コラム
» 2004年01月13日 17時42分 UPDATE

2004 International CESまだ残っていた“日本の音”

エネルギー変換効率85%の1ビットアンプ、リスニングポイントを変えても音が変わらない多面体スピーカー。創意にあふれた日本のオーディオベンチャーをCESで訪ねた。

[本田雅一,ITmedia]

 International CESの最終日午後。初日から毎日夕方6時まで開く会場も、最終日は4時には店じまい。小さなベンダーは昼を過ぎると、徐々に撤収を開始する。そんな折、ハイエンドオーディオ機器ベンダーの展示が行われているアレクシス・パークというリゾート・ヴィラに足を運ぶことを毎年の定番にしている。AV機器ベンダーが主役のCESだが、今やすっかりニッチ産業となったオーディオ業界。だが、きちんと文化としてのオーディオをフォローしているところは、さすがにCEA(家電協会)主催のCESならではと言える。

 プールをヴィラが囲み、それぞれの部屋にインストールされたオーディオが奏でる音楽を楽しみながら取材を行うアレクシス・パークの風景は、メイン会場のラスベガスコンベンションセンターと同じ展示会とはとても思えない、ゆったりとした空間がある。

 世界に名を馳せるハイエンドオーディオメーカーが集まるアレクシス・パークだが、今回はあえて日本のオーディオメーカーを訪ねてみた。

Innovation Awardsを受賞した浜松のベンチャー

 International CESでは、技術やデザイン、製品アイディアなどの面で革新性が認められた製品に対し、Innovation Awards(関連記事を参照)という賞を授与しているが、浜松にある小さなオーディオベンチャー企業がこの賞を取った。フライングモールという、ちょっと変わった名前を持つオーディオベンダーは、ヤマハのオーディオ部門からスピンアウトした技術者が設立した会社である。

 フライングモールの“ウリ”は、1ビットのデジタルストリーム信号をそのまま増幅するデジタルアンプの技術にある。1ビットアンプの仕組みはここでは割愛させて頂くが、原理的には正確でスピーカーの駆動力も高い、素晴らしいパワーアンプを作れる。しかし、実際には位相管理などの難しさなど技術的に困難な面もあり、ハイエンドオーディオ向けに発売されている1ビットデジタルアンプは意外に少なく、また全般的な評価としてアナログアンプに及ばない面もある。

 ハイエンドオーディオは、特性よりも感性の製品で、我々のようにテクノロジ面から取材を行う記者には、うまく良さを語れない部分もあるが、中高域がスッキリしすぎて多少物足りなさを感じるものの、締まった低域や誇張の少なさは非常に魅力的。そんな風に感想を語れるのは、実はフライングモールの「DAD-M1」という小型アンプを、個人的に評価で利用したことがあったからだ。

 フライングモールのアンプがユニークな点は、そのエネルギー変換効率にある。なにしろエネルギー変換効率が85%にも達するのだ。高級トランジスタアンプや真空管アンプは、エネルギーのほとんどを熱として放出する。捨てる電力は数100〜数1000ワットにもなる。85%という数字は、間違いじゃないだろうか?と疑うほど高い。

 エネルギー変換効率が高いということは、多くのアンプを高い密度で実装できることを意味している。実際、前述したDAD-M1というアンプは、はがき程度のサイズに電源も一緒に実装しながら、最大180ワットという大出力を出すことが可能だ。

photo Innovation Awardsを受賞した「DPA-M1616 Cascade」
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 今回、CESでInnovation Awardsを受賞したのは、DAD-M1と同じアンプモジュールを利用した、16チャンネル(チャンネルあたり出力180ワット)のスタッカブルアンプ「DPA-M1616 Cascade」。ステンレス製の4U19インチラックシャシーに、2チャンネルごとに独立したアンプユニットを最大8台設置可能。モノラル出力で300ワットのモジュールも選択できる。

 まるでスタッカブルハブのような高密度実装だが、動作中のアンプに直接手を触れてみても暖かい程度。エネルギー変換効率が高いからである。

 米国ではリフォーム時に、オーディオシステムを各部屋にカスタムインストールする事も珍しくない。その場合に、質が良く高密度で実装できるアンプを集中的に配置。各部屋のスピーカーにつなぐといった用途に応えるための製品と言える。もちろん、スタジオなどの業務用にも適しているだろう。

 日本では5.1チャンネルから7.1チャンネルへと、マニア向けシステムの主流が移ろい始めている中、8チャンネルの手頃なパワーアンプが欲しいところ。フライングモールでも、8チャンネル出力のよりコンパクトな製品も、視野に入れているという。

