日 06時00分 UPDATE

麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」:大手プロダクションが切り拓く“8Kドラマ”というフロンティア (1/4)

大手映像プロダクションであるイマジカ・ロボットグループのROBOTが、世界に先駆けて8K/HDRドラマ「LUNA」を制作した。その驚きの画質と表現手法には、“画質の鬼”こと麻倉怜士氏も納得。「従来の8K映像とは違う地平」と評している。

[天野透,ITmedia]

 現在NHKが主導して普及を進めている8Kに、NHKの外から新たな動きがあった。大手映像プロダクションであるイマジカ・ロボットグループのROBOT(ロボット)が、世界に先駆けて8Kのドラマ「LUNA」を9月に制作したという。ビジュアル業界のご意見番的存在である麻倉怜士氏が、「従来の8K映像とは違う地平」と評したその内容は?

世界初の8Kドラマ作品「LUNA」。かぐや姫伝説をモチーフに、とある高校の文化祭で繰り広げられる青春ストーリー

麻倉氏:今回は8Kに関する新展開のお話です。映像プロダクションの大手であるイマジカの関連会社ロボットが、世界初の8Kドラマ「LUNA」という作品を作りました。

――おお、ついに8Kのドラマも出てきましたか!

麻倉氏:今まで8Kはスポーツのほか、自然、美術、歴史といった教養ドキュメントなどが中心でした。既に試験放送も始まっている8Kですが、これから一般の放送として普及を目指すには、現状のような一部の限られたコンテンツのためのフォーマットを脱却しなければなりません。8KとHDRの表現力を生かして、果たしてドラマはどのように作れるものなのか。ワークフローも含めた観点からドラマを作ってみたというのが、今回の挑戦です。

 ロボットは、「ALWAYS 3丁目の夕日」など、数多くの作品を手掛けたことで知られる制作会社で、ドラマ制作に関してはもちろんお手の物です。しかし今までは4Kまでしかやっていなかったため、8Kはまさにチャレンジとなります。

――著名なテレビCMやホームページなども手掛けていますね。映画に関しては「踊る大捜査線」シリーズ、「永遠の0」「ちはやふる」などでしょうか

麻倉氏:イマジカグループは映像に関して新技術に挑戦したがる企業で、例えばHDR最初期に「LUCORE」(ルコア)というHDR検証用のリファレンスソフトを手がけています。これは千葉の館山で撮影した短編映像で、窓の外に海の景色があり、建物内にモデルがいるという、典型的な広ダイナミックレンジの映像です。そのほか、ドルビービジョンに関しても国内のプロダクションではいち早く名乗りを上げ、対応した環境を導入するなど、技術トレンドに対して果敢にチャレンジをしています。今回に関しては、8Kでドラマというのがユニークな切り口というか、挑戦的なポイントですね。

制作は大手映像プロダクションのロボット。「海猿」「暗殺教室」といった映画作品のほか、「美の巨人たち」のタイトルムービー、シュールでかわいい人形アニメ「カリーノ・コニ」といった通好みの作品も手がけており、CG作業もお手のもの

 今回の制作にあたり、ロボットは渋谷の公園通りに編集スタジオを開設し、「Quantel Rio(クァンテル リオ) 8K」というノンリニア編集機を導入して、8K編集環境を整えました。この渋谷という土地には戦略的理由がありまして、NHKの本局から徒歩3分という立地なんです。世界最先端の映像技術をリードするNHKですが、実のところ現状ではNHK内でも8Kスタジオは少なく、8K編集の際にはブッキングの取り合いになっています。編集という仕事は時間的なデッドラインがあり、そこまでに絶対仕上げなければいけない訳ですが、そういった切羽詰まった状況下でもスタジオをおさえられないということが多々あるらしいです。そういった編集マンの嘆きに応えるためにロボットはNHKの近くに居を構えたわけで、つまりはNHKの仕事も請け負う事を予めにらんでいる訳です。

――なるほど、需要と供給のバランスが取れた、極めて合理的な判断ということですね。確かに現状の8K映像は多くがNHKの手によるものですから、ここを狙わないわけにはいかないだろうと

麻倉氏:現状ではまだまだパイが小さいですから、8K専門でやろうとした時に世界最大の8KベンダーであるNHKを相手にしないとビジネスとして成り立ちません。この姿勢は制作機材にも表れており、8K関連機材はNHKタッグを組むアストロデザインという会社が非常に強く、ロボットのスタジオでもアストロデザインのものが数多く導入されていますが、先程のRio 8Kや専用ストレージのP2カード、あるいはシャープの85インチ8Kモニターなどなど、実際のところ各種機材はほぼNHKのスタジオと同じです。つまりNHKからわずか3分の位置に予備スタジオができたのです。

 さて今回のコンテンツですが、タイトルのLUNA(ルナ)はフランス語で“月”を意味します。テーマはかぐや姫。といってもジブリのように原典の竹取物語を追ったものではなく、高校の文化祭でプラネタリウムを作る中で、青春ストーリーとかぐや姫のモチーフを織り交ぜるという内容です。映像的にはHDRが大きなポイントとなっており、夜の物語のため中空に浮かぶ暗い月を映したりするわけですが、その時の光の表情やハイライトの中の色の付け方など、8KだけにとどまらないHDRの表現力を追求したそうです。使用カメラはソニーの「F65」で、CGと合成して9月上旬に完成しました。尺としてはだいたい17分です。

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