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ライブストリーミングも「インタラクティブ」の時代へ、双方向ライブ動画で広がる可能性

» 2017年10月26日 06時00分 公開
[山本直子ITmedia]

 動画の「生放送」を可能にするライブストリーミング機能がFacebookやInstagramなどに加わり、若いユーザーを中心にライブ配信が人気を博している。視聴者はテキストのコメントや絵文字で反応を示し、楽しんできた。

 そんな中、今度は「双方向」のライブストリーミングが登場した。ライブ配信に対して、視聴者がライブ動画でリアクションするというコミュニケーションに進化した。双方向ブロードキャスティングで、新しいサービスやマーケティングの可能性が広がっている。

インタラクティブ・ライブストリーミングを利用した米ミネルバ大学のディスカッションクラス(YouTubeより)

SNSで広がるライブ配信

 ライブストリーミングサービスは2015〜2016年、FacebookやTwitter、Instagramなど人気のSNSに次々と取り込まれ、ユーザーたちは自らが撮影したライブ動画を家族や友達とリアルタイムで共有できるようになった。日本でも「ニコニコ生放送」などがライブストリーミングの動画共有サービスを提供しており、視聴者はコメントや絵文字でリアルタイムに反応できる仕組みになっている。

 「Facebook Live」で多くのビューを獲得した例を見ると、「FOX2」のニュースアンカーだったジェイソン・カー氏が新しい職場に移動するまでの様子を生中継したものや、ある米国人女性が息子のために買ったスターウォーズのキャラクターマスクをかぶって試す、という日常のたわいない1コマを映したものまでさまざまだ。

スターウォーズのキャラクターマスクをかぶったキャンディス・ペインさんのライブ動画は、1億7000万以上のビューを獲得。ライブ配信中にはたくさんのコメントが寄せられた(Facebookより)

 ライブ配信をマーケティングにうまく組み込むケースも多く見られ、障害物競争イベントの運営会社「Tough Mudder」は、フィットネスイベントをライブ配信。イベントに来られなかった人びとをも巻き込み、さりげなく同社の存在を宣伝することに成功した。また、女性誌『Grazia』は英国のEU離脱について読者とのディベートを生中継。リアルタイムで送られてくる視聴者の質問や意見を取り入れながら討論を展開し、読者が作るブランドイメージを拡散した。

 他にも料理番組、対戦ゲームの実況、オンラインセミナー、株主総会、社員研修など、ライブストリーミングはさまざまな場面で広がっている。シスコの調査によると、ライブストリーミングによる動画配信がインターネットトラフィックに占める割合は現在66%で、2020年までには82%に達する見通しという。

双方向ブロードキャスティングで7人が同時コミュニケーション

 ライブ動画の視聴者は、これまでテキストや絵文字で反応してきたが、出演者と視聴者という1対nのコミュニケーションの中では「見る側」的な存在だった。しかし双方向のライブストリーミングの登場により、視聴者もライブ動画によるリアクションが可能となり、双方がより能動的にコミュニケーションできるようになった。

 この機能を可能にしているプラットフォームの1つに、米カリフォルニア発の「Agora.io」がある。インフラ投資や難しいシステム変更は要らず、ユーザーはSDKをダウンロードしたり、APIを利用したりすることで、Facebookなど既存のアプリにインタラクティブ・ライブストリーミング機能を追加できる。

AgoraのSDKとAPIで既存アプリにインタラクティブ・ライブストリーミング機能を追加(Agora公式サイトより)

 同社のインタラクティブ・ライブストリーミングでは、一度に7人が動画でリアクションできるほか、1万人の視聴者がテキストでコメントを配信。また、視聴者同士のチャットも可能だ。全世界ですでに5億2300万人以上が同社のSDKをインストールしている。現在は双方向のライブ配信可能人数を25人まで拡大するべく、開発を進めているという。

 同じく米カリフォルニア発の「TokBox」も「OpenTokプラットフォーム」で双方向ライブストリーミング・サービスを提供している。同社はWebRTC技術を使用しており、ユーザーはコードを書き込むだけでウェブやモバイル上の既存のアプリにインタラクティブ・ライブストリーミング機能を組み込むことができる。同サービスは3000人の視聴者に対応。双方向のライブ配信は3人までと、Agoraに比べてネットワーク規模は小さいが、メディアやサービス業を中心にユーザーが広がっている。

「TocBox」公式サイト

オンライン討論からヨガレッスンまで

 TokBoxの顧客である大手メディア「Fox Sports」は、インタラクティブ・ビデオショー「Huddle」の中で、スタジオと競技場とファンの映像をライブ配信。3人の動画を画面に並べ、自宅のファンが直接、プレーヤーやコーチにコメントしたり、質問したりできる番組にし、視聴者との距離を縮めるのに成功した。

Fox Sportsではスタジオと競技場とファンのビデオをライブ配信(YouTubeより)

 また、米カリフォルニア州のミネルバ大学では、少人数のディスカッションクラスを双方向ライブストリーミングで実施し、実際に顔を合わせながらの討論を展開している。学生たちの間では、「どこにいても授業を受けられる」と好評。ある男子生徒は「ライブ動画でインタラクティブに討論できるので、受け身でなく、アクティブに授業に参加できる」とコメントしている。

 オンライン・ヨガレッスンを提供する「Yogaia」では、ライブ配信でグループセッションを実現。双方向で動画を見ながら、生徒が質問したり、先生が生徒の動きを修正したりすることが可能になった。同社は世界中のネットワークを使って、オンラインで24時間100以上のヨガレッスンを主催。空いた時間に自宅で授業を受けられる利便性が大いに評価されている。

 このように、双方向ライブストリーミングは多くの分野で用途が広がっている。これまでになかった双方向ブロードキャスティングの到来は、文化的、社会的、商業的に大きな潜在力を秘めている。視聴者がテキストや絵文字だけで反応していた時代が「一昔前」になる日は近いかもしれない。

ライター

文:山本直子

編集:岡徳之(Livit)


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