これはTOTOにとってもありがたい。先ほどの「自社調査」にケチをつけるつもりはないが、実は世界のほとんどの国の人たちは「ウォシュレット完備」を求めているどころか、「ウォシュレット」というモノを見たことも聞いたこともないという人のほうが圧倒的に多い。先進国も同じで、欧州では人口に対して普及率1%未満の国がほとんどもいわれている。
米国でも知名度は低く、1990年にTOTOが進出を果たしたものの今日に至るまで苦戦を強いられている。その理由はTOTOで長くウォシュレットの開発に携わってきた林良祐氏の『世界一のトイレ ウォシュレット開発物語』(朝日新書)に詳しいが、一言で言ってしまうと「文化の違い」である。
米国ではセントラルヒィーティングの関係で電気工事がえらく面倒くさいということに加え、シモの話はおおっぴらにするものではないという考えが強く、「尻を洗う」なんて宣伝文句をうたっただけで顔をしかめられるのだ。そんな拒否反応をあわらすエピソードがある。実はウォシュレットを開発したのは米国人だ。痔などの医療用としてデザインされたのだが、それがあまりに不評で、1964年の東京五輪の時、TOTOにライセンスを譲ったという経緯がある。
もちろん、ウォシュレットが米国のメディアなどに取り上げられることはあった。ハリウッドのセレブなども来日してウォシュレットに感銘を受けたなんてネタはよく報じられる。俳優のレオナルド・ディカプリオが自宅に設置したなどとも言われ、ブレイクの兆しもなかったわけではないが、長野五輪で米国のメディアがウォシュレットよりも暖房便座のほうに注目をしたように、なかなか文化の壁が崩せなかったのである。
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