――ファミコンブームの時、高橋名人は“ファミコン界のスター”というイメージで、“ハドソンの高橋名人”というイメージはなかったと記憶しているのですが、そういう戦略をとられていたのでしょうか?
高橋 「私とハドソンがイコールでつながっていない」という認識を私は持っていませんでした。テレビやイベントで私があいさつする時に「ハドソンの高橋です」と言っていましたから。私がテレビでやるゲームも、ハドソンのゲームだけでした。
当時ほかの会社も「“名人”というのがこのゲームを面白いと言ったら、すっげえ売れるぞ」ということで、各社が40人くらい名人を出していました。東京ゲームショウの前身に、CSG(コンシューマソフトウェアグループ)という各ソフトハウスが少額ずつ出し合って行ったイベントがありました。それを高橋名人の面白ランドで取材した時に、私がMCとなって各メーカーさんのブースに行ったのですが、「さあそれではこのゲームを紹介してくれるのは、●●という会社の●●名人です!」というのを全社でやりましたからね。名人が「●●名人です!」と紹介する変な番組を30分やりました。
逆に言うとそう思われていたのは、(他メーカーの名人たちと差別化できたので)良かったんでしょうね。ただ、本当に戦略ではないです。昔のビデオを持っている方は巻き戻して見ていただくと、「ハドソンの高橋です」と必ず言っているはずです。ファミコンしているところしか、みんな覚えてないんですよね、個人のことはどうでもいいのでしょう。
――ありがとうございます。でもそれってよく言われませんか?
高橋 言われます。特にこの3〜4年で「名人ってハドソンの社員だったの?」と言われるのが多くなりました。逆に「その頃気付けよ」と(思うのですが)。
――先ほど東京新聞の方でスーパーヒーローと出ていましたが、“高橋名人”という社会現象は高橋さんという優れた個人がいたから生みだせたのか、それとも時代の流れによるもので、高橋さんがいなくても別の人が代わりに起こせていたのか、というところを謙遜されないお言葉でうかがいたいです。
高橋 私からは非常に言いづらいことですが、広報さんや他社の宣伝をしていた人、経営者の方からは「名人が高橋さんで良かった」とよく言われます。それまでのパソコンの世界では、「(ゲームをやる人は)暗い部屋に1人こもって遊んでいる」というイメージが強かったんですね。当然、見た目は青白くて、ひょろっとしているというイメージになります。そこにドラえもんのジャイアンみたいなやつが出てきたわけです。お山の大将的な感じで「ほら、みんな外で遊べー!」とか「ゲームは1日1時間」とか言っているわけです。だから「ゲームは健全だ」というイメージが世間に浸透したのだということです。これは私の言葉ではないですよ。
ハドソンには宣伝担当がもう1人いて、たまたま私がファミコン担当でもう1人がパソコン担当になったのですが、これがもし逆だったらおそらく失敗していたと私は思います。人前である程度喋れないといけないし、それからゲームなので子どもに負けちゃダメなんです。子どもはすごく残酷ですから、負けるともうダメなんです。
なぜハドソンで私が名人になったかというと、一番簡潔な答えは「お金がなかったから」です。今、宣伝という仕事をされている方が「何かをアピールする人を作りたい」と思ったら、タレントさんを年間契約でお願いしますよね。でも、タレントさんの年間契約金を払って、なおかつ言ってもらいたいことを覚えてもらって、ゲームのテクニックを覚えてもらってとやるほどハドソンにはお金がなかったのです。だから、給料以上払わなくていい宣伝部の社員、ということで私に来たと思います。まあ、謙遜して言うわけではないですが、私だから(社会現象になったの)ではないかと思います(会場拍手)
――ゲームを作る登竜門としての「ベーマガ※」、ゲームをプレイする人たちの先導者役としてのインストラクター、つまり「名人」という2つの要素が日本のゲーム業界では特徴的だと思います。そのうちのインストラクターという存在が今のゲーム業界には欠けているように感じるのですが、それについてどうお考えですか?
高橋 インストラクター的な立場の存在は、私も必要だと思っています。メーカーさんのCMを見ていると、「有名なタレントさんを使って、先導役にしようとしているのではないか」とも思います。ただ、今は「この有名な人を使っていれば、みんなが注目してくれるんじゃないか」という意味合いが強いようですが。しかし、インストラクターのような人を使う戦略がこの数年成功していないかというと、『脳トレ』のように成功している例がありますよね。
――『ムシキング』もそうだと思うのですが、まずブームが沸き起こってそこから動かされてインストラクターが出てきてという感じで、まずインストラクターありきという例はないと思うのです。
高橋 例えば今、雑誌やテレビで私が「高橋名人です」と出て何かを紹介しても、そこだけで騒いでいるだけではブームにならないと思います。まずブームを作る大前提として、ユーザーの中でクチコミでいいので、ある程度広まっていなければいけないんです。さざなみが立っている状態でなければいけなくて、何もない水面に石をポトッと投げても難しい。波が立っていれば、宣伝の力やキャラクターを使って大きくできると思います。ただ、このごろの日本人は昔と違って何事についても基本的に他人事になってしまっているので、インストラクターは必要なのですが出てこられないのではないかと思います。
――名人が今はまられているゲームを教えてください。
高橋 iPhone用の『Field Runners』と『Subway』というパズルゲームにはまっています。後はこのごろ通勤中にゲームをすることが多いので、ニンテンドーDSiで『ドクターマリオ』をやったりしています。このごろ「ゲームは1日30分」かもしれない。
――コンシューマ(家庭用ゲーム機)ではありますか?
高橋 コンシューマですか……(8秒沈黙)、バンダイナムコさんが出している戦闘機ものが好きです。あれだけはシリーズで持っていて、操縦桿のコントローラもすべてそろっています。
プログラムが終わると、高橋氏の前には名刺交換のための長い列ができた。筆者も名刺交換をすると、高橋氏の名刺にはやはりあの肩書きが記されていた……。
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