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元ソニーのSACD開発者が再び集結――SONOMAが作り出す「ハイレゾにぴったりのヘッドフォン」とは?(1/2 ページ)

» 2017年05月02日 06時00分 公開
[芹澤隆徳ITmedia]

 1990年代後半から2000年代前半にかけ、米国でソニーが展開したSACD(Super Audio CD)の開発製造プロジェクト。そこで中心的な役割を果たしたメンバーたちが再び集まり、新しいオーディオメーカーを立ち上げた。静電駆動型ヘッドフォンの開発、製造を手がけるSONOMA Acoustics(ソノマ・アコースティックス)だ。

SONOMA Acousticsの「Model One」(M1)

 SONOMA設立メンバーの1人、David Kawakami氏は、2005年までソニーに在籍し、SACDプロジェクトの運営を担った人物。独立後は情報通信分野や自動車業界でコンサルタントとして活動していたが、2016年にCESのプライベートショー(近隣ホテルの会議室で行われる内覧会)で旧知のエンジニアが見せてくれたプロトタイプのヘッドフォンを聞き、直感した。

 「驚いた。これなら“ハイレゾにぴったりのヘッドフォン”ができる」(Kawakami氏)

SONOMA設立メンバーの1人、David Kawakami氏

 そのエンジニアは、Warwik Audio TechnologiesでCTO(最高技術責任者)を務めるDan Anagnos氏だ。やはり米Sonyに長く在籍したデザインエンジニアで、SACD再生のために作られたリファレンススピーカー「SS-M9ED」(2001年)の設計も手がけた。

Warwik Audio TechnologiesのCTO、Dan Anagnos氏。同じくソニーでスピーカーのデザインエンジニアを務めていた

 Anagnos氏が開発した「HPEL」(High-Presidion Electrostatic Laminate)は、静電駆動型ヘッドフォンのトランスデューサー(変換器:ヘッドフォンのドライバーのこと)だ。静電型ヘッドフォンは、フィルムのような薄い振動板を動かして音を出すが、多くの場合は振動板の前後に電極を設けてプッシュ/プル駆動を行っている。しかしHPELは振動板に薄いアルミニウムを用い、それ自体を帯電させることで電極を外側の1つだけにした。耳の近くに余計な構造物を設ける必要がなくなり、ヘッドフォン自体も軽量化できるのがメリットだ。

「HPEL」(High-Presidion Electrostatic Laminate)の振動板。蜂の巣のように8分割されている

 また振動板を蜂の巣のようなフレームで8つに区切り、それぞれが独立して動くことも特徴。共振周波数を分散するのが主な目的だが、個々の面積が小さくなるため高域の伸びにも有効だという。再生周波数帯域は、「10Hzから6万Hzまで非常にリニアな特性が得られている」(同氏)

右下の図は、航空機開発などで活躍しているCOMSOLのモデリングツールを使って解析した画像。共振周波数を分散していることが分かる

 平面波に近い波形でスピーカーに近い音場を再現できる平面振動板、そして平面振動板を駆動するの最適な方式とされる静電駆動型は、ピュアオーディオ志向のファンが多い。そのメリットについてKawakami氏は、「静電駆動型はあまり大きな音が出せないためスピーカーにするのは難しいが、ヘッドフォンなら問題にならない。(ダイナミック型と異なり)磁石が必要ないため磁気歪(ひずみ)がなく、構造的にもシンプルで回折現象などが起こる要素もない。過渡特性(音の立ち上がり/立ち下がり)が速く高域再生限界が高いなど多くのメリットがある」と話す。

 しかもHPELの場合、振動板の構造がシンプルだ。静電駆動型では珍しい3層構造で、「既存の静電型ヘッドフォンと違い、自動化したラインでコストを抑えて量産できる」(Anagnos氏)という。現在は高級機に位置付けられる静電式ヘッドフォンだが、将来的にコストダウンできる可能性もある。

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