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各社の違いはココだ! 麻倉怜士の有機ELテレビ画質比較教室(1/5 ページ)

» 2017年08月22日 11時29分 公開
[天野透ITmedia]

LGディスプレイがテレビ用の大型有機EL(以下、OLED)パネルの量産に成功して数年が経ち、2017年はLGエレクトロニクスに加えて、日本でもソニー、東芝、パナソニックからOLEDテレビが出そろった。ところでOLEDパネルの生産がLGディスプレイに限られる現状、表面的な機能以外に各社製品に違いはあるのかと疑問に思わないだろうか? その疑問、OLEDの勃興から現在に至る汗と涙の進化を見つめ続けた“OLEDエヴァンジェリスト”麻倉怜士氏がズバッと回答。パネルが同じなのに出てくる絵は驚くほど違う!

毎週土曜日の朝5時から放送している「新・週刊フジテレビ批評」で最新のテレビ事情を解説する麻倉氏(画像提供:フジテレビ)

麻倉氏:昨年まではLGエレクトロニクスが孤軍奮闘していたOLEDテレビですが、今年は各メーカーから製品が出てきて、LGエレクトロニクスのテレビは新世代へ移行しました。言うなれば「OLEDテレビ普及元年」で、出揃った各社製品の現状が非常に面白い事になっています。何かと言うと、みんなLGディスプレイの同じ第2世代パネルなのに、画が驚くほど違うんです。

――LGディスプレイ以外のパネルベンダーが存在しない今のOLEDテレビ市場は、一昔前の液晶テレビの感覚ではちょっと理解しにくい状況になっていますね

麻倉氏:なぜLGだけがパネルで突出しているという詳しい話はとても面白いです。加えてOLEDの未来を担う印刷生産方式パネルも、ついにJOLEDが実用化にこぎつけました。

 このようにOLEDが今とてもアツいので、この機会に歴史と現状をまとめてみようと思います。画質マニアの方だけでなく、OLEDテレビを検討している方も、今回は必見ですよ!

麻倉氏:まずはOLED(有機EL)デバイスのおさらいから入りましょう。1987年にコダックの蠟青雲(C.W.タン)博士らが太陽電池研究の一環として有機材料によるEL(エレクトロ・ルミネッセンス)現象を発見し、この時に非常に話題になりました。というのも、1980年代後半は“CRTの次”を模索していた時代で、液晶はようやく出たばかり、プラズマはまだまだであり、次世代デバイスがスタンダードの座を巡って群雄割拠していたんです。

 その後パイオニア(現在の東北パイオニア)が、TFTを使わない有機ELのパッシブ・マトリクス発光でカーオーディオの表示として世界初の実用化を果たしました(ただしこの時は非フルカラー)。さらに2001年にはソニーがフルカラーの13型OLEDを発表し、ディスプレイデバイスとして着々と進化を遂げていきます。私も実際に見たのですが、これがあまりに凄い画質で本当に衝撃を受けました。

――研究試作の段階で、有名な11インチテレビとはまた別ですね

麻倉氏:この時の薄型テレビは、ノイズは多い、コントラストは低い、階調は出ない、黒は浮く、色は薄い、フォーカスは甘いと行った具合で、液晶もプラズマも画質を語るような次元ではありませんでした。画質評論の世界では “液晶3悪”という言葉が有名ですが、私に言わせれば“たった3つ”ではとても収まりません(苦笑)。そんな液晶の画質が良くなりだしたのは2008年ごろで、バックライトがCCFL(冷陰極管)からLEDになり、ローカルディミングで階調を出せるようになってからです。

 ところが2001年のソニーOLEDときたら、コントラスト、応答速度、視野角と、どれを取っても凄かったんです。私はそこに未来のディスプレイのあるべき姿を見ました。その頃のソニーはトリニトロンの次として、液晶・プラズマを飛び越してOLEDとFED(Field Emission Display、ブラウン管を極小化して画素として敷き詰めたような方式)を競わせていました(後にOLEDを本命に据えて、今に至るというわけです)。私の評論家生活の中でも“衝撃画質第2位”くらいの体験で、これ以降OLEDエヴァンジェリストを買って出るようになりました。

――第1位の衝撃はまたの機会にお話しいただくということにして、先生をしてそこまで言わせるとは、相当凄かったんですね。是非ともお目にかかりたかったです

麻倉氏:そんな OLEDが実際の製品として凄さを発揮したのは、2007年のソニー「XEL-1」。世界初のOLEDテレビとして有名な11インチですね。私の書斎にはプラズマの最高峰としてデスク奥にパイオニア「PDP-5000EX」、デスクトップにソニーXEL-1を今でも置いています。間違いなく当時最高の絵だったパイオニアに対して、ソニーの解像度は960×540ピクセル、画素数はわずか52万画素足らずで、フルHDの4分の1しかありません。にも関わらず、奥(パイオニア)と手前(ソニー)を見比べると、手前の方がはるかにハイフォーカスなんです。

 これはなぜかというと、人間の目は低コントラスト高解像度よりも、高コントラスト低解像度の方が、解像“感”が高いという特性があり、OLEDはコントラストが良いから黒の微小な部分まで沈む、というのが答えです。今まで色んな所に呼ばれて様々な画質評価をしてきましたが、サムスンSDIでケータイ用のXGA液晶とVGA OLEDを比較した時、画素数の少ないVGA OLEDの方が圧倒的に解像感が高かったのが記憶に残っています。例え高画素数でも、黒浮きする液晶では質感以前に解像感が出ない。そこがOLEDは数字以上に良かったわけです。速さや視野角も当然良く、私はこの頃から既に「未来はOLEDで決まり」と話していました。

2001年にソニーが発表したOLEDディスプレイ。この時はまだ800×600ピクセルという解像度の試作品だったが、従来とは一線を画する画質に麻倉氏は強い衝撃を受けたという
麻倉氏の書斎にある「XEL-1」。民生品として世界初のOLEDテレビ。圧倒的高画質が話題となったが、この次にソニーがOLEDテレビを出すまでには実に10年の歳月を要した

麻倉氏:ところが、日本メーカーはかなり良いところまで行っておきながら、製品化までのあと1歩が到達できませんでした。2012年、2013年に、ソニーとパナソニックがOLEDの共同開発の成果を発表します。パネルサイズは56型で、マザーガラスではなく切った後に蒸着する「枚葉取り」(まいようどり)という方式を採用していましたが、これは大型化できず生産性も悪い手法です。パナソニックは2013秋に年に56型から55型になり、マザーガラスを使った印刷型へ切り替えます。この時は量産まで秒読み段階のレベルだったのですが、 “最後のあと一歩”が足りずにギブアップしてしまいました。そしてサムスンとLGの激しい戦いとなり、LGだけが最後までリングに踏み留まって今に至ります。

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