第6回 電車を撮ると歪んで写る理由とその対策:荻窪圭のiPhoneカメラ講座
電車の中から景色を撮ったり、外から電車を撮ったりすると、景色や電車が歪んでしまうことがある。これはCMOSセンサー特有の現象で、スマホのカメラでは原理的に避けられないのだ。これ、本当に避けられないのか。いや実は、ひとつ手があるのだ。
例えば、東海道新幹線で東京から大阪へ行くとか、あるいは京都から東京へ行くとか、そんなとき、E席に座ってて晴れてて昼間だったりすると、富士山がいきなり現れて、角度によっては障害物が全然なくて、「おっ」と思うじゃないですか。で、思わず手近にあったiPhoneを取り出して窓越しに富士山を撮るじゃないですか。というか、撮るよね?
すると、こんな風に写る。
富士山はそれなりにきれいに撮れてるんだけど、よく見るとヘン。下の方がヘン。壁が思い切り斜めに歪んで写ってるのだ。もちろんまっすぐ垂直になってるものである。それが歪む。
例えば、小田急線の世田谷代田-東北沢間が地下になるとか、東急東横線渋谷駅が地下になる、てなときに、たまたまもう消えてしまう踏切で電車待ちをしてると、記念にiPhoneで1枚撮っておこうとか思うじゃない。というか、撮るよね? 実際、ケータイやデジカメを持って通過待ちしてる人多かったし。
でもこの写真もよく見るとヘン。車両の最後尾を見ると、ちょっと斜めになってる。後ろのマンションと見比べるとよく分かる。マンションが斜めに建ってるのでもなく、列車が実はこういうデザインになってるってことでもなく、撮影時に斜めに歪んでしまったのだ。
「ローリングシャッター歪み」を防ぐには
これ、一般に「ローリングシャッター歪み」と呼ばれるもの。動画撮影時は特に出やすくて、ちょっとした振動でぐにゃっと写るから「こんにゃく現象」といわれることもある。
分かりやすく説明するとこんな感じ。次の3枚を見比べていただきたい。天気が悪くて暗かったので、シャッタースピードが遅くなった分、被写体が思い切りブレちゃってるけど、そこは目をつぶって。
ドアが平行四辺形に歪んでるのだけど、歪む方向が違う。こんな現象が起きるのだ。
詳しく書くとややこしいのではしょるけど、これはCMOSセンサー特有の現象で、1ラインずつ順次信号を読み出していくため、高速に動いている被写体があると(あるいはカメラが高速に動いていると)、上と下の時間差でこんな風に斜めに歪んで写っちゃうのだ。
ちなみに本職デジカメで撮ってもこの現象は起きない。(ほとんどの)デジカメはこれを防ぐための機構(メカニカルシャッター)を持っているからだ。iPhoneなどのスマートフォンにはそんな機構を入れるスペースもコストもないので、原理的に避けられないのだ。iPhone 5は昔のiPhoneに比べると歪みが出にくくなってるけど(たぶん、読み出し速度が上がってるからだと思う)、出ないわけじゃない。
これ、本当に避けられないのか。いや実は、ひとつ手があるのだ。
歪んでないでしょ。つまり、縦位置で撮ればいいのだ。では縦位置で新幹線の中から富士山を撮ってみよう。
手前の壁もまったく歪んでないのが分かると思う。
ついでに世田谷代田駅の踏切を通り過ぎるロマンスカー(EXE)もどうぞ。
ちょっとした小技である。ただし、ローリングシャッター歪みが出てないわけじゃない。縦位置で撮ると、斜めにならない代わりに伸びたり縮んだりするのである。
先ほどの静止した状態の写真と見比べると、まったく同じ車両ではないのでアレだけど、縦位置で撮った方は斜めにはなってないけど、ドアが妙に横に広い。ローリングシャッター歪みのせいであります。でもまあ多少は目をつぶろうってことで、左右に高速に動いてる被写体を撮るときは縦位置で狙えばよし、と。
ちなみに、カメラと被写体との距離が遠ければこの歪みは無視できます。例えば冒頭の富士山の写真、手前の壁は歪んでるけど、遠くに見える煙突は斜めになってないでしょ。だから被写体が遠距離にある場合は気にしなくてよいです。
今週の小技:必殺! 流し撮り
実は歪みをごまかす技がもうひとつある。流し撮りである。目の前を通り過ぎる列車(まあ列車じゃなくてもいいけど、高速に移動する被写体)を撮るとき、相手のスピードに合わせてカメラを動かしながら撮る技。カメラと被写体の相対速度をゼロにしようという技だ。
慣れないと難しいけど、コツは2つ。ひとつは「カメラは腰で回せ」。腕だけで動かすんじゃなくて、腰ごと回す。カメラをちゃんと水平に動かさないといけないからね。
もうひとつは、撮りたいと思う方向に身体を向け、そこから左(あるいは右)に腰をひねった状態で待ち、被写体を画面に捉えながら腰のヒネリを戻していく感じで撮るべし。
iPhoneのカメラは連写機能を持たないけど、連写可能なアプリを使うという手もある。これは「FastCamera」という連写カメラアプリを使って撮った写真。フルサイズで連写できるのでお勧め。
流し撮りになれないうちは、連写アプリを使うのも手であります。
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