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各社の違いはココだ! 麻倉怜士の有機ELテレビ画質比較教室(3/5 ページ)

» 2017年08月22日 11時29分 公開
[天野透ITmedia]

麻倉氏:そのうちLGディスプレイ以外のパネルメーカーもOLEDを出すでしょうが、今は“たまたま全社がLGディスプレイの同じパネルを使っている”状況です。考えてみれば、これまでテレビの歴史で同じデバイスを使った違うメーカーのハイエンド商品という比較はなかなかできませんでした。液晶を見ても山ほどパネルメーカーがあり、ここが全く同じ土俵にのるというのはなかなかありません。ピュアにメーカーの絵作りの差が見られる今は、画質マニアにとってたまらない時期であるともいえるでしょう。

――今は分業が随分と進んで、デバイスメーカーとアセンブリメーカーに別れました。ですが確かに、ブラウン管にしても液晶にしてもプラズマにしても、昔はテレビを作るイコールそれぞれのデバイスを作ることから始まっていました。そういう意味では稀有(けう)な時代でもありますね

麻倉氏:そんな各社の画質の傾向ですが、最もハッキリくっきりで、見た目のコントラスト感や力感、剛性感やフォーカス感が一番高いのはソニーです。

 ソニーの絵作りは非常にパワフル。強さをしっかり出し、輪郭はくっきり、細部は克明にという画調です。デバイスの持っているハイパワー、押し出し感が出ていて、4社の中で最もキャッチーな絵といえるでしょう。一般的に調子が抑えられるシネマモードで評価しても、ソニーは際立ってキャラが立っています。これはなぜかというと、ソニーの考えとして「液晶(事業・デバイス)を殺してはならない」という考え方があるからです。

――ソニーは液晶の独自技術「バックライトマスタードライブ」を持っていて「明るさなら液晶」を大々的に打ち出しています。なのでテレビ事業戦略としては「液晶、OLED、それぞれにフラッグシップを置く」という方針を採っていますね

麻倉氏:そういうことです。なので、OLEDは液晶にない“黒の沈み”を追求しています。細部までしっかり沈んでよりディテール再現がハッキリし、あいまいにならず明快です。液晶もパワー感満載でしたが、ソニーのOLEDにはCRTともプラズマとも違う、OLEDならではのパワー感、ハイフォーカス感があります。加えて4K時代を迎え、映像の情報量が見た目で増えている今、ソニーは原則に沿った鮮鋭感、伸びやかさ、ハイパワーを打ち出しています。新しい人は馴染みがないかもしれませんが、CRT時代に“白キラキラ、黒沈む”というブランディングであった「キララ・バッソ」の形容にあたりますね。

 ソニーで見過ごせないポイントはアップコンバート性能が良いことです。いくら4K時代といえど、放送やBlu-rayなど、まだまだ多くの2Kコンテンツがあり、これらがどう見えるかは重要です。その点ソニーはアプコンと超解像、デバイスのフォーカス効果をうまく使っています。さらに新製品「A1」は「画面から音が出る」ことで話題ですが、この音が結構マトモなのも特筆点でしょう。開発段階で音を聞かせてもらったとき、最初はグラッシーなシャリシャリ音、2度目はグラッシーを消しすぎてツマラナイ音でした。それが製品版では低剛性、低スピード、低内部損失というガラスの音が上手く減っていて“ちゃんと聞ける音”になっています。スーパーウーファーのつながりも良好で、上手く音を作っていますね。

――「薄型テレビは音まで薄い」とは先生の言葉ですが、音の印象は映像の見え方や満足度まで左右します。ここにちゃんと目を向けて作り込まれているのは喜ばしいです

「画面から音が出る」という機能も話題のソニー「A1シリーズ」。LGエレクトロニクス以外で初めて77型テレビを発売した

麻倉氏:お次は東芝です。液晶時代から積み重ねてきた伝統の絵作り職人芸が特長で、映像の見せ方がよく練られています。東芝の絵はまず質感がきます。OLEDというデバイスの特性でコントラストはワイドですが、その情報量を視聴者へリニアに訴求するのではなく、そこに付加価値を加えて届けるのです。研究され尽くした肌のグラデーション、立体感、素材感といった点が見どころで、中間色のグラデーションの移ろいが端整で華麗、つやっぽいですね。黒もグロッシーで良いです。

 東芝は自発光ならではの色の濡れ方を研究していると感じます。デバイスのチカラを使っていかにコンテンツを見せるかという一歩先の段階に居て、あるべき見せ方、理想がまずきっちり描けています。その理想と現状とのギャップを埋めようとします。LGパネルの性能を半導体のチカラで持ち上げ、そこへトリプル超解像や階調クリエーションといったソフトのチカラを使って、あるべき絵へ持っていきたいという思いがあります。

――思えば東芝は液晶時代から、日本メーカーでいち早くパネルの外注を打ち出しました。当時は“絵作り=パネル”のような思想があった中で、東芝はレグザエンジンを中核とした半導体による絵作りの可能性を模索し続けていて、それが今に生きているように思います

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