多面体のスピーカーが作り出す不思議な世界

 このフライングモールを取材に行ったところ、同じスイートの隣の部屋でソリッドアコースティックスという会社が、不思議な多面体のスピーカーを展示していた。ちょうど居合わせた社長の川上巌氏に話を伺うと「日本でもいろいろとプロモーションを行いましたが、“これ、AV用にはいいかもね?”と言って、なかなかちゃんと音質を評価してくれない。しかし今回のショウでは、みんな印象的だと話してくれ、同じ人が何度も繰り返し音を聞きにきてくれた」という。

photo ソリッドアコースティックスの多面体スピーカー。正12面体の各面にフルレンジスピーカーユニット1つを搭載する

 音を聞いてみると、それも納得だ。筆者はオーディオ機器の質にはこだわる方だとは思うが、決してオーディオマニアではない。従って、マニア同士のトークに出てくる「今度のヤツは全然違う」という言葉には耳を貸さない質だが、デモルームに置かれていたSIKKIM(シッキム)というスピーカーから出てくる音は、あまりにも普通のスピーカーとは違いすぎて驚きを隠せなかった。

 このユニークな形をしたスピーカーと同タイプのものが、東京・青山のブルーノート東京の天井からぶら下がっていたのは知っていたが、ブルーノートではリバーブ成分のみしか再生していないそうで、実際にどんな音がするのかを知ることは無かった。

 実際に音楽を再生して出てくるのは、何とも不自然さのないリラックスできる音である。しかも驚くほど音像定位が良い。小口径のフルレンジユニットは、分割振動でレンジを広げるため歪みっぽさが気になる場合もあるが、多数のスピーカーを同時に鳴らすためか、その傾向も感じない。さらには球形に近い形状で、あらゆる方向に音が放出されるため、リスニングポイントをどの位置に取っても、音があまり変わらない。なんとも不思議な体験なのである。

 川上氏によると各スピーカーユニットは、互いに振動を打ち消し合うように配置しているとのことで、音を大きくしてもエンクロージャーがほとんど振動しないという。このため「天井から吊す場合でも、スタンドで床置きにする場合でも、振動がほとんど伝わらず、集合住宅などで近隣の部屋に迷惑をかけることがない(川上氏)」というのも、大きな特徴と言えるだろう。

 SIKKIMはペアで31万5000円というプライスタグが付いているが、店舗などのオーディオ用として安価な業務用モデルも近日中に発売するそうだ。2本でも10万円を切る価格になる。

 この低価格版でも、ライトユーザーには高価なスピーカーに感じるかもしれないが、筆者のように自分の部屋でパソコンの前に座って仕事をしている人間には、なかなか魅力的な製品に映った。PCを置いたデスクサイドは混雑しがちで、高品質のスピーカーを置く場所は確保しにくい。しかし、ソリッド・アコースティクスの多面体スピーカーなら、天井からぶら下げて、部屋のどこでも同じように高音質を楽しめ、しかも振動が他の部屋に伝わりにくい、という非常に理想的なスピーカーになり得る。

 定位が良いため、AV用のサラウンドシステムにも向いているだろう。川上氏によると、センタースピーカーの音声成分をミックスダウンし、4.1チャンネルで鳴らしてもセンター成分がきちんと真ん中に定位するという。

まだまだ捨てたものじゃない?

 日本のオーディオ製品は、ある時を境にスペックばかりで、感性に届かないものが多くなったように思う。計測器で測った特性は良いが、実際の音は“悪いわけじゃないんだけどね”といった程度のものが多い。スピーカーは特にそうだ。一昨年になるが、プライベートでオーディオ用スピーカー購入を検討したとき、国産品は全く候補に挙がらなかった。理由には世の中の評判もあるが、一聴しただけで“つまらない”、もしくは“好きになれない”と感じるものばかりだったからだ。感性に訴える部分を、全く感じなかったからだ。

 では、ベンチャー系ではどうか?というと、日本のオーディオベンチャーの中には、オカルト的理論を引っさげた、今ひとつ近付きがたい、(失礼ながら)怪しいところも少なくない。しかし、今年出会ったアレクシス・パークでの日本のベンダーは、いずれもなかなか興味深い。特に多面体スピーカーの与えてくれた不思議に安らぐ感覚は、当面忘れられそうにない。

 日本のオーディオベンダー。まだまだ捨てたものではないのかもしれない。

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